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メーガン妃とヘンリー王子の王室離脱MEGXITは回避できるのか エリザベス女王らと直接交渉

木村正人在英国際ジャーナリスト
沈んだ表情を見せるエリザベス女王(1月12日、サンドリンガムで)(写真:ロイター/アフロ)

全てを失えば、全米ネットワークで全てをぶちまける

[ロンドン発]英王室のヘンリー王子(35)と妻の元米女優メーガン妃(38)が「王室のシニアメンバーとしての地位から退き、財政的に独立する」と宣言した問題で、エリザベス女王が滞在する英中東部ノーフォーク州サンドリンガムで13日、鳩首凝議(きゅうしゅぎょうぎ)が行われます。

出席者はエリザベス女王、チャールズ皇太子、王位継承順位2位のウィリアム王子と当事者である同6位のヘンリー王子。独立宣言をインスタグラムとウェブサイトに投稿したあとカナダに舞い戻った“首謀者”メーガン妃はメッセンジャーアプリのワッツアップでヘンリー王子と連絡を取り合うようです。

大きな争点は5つあります。

(1)王室の称号(サセックス公爵やサセックス公爵夫人)

(2)ソブリングラント(王室の活動費)10万~200万ポンド(1425万~2億8500万円)と皇太子に属するコーンウォール公爵領からの利益の配分200万ポンド(約2億8500万円)

(3)公務

チャールズ皇太子 521回

アン王女     506回

エリザベス女王  295回

アンドルー王子  274回

ウィリアム王子  220回

キャサリン妃   126回

ヘンリー王子   201回

メーガン妃    83回

フィリップ殿下が高齢のため公務から引退。勾留中に自殺した米富豪ジェフリー・エプスタイン被告の未成年性的搾取疑惑に関連してアンドルー王子が公務から解任されたばかり。王位が継承された後のことを考えると、ヘンリー王子とメーガン妃が抜けてしまうと公務がさばき切れなくなる恐れがあります。

(4)ヘンリー王子とメーガン妃の「サセックスロイヤル」ブランドを使って独自に活動し、自己資金を調達(英大衆紙デーリー・メールは7200万ポンド、日本円にして約102億6600万円と試算)する権利を認めるか否か

(5)最大6人の警察官による身辺警護、年間予算60万ポンド(約8600万円)

英紙デーリー・メールの試算をもとに筆者作成
英紙デーリー・メールの試算をもとに筆者作成

ヘンリー王子はメーガン妃とアーチーちゃんと運命をともにする覚悟なので、最悪のシナリオはヘンリー王子とメーガン妃が自由な活動と資金調達を認められる代わりに、サセックス公爵やサセックス公爵夫人といった王室の称号、王族としての特権をすべて失ってしまうことです。

その場合は、メーガン妃とヘンリー王子は友人の米人気司会者オプラ・ウィンフリーさんや英民放ITVのトム・ブラッドビー氏の番組に出て、全てをぶちまけると脅していると報じられています。

“メーガンの法則”とは

イギリス王室の歴史は9~10世紀に遡るので、近代化が進み、ある程度は市場主義を取り入れているとは言え、王室には数え切れないほどのプロトコルが存在します。

これに対してメーガン妃は自由の国アメリカの中でも競争が厳しいハリウッドの荒波を生き抜いてきたバリバリのキャリアウーマン。王室の古臭さに我慢がならないようです。

メーガン妃には「マーフィーの法則」ならぬ“メーガンの法則”があるようです。過去のスピーチから彼女の人生哲学を拾ってみると――。

ヘンリー王子とメーガン妃の結婚式(2018年5月、ウィンザー城のロングウォークで筆者撮影)
ヘンリー王子とメーガン妃の結婚式(2018年5月、ウィンザー城のロングウォークで筆者撮影)

「5年かけてやるつもりのないものに5分も時間を使ってはダメ」

「何かを生き抜くだけでは十分ではないでしょ? それが人生のポイントではありません。成功しなければなりません。幸せを感じなければなりません」

「私はランチをしているレディになりたいと望んだことは一度もない。私は働く女性になりたいと常に望んできた。こうした仕事が私の魂にエネルギーを注いできた」

「闇雲にアプローチしなさい。オーディションと同じよ。それは数当て賭博」

「タイプミスのある電子メールをとっておく? 忘れてしまいなさい」

「フェミニストになるために着飾る必要はないのよ。あなたの生き方そのものがフェミニストであることよ」

「小局にとらわれず、大局をとらえるようにしなさい」

「すべてがエキサイティング。小さなことに感謝しなさい。それが楽しむコツ」

義理の姉「分断し、征服するのがメーガンの戦術よ」

今回の騒動の震源は「英王室に閉じ込められることは自分の人生にとって何の成功にもならない」と考えているメーガン妃のライフスタイルにあるのは間違いありません。

ヘンリー王子と結婚し、アーチーちゃんを出産したことで自分たちの「サセックスロイヤル」ブランドの価値が高騰していることも背景にあります。

メーガン妃の父方の義理の姉サマンサ・マークルさんは英大衆紙サンに「分断し、征服するのがメーガンの戦術よ。彼女はマークル家でも同じことをしたわ」とぶちまけています。

『ダイアナ妃の真実』で世界中にセンセーションを巻き起こしたアンドリュー・モートン氏の伝記『メーガン:ハリウッドのプリンセス』にはメーガン妃の元夫で映画監督トレヴァー・エンゲルソン氏について「彼はメーガンの靴の底にひっついた何かだった」という友人の証言が紹介されています。

エリザベス女王が高齢になったため、いつの日か必ずやってくる王位継承に備えて王室のスリム化、女王からチャールズ皇太子へ、チャールズ皇太子からウィリアム王子へのバトンタッチの準備が急ピッチで進められています。

その中で上昇志向が強いメーガン妃が将来の自分たちの役割と財政に危機感を持ったという面も否めないと筆者は思います。

皇太子に属するコーンウォール公爵領の利益配分、ロンドン郊外ウィンザーのフロッグモア・コテージの居住権、最大6人の警察官による身辺警護といった特権を2人は維持したいようです。

板挟みのヘンリー王子

ヘンリー王子はかつてロイヤルファミリーの「お騒がせ王子」でした。

ハメを外すことが多いヘンリー王子は20歳の頃、仮装パーティーにナチスの制服を模したスタイルで登場したり、パキスタン出身の陸軍の仲間を「かわいいパキの友だち」と呼んだりして批判されました。

2012年にはラスベガスの高級ホテルのスイートルームで全裸になっている姿を撮影されたこともあります。2015年に陸軍を除隊。2016年12月には最愛の母ダイアナ元皇太子妃を失った時の気持ちを率直に打ち明けています。

「僕は実際のところ何が起きたかに背を向けてきました。胸の中で封印した感情はたくさんあります。人生の大半、僕は本当に母の死について考えたくありませんでした。しかし僕は昔の自分とは大分違う見方で人生を見ています」

ヘンリー王子は陽気ないたずらっ子、国民の人気者です。バラク・オバマ前米大統領と協力して、傷病兵らによる国際スポーツ大会「インビクタス・ゲームズ」を支援する名オーガナイザーぶりを発揮するようになりました。

初の公務で照れに照れたヘンリー王子と、メーガン妃(2017年12月、ノッティンガムで筆者撮影)
初の公務で照れに照れたヘンリー王子と、メーガン妃(2017年12月、ノッティンガムで筆者撮影)

メーガン妃との婚約発表後の2017年12月、2人が初公務で訪れたノッティンガムで沿道の男性から「おいジンジャー(赤毛)、お前にはもったいない嫁さんを見つけたな」と冷やかされ、ヘンリー王子も照れていました。

最愛のエリザベス女王、チャールズ皇太子、ウィリアム王子と対立してまで“嫁”のメーガン妃に寄り添うヘンリー王子。ヘンリー王子のメーガン妃とアーチーちゃんへの愛は純粋で本物だとしても、メーガン妃の愛が本物かどうか筆者には分かりません。

繊細なヘンリー王子の内面と人生が破壊されないことを祈らずにはいられません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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