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人間よりコンピューター信じた悲劇 富士通の会計システムに欠陥 英国の準郵便局長550人冤罪に苦しむ 

木村正人在英国際ジャーナリスト
英国の郵便局。窓口業務はポスト・オフィス社が引き受けている(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]英国の郵便局を支えてきた元準郵便局長550人以上が会計システムのエラーから「無実の罪」を着せられ、投獄されたり、破産したりしていたことが分かりました。

ロンドンの高等裁判所は16日「地獄の20年」を味わった元準郵便局長たちの訴えを認め、和解金578万ポンド(約8億3400万円)の支払いを郵便局の窓口業務を引き受けるポスト・オフィス社に命じました。

英メディアによると、この会計システムはもともと英コンピューター企業ICLが開発した「ホライゾンシステム」。高等裁判所の判事はホライゾンシステムにかなりのバグやエラー、不良があったため、準郵便局長の支店口座に不一致が生じたことを認めました。

郵便局側は「ホライゾンシステムに何の問題もなかった」と主張してきました。しかし判事は「2000年に導入されたシステムは少しも堅牢ではなかった」として、郵便局の支店口座で帳尻が合わずに資金不足が生じたのはホライゾンシステムの欠陥が原因だと判断しました。

ICLは2002年に富士通に買収されています。ポスト・オフィス社が和解に応じたことで富士通に今後どんな影響が出てくるのかは今のところ分かりません。しかし英紙フィナンシャル・タイムズによると、判事はさらなる真相究明のため検察当局に富士通の名を通報したそうです。

富士通はホライゾンシステムに問題はないとの立場を取ってきましたが、判事はバグがたくさんあることを報告している文書と一致していないと指摘したそうです。

準郵便局長はポスト・オフィス社のフランチャイズとして地域の郵便事業に携わっています。日本で言えば郵政民営化前の特定郵便局長に似ています。

元準郵便局長たちは横領や窃盗で有罪にされたのは濡れ衣だと無罪を主張してきました。有罪になった元準郵便局長30人以上について刑事事件再審査委員会(CCRC)は判決が公正だったかどうか見直しを始めました。

2009年から無実の罪に問われた元準郵便局長を支援してきた「正義を求める準郵便局長連合」は「ホライゾンシステムが目的に合っていないことをポスト・オフィス社は知っていた!」と勝訴を宣言しました。

「ポスト・オフィス社が2000年ごろにホライゾンシステムを導入して以来、何百人もの準郵便局長が言ってきたことがようやく高等裁判所で認められました。現在、係争中の事件に関してポスト・オフィス社だけでなく、他のすべての準郵便局長に影響を与えるはずです」

英BBC放送によると、バルビンダー・シン・ギルさんは結婚してオックスフォードに引っ越し、新しい生活を始めるために準郵便局長として働き始めます。しかしポスト・オフィス社から10万8000ポンド(約1600万円)を盗んだとして告発されるのです。

1日目から準郵便局長として任された郵便局の会計の帳尻は合いませんでした。ある朝、郵便局から締め出され、監査と事情聴取を受けました。ギルさんは空いた会計の穴埋めを命じられ、借金取りに追い回されるようになります。

ギルさんは自己破産を申請。しかし今度はギルさんの母親が5万7000ポンド(約823万円)を横領していたとして有罪判決を受けます。ギルさんの社会的信用は地に墜ち、レストランやガソリンスタンドで最低賃金で働くようになります。

ギルさんと同じように地獄の苦しみを味わった人が550人以上もいるのです。富士通はどんな形で責任を取るのでしょうか。

富士通は筆者の問い合わせにこう回答しました。「富士通は訴訟当事者ではありませんが、判決を非常に深刻に受け止めています。新しく分かったことを詳細に見直すつもりです」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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