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議長国に感謝された小泉環境相の努力 途上国の脱炭素化妨げる石炭火力輸出は日本国民の税金で賄われている

木村正人在英国際ジャーナリスト
COP25で積極的に2国間外交を繰り広げた小泉環境相(右、筆者撮影)

COP25会期2日延長、徹夜協議でも成果上がらず

[ロンドン発]世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ摂氏2度より十分低く保ち、1.5度に抑える努力をすることを約束したパリ協定が来年から本格始動。すべての参加国が自主的な目標を掲げて温室効果ガス排出削減を進めます。

しかし第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)は会期を2日延長して徹夜で協議したものの、大きな成果を挙げることができないまま閉幕。背景にはアメリカのパリ協定離脱、先進国と途上国の対立、温暖化対策に後ろ向きなブラジルやオーストラリアの抵抗があります。

課題は来年11月にグラスゴーで開かれるCOP26 に持ち越されます。

小泉進次郎環境相は15日「最後の瞬間までパリ協定6条について成果が上げられるよう全力を尽くしたが、合意できなかったことを心から後悔する。2国間協議をたくさん持った。COP26に向け、ネバーギブアップ(絶対に諦めない)の精神でやっていこう」と演説しました。

COP25で一定の存在感を示した小泉環境相(筆者撮影)
COP25で一定の存在感を示した小泉環境相(筆者撮影)

議長を務めたチリのカロリナ・シュミット環境相から小泉環境相の努力に対して感謝の言葉が述べられました。国内の石炭政策では経済産業省の金科玉条であるエネルギー基本計画に雁字搦めにされて国際的な批判を浴びましたが、小泉環境相の真摯な努力は評価されました。

日本はより効率的に温室効果ガスを削減するため排出枠を国際的に取引する6条の市場メカニズムを推進することが削減目標の引き上げと行動を促すという立場です。COP25では、複数国が同時に削減分を計上するダブルカウントを防ぐルール作りや透明性、レビューの確保を訴えました。

国連事務総長が批判した“石炭中毒”

小泉環境相はこれに先立ち11日、国内外メディア向けの記者会見で日本の石炭政策についてこう弁明しました。

「国際社会からの日本の石炭政策に関する批判は強く、環境相就任以降、日増しに強くなっているという印象を持っている。最近ではアフリカ開発銀行、欧州復興開発銀行(EBRD)など、世界の金融機関は石炭火力から撤退する動きがある」

「日本の石炭政策への批判から逃げずに正面から触れなければ、日本の良い取り組みがかき消されてしまう。アントニオ・グテーレス国連事務総長がCOP25演説で使った“石炭中毒”という強烈な表現を自分の演説で用いたのはそうした思いからだ」

「石炭火力設備の輸出に日本が公的な支援をしていることについて何とか前に一歩踏み込めないか真剣に悩み、議論をしてきた。今のエネルギー基本計画に石炭火力のインフラ輸出の4原則があるものの、わが国の公的信用について世界から厳しい批判を受けている」

「わが国のインフラ戦略は2020年に30兆円受注するという目標を掲げている。石炭火力の実績を見ると直近2年は年1件、年に2000億円程度。このためインフラ戦略上に占める割合は小さい」

「石炭火力の輸出が抱える課題として、価格の競争力、相手国の脱炭素化を結果として阻害している、他国との技術的優位性が低下してきていることもある」

「民間ベースの経済活動とは別に石炭火力の輸出に公的資金を付けているという現状について何とかしたいと思っていたが、今回は石炭政策については新たな展開を生むには至らなかった。しかし、わが国のインフラ輸出のあり方に今後も引き続き議論していくべきだと考えている」

石炭火力発電のインフラ輸出が抱える最大の問題点は、小泉環境相も指摘しているように途上国の脱炭素化を阻害してロックインしてしまうことです。その資金が日本国民の税金で賄われているということについて日本の有権者はもっと真剣に考えるべきでしょう。

グレタさん「世界の指導者は責任から逃げようとしている」

政治家の見せかけを許すなと訴えたグレタさん(筆者撮影)
政治家の見せかけを許すなと訴えたグレタさん(筆者撮影)

抜本的な温暖化対策を求める子供たちの学校ストライキ「未来のための金曜日」を1人で始めたスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさん(16)はCOP25を後にして13日、イタリア・トリノでこう演説しました。

「世界の政治指導者は依然として彼らの責任から逃れようとしている。しかし私たちはそうはできないことを分からせなければならない。彼らを壁に向かって立たせよ(put them against the wall)。そして私たちの未来を守らせるために彼らに仕事をさせよ」

壁に向かって立たせよという表現が英語では銃殺刑を連想させるため、グレタさんは後でスウェーデン語では「責任を取らせる」という意味だと釈明しました。グレタさんがCOP25演説で強調したポイントをおさらいしておきましょう。

「約1年間、急速に減少するカーボンバジェット(炭素予算)について何度も話し続けてきた。世界の気温上昇を1.5度未満に抑える可能性が6〜7%あるとすれば 昨年1月時点で残された二酸化炭素の予算は4200億トン。私たちは土地利用を含め毎年約420億トンを排出している」

「今の排出ペースでは8年間で炭素予算はなくなる」

「今の排出ペースでは8年間で予算はなくなってしまう。現在、私たちに残されている予算は3400 億トン未満。なぜ1.5度以下に抑えることが重要かと言えば、産業革命前から1度上昇している現在でも人々は気候非常事態で死んでいるからだ」

「最近、一握りの富裕国が温室効果ガス排出量の大幅削減や、実質ゼロ目標を約束した。一見印象的に聞こえるかもしれないが、意図が良くてもリーダーシップではない。これらの誓約には航空、輸送、貿易品と消費が含まれていないため、ミスリードしている」

「2050年ゼロは何も意味しない。数年間でも高排出が続けば予算はなくなる。COPは抜け道を探し、野心の引き上げを避けるために国々が交渉する場に変わったようだ。排出削減をダブルカウントし、排出権を海外に移し、解決策や損失と損害のために支払うことを拒否している」

「私たちが必要とするのは発生源での大幅な排出削減だが、それだけでは十分ではない。温室効果ガスの排出を停止しなければならない。1.5度以下に抑えるためには炭素を地面に封じ込める必要がある」

「最大の危険は不作為ではない。本当に危険なのは、政治家や最高経営責任者が行動を起こしているように見せかけることだ。実際には巧妙な会計と創造的なPR以外にはほとんど何も起きていない」

小泉環境相の誓いがグレタさんの言う「見せかけ」ではなく、実際の行動を伴うことを国民の1人ひとりが厳しく監視し、後押ししていく必要があります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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