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「次の10年が私たちの未来を決める」グレタさんの訴えに応えられなかった小泉環境相「脱石炭」約束できず

木村正人在英国際ジャーナリスト
COP25で演説したグレタさん(写真:ロイター/アフロ)

「歴史の大きな変化は人々からもたらされた」

[マドリード発]抜本的な温暖化対策を求める子供たちの学校ストライキ「未来のための金曜日」を1人で始めたスウェーデンの少女グレタ・トゥンベリさん(16)が11日、第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)で演説しました。

トゥンベリさんが求めているのは産業革命前に比べて世界の気温上昇を1.5度以内に抑えるよう、みんなが今、科学に基づいて行動を起こすことです。トゥンベリさんの演説をまとめてみました。

「あと3週間で今年が幕を閉じ、次の10年が始まります。私たちの未来を決める10年です。私は希望の兆候を切望しています。希望はあります。それを見ました。政府や企業から来たものではありません。人々、まだ目覚めていない人々から来ているのです」

「私は気づき始めています。私たちはいったん気づくと変わります。人々は変わることができます。人々は変わる準備ができています。私たちには民主主義があり、民主主義は常に動いています。それは希望です。投票日だけでなく、毎秒、毎時間」

「世論が自由な世界を動かします。実際、歴史を通じて大きな変化はすべて人々からもたらされました。待つ必要はありません。私たちは変え始めることができるのです。今、私たちが!」

「今日はパニックを起こさない」

「一年半前、私は本当に必要な場合を除き、誰にも話をしませんでした。しかし最近はただ話しています。以来、私は多くのスピーチを行い、人前で話す時は個人的なことや感情的なことから始めて、みんなの注意を引くことを学びました」

「私たちの家が燃えているというようなことを話す時、私はパニックを起こしたかったのです。よくもそんなことを(how dare you)と言いたかったのです。しかし今日はそうしません。みんながそのフレーズばかりに注目して事実を覚えていないからです」

「私は絶えず話し続けてきました。上昇を1.5度以内に抑えるための温室効果ガス排出量の残り枠はどんどん減っているのに、まだ無視され続けています」

「気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 第5次評価報告書に書かれている数字は誰の意見でも政治的な見解でもありません。これは現在、活用できる最高の科学なのです。多くの科学者はこれらの数字でもまだ穏やかすぎると示唆しているのです」

「こうした事実はパリ協定を世界規模で機能させるために絶対に不可欠です。先進国はゼロエミッションをできるだけ早く達成し、世界の恵まれない地域の人々の生活水準が向上するよう助けてあげる必要があります。現在の1度の気温上昇でも人々は死んでいます」

「怒りを感じずに何かが達成されることはない」

「これは私のメッセージです。私があなたに集中してほしいことはこれです。こうした数字にどうしてパニックを起こさずに、いられるのか教えて下さい。事実にどう応えるのでしょう。基本的には怒りを感じずに何かが達成されることはありません」

「パリ協定が結ばれた後でも、世界の銀行は化石燃料に1.9兆ドル(約206兆円)を投資してきました。100社が世界全体の排出量の71%を、20カ国・地域(G 20)が約80%を占めています」

「国々は排出削減を二重にカウントし、排出権を海外に移し、削減目標を高めるという約束を後退させようとしています。真の行動をとらずに済ませる抜け道を見つけようとしています。こうしたことを止めさせなければなりません。私たちは炭素を地中に封じ込めておく必要があります」

「私は世界中を旅する幸運に恵まれました。認識の欠如はどこでも同じです。切迫感は全くありません。人は非常事態にこそ行動を変えるのです。道路の真ん中に立っている子供がいて、車が全速力で向かってきます。その時、あなたは走り出して子供を救うでしょう」

「今日、石炭関連政策について話せることは何もない」

別の場所で演説した小泉進次郎環境相はこう話しました。

日本の未来を担う小泉環境相(10日、筆者撮影)
日本の未来を担う小泉環境相(10日、筆者撮影)

「私は次世代の持続可能な世界への情熱に共感できます。私には彼らの怒りがよく分かります。古い世代の不作為に対して。来年、私は父親になります。2050年以降の未来を安全に保つ義務があります。それは私の未来であり、子供たちの未来なのです」

「私は次世代の若者たちに知ってほしかったのです。彼らの声は政治指導者に届くことを。今必要なのは、すべての世代を巻き込む包括的な行動です。もちろん、私は石炭関連政策を含め日本に向けられる世界の批判を自覚しています」

「先週、アントニオ・グテーレス国連事務総長は私たちの石炭依存を止めるよう呼びかけました。私はこれを日本へのメッセージとして受け止めました。今日、日本の石炭関連政策について何も新しいことをお話できないのが残念です」

「私を含め日本ではますます多くの人々がさらなる温暖化対策を講じなければならないと考えています。石炭関連政策への批判で日本は温暖化対策に完全にはコミットしていないと認識されているかもしれませんが、それは真実ではありません」

「今年、日本は台風被害に苦しみ、長野県は都道府県で初めて気候非常事態を宣言しました。2050年までのネットゼロカーボン達成を誓いました。ネットゼロカーボンを宣言したのは4自治体2000万人でしたが、今では東京、京都、横浜を含む28自治体都4500万人に拡大しました」

「英中銀・イングランド銀行のマーク・カーニー総裁は気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)サミットを東京で開くと発表しました。この分野では日本がリーダーです。世界の中でも最も多い212もの企業や機関がTCFDの勧告を支持しています」

「日本は国際NGOから厳しい評価を受けることになる」

小泉環境相は削減目標の引き上げについては触れず、国内外での石炭火力発電事業についても何も新しいことは話しませんでした。

地球環境市民会議(CASA)専務理事の早川光俊弁護士は「日本政府の2030年までに26%削減する目標は寝ていても達成できる。脱石炭も言わない、削減目標も引き上げないでは相当厳しい評価を国際NGOから受けることになると思う」と厳しい見方を示しています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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