Yahoo!ニュース

携帯アプリや顔認識使い予防拘禁システム構築 中国のウイグル100万人洗脳計画 漏洩文書で明らかに

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国・ウイグル族収容所と思われる施設(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]中国共産党が新疆ウイグル自治区のイスラム教徒約100万人に対して組織的に行っている洗脳や予防拘禁の生々しい実態が漏洩した中国内部の公式文書で白日の下にさらされました。

24日、国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と共同通信、英国のガーディアン紙、BBC放送など欧米メディア17社が一斉に報じました。

中国共産党はこれまで「新疆ウイグル自治区西部の収容施設では自発的な教育と訓練が行われている」と繰り返し、説明してきました。

これに対し米紙ニューヨーク・タイムズは今月16日、新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒約100万人の強制収容について習近平国家主席の指示を暴露する403ページの内部文書をスクープしたばかり。相次ぐ内部文書の漏洩は、独裁色を強める習体制の足元が揺らいでいることを物語っています。

在英中国大使館はガーディアン紙の取材に「完全なるでっち上げ」と全面否定していますが、欧米を中心とした国際社会は足並みをそろえて習主席にきっちりとした説明を求めていく必要があります。

【漏洩文書のポイント】

今回スクープされた公式文書のポイントは次の通りです(ガーディアン紙より)。

・収容所は寮、廊下、床、建物に複数の錠を設け、身体的・精神的に完全に管理する厳格なシステムを順守しなければならない。それぞれの建物の周りにフェンスを設け、施設全体を壁で囲む必要がある。専用の警察詰め所を正門に置き、監視塔の看守によってすべて監視されなければならない。

・収容者は無期拘置される可能性がある。修了または釈放が検討される前に、少なくとも1年は収容所で働かなければならない。

・収容所はポイントシステムに基づき運営される。収容者はイデオロギー、規律の順守、勤勉と訓練のポイントを取得しなければならない。

・こうした過程を修了した後も収容者は釈放されない。収容所の別棟に移動して、3~6カ月間、職業訓練を受けるため拘置される。

・週1度の電話と月1回のビデオ通話で家族と話すことが認められているが、罰を受けると停止される。

・逃走防止が最優先にされる。収容者の1日をすべて監視するため死角のない24時間体制のビデオ監視を。生活のあらゆる面を管理するため、寮や教室だけでなく昼食時間に並ぶ時も特定の場所に振り分ける。

監視されていたイスラム教徒に人気の携帯アプリ

著書『報じられなかったパナマ文書の内幕』で日本人絡みの裏経済を調査報道したICIJのシッラ・アレッチ記者は 、少なくとも2016年7月以降、中国当局がイスラム教徒ウイグル族などの監視のため、イスラム教徒に人気の携帯アプリZapya(快牙)に侵入していたことを伝えています。

Zapya(快牙)はインターネット接続が悪くても携帯電話利用者同士がファイルをやり取りできるアプリで、北京のスタートアップが開発。中国やミャンマー、パキスタン、インドに普及し、アレッチ記者によると、イスラム教徒がイスラム教の聖典コーランや教えを共有するのに使っていたそうです。

公式文書の一つは、Zapya(快牙)というアプリを使って暴力的なテロを促す音声ファイルやビデオを拡散させるテロリストや過激派の居場所を突き止めて逮捕するよう役人に指示しています。

強制収容所に3カ月間拘置されたウイグル族の女性はICIJの取材に「警察はウイグル族の携帯電話にダウンロードされたZapya(快牙)を監視している。宗教的なコンテンツやコーランにあるアラー(イスラム教の唯一絶対神)などの言葉をダウンロードしただけで拘束される」と証言しています。

中国共産党はWeChat(微信)など他の携帯電話アプリに侵入して、海外のウイグル族にも市民監視ネットワークを広げています。中国共産党が監視しているZapya(快牙)やWeChat(微信)はあらゆる機会にダウンロードされるよう仕組まれています。

こうしたアプリを使った家族との通話は傍受され、少しでも疑われた海外のウイグル族は国境を越えたとたん、拘束される恐れもあります。

ウイグル族を予防拘禁する大規模監視システム

国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチの報告書でこれまでに、中国共産党が新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の過激化を予測する大規模な予防拘禁プログラム「一体化統合作戦プラットフォーム(IJOP)」を構築していたことが分かっています。

当事者に告知せずに、膨大な個人データを収集し、中国共産党にとって潜在的に危険、または疑わしいと思われる分子にフラグを立てサイバー空間で常時追跡する市民監視システムです。

今回スクープされた公式文書では、17年6月の1週間だけで2万4000人超にフラグが立てられ、うち1万5600人以上が強制収容所に送られ、706人が刑務所に入れられていたことが判明。さらに2096人が監視下に置かれ、5508人が将来強制収容所送りリストに挙げられていました。

携帯電話のファイル共有アプリを利用する新疆ウイグル自治区の190万人を監視した結果、4万人以上を「危険分子」と判別したという文書も含まれています。

これまでに、中国共産党はウイグル族コミュニティーの各戸に貧困支援を名目にQRコードを貼り付け、スマホでスキャンするだけでそこで暮らす人々の個人情報にすぐにアクセスできるようにして管理を強化していたことが分かっています。

300~500メートルごとに“簡易”警察署を導入。碁盤の目(グリッド管理)のように配置した“簡易”警察署を拠点に地域社会を完全に管理下に置いた上で、最先端の人工知能(AI)や顔認識システムを使用して「少数民族」と漢民族を区別する新しい技術も活用しています。

香港メディアによると、24日投票が行われた区議会議員選挙で政府に批判的な民主派が全議席の8割以上を占め、親中派は惨敗を喫しました。大規模デモで暴徒化した学生を批判する意見も一部にありますが、自由と民主主義に逆行する香港政府とその背後に控える中国共産党の強権体質から目を背けるわけにはいきません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事