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台湾海峡に中国初の国産空母 トランプ米大統領の迷走尻目に海洋でも強硬姿勢 香港デモと台湾総統選に圧力

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国初の国産空母(写真:ロイター/アフロ)

「総統選に介入する中国の意図は明白だ」

[ロンドン発]台湾外交部(外務省)は17日、中国国産空母が台湾海峡を通過したとツイート。

「蔡英文総統が来年1月の総統選に向け副総統候補を発表したとたん、中国人民解放軍(PLA)は新しい002型空母打撃群を台湾海峡に送り込んできた。台湾の総統選に介入する中国の意図は明白だ。有権者は屈しない。彼らは投票で中国にノーを突きつけるだろう」

蔡総統は13日に香港で暴力化する抗議デモについて「警察は市民を守るために存在する。政府は市民に仕えるために存在する。国際社会が当局の弾圧に対して香港市民とともに行動を起こすことを求める」とツイートしていました。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(英語版)も18日「中国2隻目の空母が台湾海峡を通過し、試験と訓練のため南シナ海に向かった」と動画付きでツイートしました。

PLAは旧ソ連製空母をもとにした「遼寧」を2012年に就役させ、001A型国産空母1隻が昨年5月から試験航海中。滑走距離を短くできる電磁式カタパルトを備えた002型国産空母1隻を建造しています。台湾外交部のツイート「002型」は「001A型」の間違いでしょう。

台湾国防部(国防省)のホームページによると、中国初の国産空母はフリゲート1隻を伴って東シナ海から中国側の台湾海峡を抜けました。米海軍と海上自衛隊の艦艇が追尾しました。台湾の国軍も航空機や艦艇を派遣し空母を監視したとして、国民に落ち着くよう求めています。

米ネイビー・タイムズによると、中国より米国との関係を重視する蔡総統が就任した16年以降、中国は「遼寧」を台湾海峡に派遣するようになりました。

しかし国産空母が台湾海峡を通過するのは今回が初めてです。環球時報は、国産空母は海南島三亜の海軍基地で就役する可能性があると伝えています。

第三次台湾海峡危機

1995~96年には米軍が2個空母打撃群を台湾近海に派遣したことがあります。当時の李登輝総統の訪米に端を発した「第三次台湾危機」です。

中国の江沢民国家主席(当時)は中台関係の緊張緩和と平和的統一を掲げていました。李総統が訪米して母校の米コーネル大学で台湾の民主化について歴史的な演説を行ったことをきっかけに一気に中台関係は悪化。米国が李総統にビザを発給したことが火種になったのです。

中国は台湾近海を標的にした短距離弾道ミサイルDF(東風)15を発射し、海空軍の演習を実施。96年に初めて直接選挙で行われた総統選に合わせ台湾を軍事的に占領することを想定した大規模な軍事演習を行いました。中国は台湾が「独立」を目指しているのではと恐れたのです。

これに対して米国は2個空母打撃群機動部隊を台湾近海に派遣したため、中国は台湾に軍事的な圧力をかけるのを止めました。

今回、中国が国産空母を派遣して台湾海峡を通過させたのには暴力化する香港の抗議デモを牽制する狙いがあります。もう一つは台湾外交部のツイートが指摘しているように、再選を目指す蔡総統(民主進歩党)がリードしている来年1月の総統選に圧力をかけることでしょう。

来年11月の大統領選で再選を目指すドナルド・トランプ米大統領を試している側面もあります。今年7月にトランプ政権は台湾へ主力戦車M1エイブラムスや携帯式防空ミサイルシステム「スティンガー」など20億ドル(約2200億円)の武器売却に同意し、中国を刺激しました。

「民主進歩党は『台湾の独立』に固執」

中国は4年ぶりに発表した国防白書「新時代の中国の国防」の中で台湾についてこう明言しています。「民主進歩党率いる台湾当局は『台湾の独立』に固執し、一つの中国の原則を具体化する1992年のコンセンサスを承認することを拒否している」

「『台湾独立』分離主義勢力とその行動は、台湾海峡における平和と安定に対する最も重大な差し迫った脅威であり、平和的統一を妨げる最大の障害だ」と武力行使の可能性を排除していません。

米海軍の空母保有隻数は第二次大戦が終結した1945年には空母と小型護衛空母で計99隻でしたが、2007年には11隻にまで減少。17年7月にジェラルド・R・フォードが就役するまで10隻という状態が続きました。

「空母キラー」と呼ばれる準中距離弾道ミサイルDF(東風)21を中国に使われると米海軍の空母は容易には近づけません。1995~96年の「第三次台湾海峡危機」の頃に比べると中国の経済力、軍事力は急拡大しました。

「一帯一路」vs「インド太平洋」

購買力で比べた国内総生産(GDP)ではすでに米国を凌駕している中国は習近平国家主席のインフラ経済圏構想「一帯一路」を北極海にまで展開しています。

これに対して安倍晋三首相は自由と民主主義、法の支配といった価値を共有する「自由で開かれたインド太平洋」を唱えています。「インド太平洋」戦略に詳しいオーストラリア国立大学のローリー・メドカーフ教授はこう話しています。

「中国との戦略的な競争をアジア中心に組み立て直す必要が出てきた。インド洋と太平洋の2つのオーシャンを合わせた海洋安全保障、経済インフラ、外交で中国はすでに『一帯一路』を展開している。それに対抗する戦略がインド、日本、オーストラリア、米国が中心となる『インド太平洋』だ」

トランプ大統領も「インド太平洋」戦略を口にはするものの、環太平洋経済連携協定(TPP)からは早々に離脱。在外米軍基地を巡ってはアジアの安全保障の核となる日本と韓国にこれまでの4~5倍もの駐留経費負担をふっかけて、同盟国の不信感を増幅させています。

主役不在の「インド太平洋」はさまよっています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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