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アジア太平洋の武器輸出国は中国がトップ 国内軍需産業の基盤を強化 地域の軍拡レースに拍車

木村正人在英国際ジャーナリスト
中国の建国70周年パレード(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]2009~19年に中国がアジア太平洋の国では武器輸出の首位に立ち、売上高が180億ドル近くに達したことが国際情報会社IHSマークイット・ジェーンズのまとめで分かりました。

アジア太平洋の武器輸出国トップ3

(1)中国 179億4899万ドル

(2)韓国 71億9344万ドル

(3)オーストラリア 17億9922万ドル

ジェーンズのアジア太平洋軍需産業アナリストのジョン・グレバット氏は次のように述べています。「中国、韓国、オーストラリアが武器輸出で成功を収めたのは、国家主導のキャンペーンで武器輸出を拡大し、国内軍需産業の基盤を発展させたからだ」

一方、インドはアジア太平洋で武器輸入の首位に立ち、輸入総額は485億ドルを超えました。

アジア太平洋の武器輸入国トップ3

(1)インド 485億4602万ドル

(2)オーストラリア 306億6268万ドル

(3)韓国 267億9079万ドル

インドをはじめアジア諸国は武器の自給自足を目指していますが、まだまだ米国やロシア、フランス、イスラエルなどの武器輸出国に多くを依存しています。

「自給自足への取り組みは、武器輸出国が自国産業との地域パートナーシップを拡大することを求める埋め合わせや協力の枠組みが以前より増して設けられるようになっている。政府が兵器の外国依存度を下げるため、こうした傾向は近い将来も続くだろう」とグレバット氏は分析します。

米国はアジア太平洋における戦略的影響力を高める努力を継続しており、インド、オーストラリア、韓国、台湾、日本を含むアジア太平洋諸国への主要な武器輸出国です。このため中国の武器輸出は途上国に限定されています。

世界全体では中国は5番目の武器輸出国

中国は英国を抜いて、米国、ロシア、フランス、ドイツに次ぐ世界で5番目の武器輸出国です。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると14~18年の武器輸出国シェアは下のグラフの通りです。米国の武器輸出シェアは中国の7倍近くあります。

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米シンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)によると、08年以降の中国による武器輸出の61%はパキスタン、バングラデシュ、ミャンマー向けで、14%がインドネシア、タイなど他のアジア諸国に売られていました。

CSISのチャイナパワーというホームページから中国の武器輸出を見ておきましょう。

【パキスタン】

中国はパキスタンとテロ対策での協力を強化したのに伴って、中国の武器輸出も08年の2億5000万ドルから09年には7億5800万ドル超に急拡大した。

18年3月に中国は複数の弾頭を持つ核ミサイルの実験に不可欠な光学追跡システムの輸出を発表。この発表はインドが大陸間弾道ミサイル(ICBM)アグニVの実験に成功したわずか数週間後に行われた。

戦闘機JF17の共同開発やパキスタン海軍向けのフリゲート054APの建造など中国とパキスタン間で緊密な軍事協力が行われている。

【バングラデシュ】

08~18年、中国は19億3000万ドルの武器をバングラデシュに輸出。バングラデシュの武器調達の71.8%を占めている。中国は武器輸出のため寛大なローンと低価格を組み合わせている。例えば13年にバングラデシュ向けに035型潜水艦2隻をそれぞれ1億ドル余で売却している。

【ミャンマー】

アジアにおける中国の武器輸出の3番目の市場。10年代前半に対ミャンマー制裁が緩和されてから同国の武器輸入は増え、中国が大きく食い込んだ。 13年以降、ミャンマーは中国から7億2000万ドルの武器を調達。中国とパキスタンが共同開発したJF17戦闘機17機、無人航空機 (UAV)の彩虹12機などが含まれている。

爆撃用ドローンの輸出大国・中国

爆撃用ドローンの輸出大国・中国はCHシリーズとWing Loong(翼龍)シリーズのドローン開発を進めています。

Wing Loongシリーズの国有航空機製造企業グループ、中国航空工業集団(AVIC)は昨年12月、100を超えるWing Loongの機体を輸出したと発表しました。

中東での中国製ドローンのプレゼンスが増加しています。中国製ドローンを巡る最近の動きは次の通りです。

(1)昨年8月、中国のアクス空港で飛行高度が3000~9000メートルに達し、24~48時間の連続滞空が可能(MALE)な無人航空機8機が確認された。衛星画像ではWing Loong IIかCH5とみられる。

(2)米国製MQ1プレデターを模倣したWing Loong II は空対地ミサイル12発を搭載できる。全長11メートル、翼幅20.5メートル、時速370キロメートル、高度9000メートル、航続時間は35時間とされる。

(3)CH5は最大16発の空対地ミサイルを搭載できる。全長11メートル、翼幅21メートル、時速300キロメートル、高度7000メートルで航続時間は39~60時間。戦闘行動半径は1000キロメートルとされる。

(4)昨年のアフリカ航空宇宙防衛展示会で、電動VTOL (垂直離着陸型)無人航空機Blowfish(日本語ではフグという意味)のメーカーは、Blowfishが人民解放軍の海軍で使用されていることを明らかにする。

(5)昨年12月、Wing Loong I-Dが初飛行。全長8.7メートル、翼幅17.6メートル。 10発のミサイルを搭載できる外付けのハードポイントが4つあるとされる。

(6)香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストによると、中国航空工業集団によってつくられたYaoying 2(Sparrowhawk II)無人航空機が昨年7月に初飛行。

(7)今年9月、セルビアが中国から9機のWing Loongを調達すると発表。欧州の国が中国からドローンを調達するのは初めて。

SIPRIのデータベースによると、中国製の爆撃用ドローンを調達しているアジア太平洋の国は次の通りです。

パキスタン25機

ミャンマー12機

インドネシア4機

米国では長距離のドローン・システムは巡航ミサイル扱いで、規制対象でした。武器輸出管理法に違反するため米国が輸出できなかった中東・アフリカ諸国が中国の主な輸出先です。トランプ米政権は米軍需産業のロビー活動を受け、武装ドローンの輸出規制を若干、緩和しています。

アジア太平洋は世界の武器輸入の4割を占めています。中国の軍事的な台頭が軍拡レースに拍車をかけ、地域の緊張を増していることが背景にあります。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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