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「何を着用するか私たちに指図しないで」日本の働く女性のメガネ着用禁止 少し前まで英国も大差なかった

木村正人在英国際ジャーナリスト
東京コレクションでメガネをかける女性モデル(写真:IMAXtree/アフロ)

「メガネ女子」好きは34%

[ロンドン発]日本の企業や店舗が働く女性のメガネを禁止している実態が報道されてから、日本国内のSNS上では「#メガネ禁止」のハッシュタグが登場し、海外メディアも一斉に批判的に報じました。

BUSINESS INSIDERの竹下郁子記者によると「職場でメガネをかけることが許されない女性」は――。

・ショールームやホテル宴会場

・美容クリニック

・大手百貨店や大手商業施設の受付

日本の女性の労働力人口は3014万人です。メガネ禁止は、「#KuToo」運動の石川優実さんが提起した職場でのハイヒール強要と同じように大きな論争を巻き起こしました。

マーケティング会社マクロミルの調査ではメガネ・コンタクトレンズの使用率は78%。知的な感じがする「メガネ女子」好きは34%。メガネが似合う有名人は北川景子さんや光浦靖子さんの名が挙げられています。

日本の皇室や「カワイイ」文化が象徴するように日本の女性には「ジェンダーロール」がいまだに求められています。

「メガネ禁止は性差別主義者のナンセンス」

欧米メディアは日本の時代錯誤を浮き彫りにするステレオタイプとして「メガネ禁止」のニュースに飛びつきました。

英夕刊紙イブニング・スタンダード「女性のメガネ着用“禁止”が日本で性差別主義の論争を巻き起こす」

英紙インディペンデント「日本の職場での女性のメガネ着用“禁止”は性差別主義者のナンセンス しかし英国のドレスコードも大して変わらない」

米誌フォーブス「“何を着用するか私たちに指図しないで” 日本の女性が職場でのメガネ禁止に抗議」

米FOXニューズ「日本の女性のメガネ着用禁止が激しい反発を招く」

英国や米国のアングロ・サクソン圏は南欧のフランスやイタリアから「ピューリタニズム(厳格主義)」と皮肉られるぐらい男女平等が徹底しています。

100年も封印された英国初の“女医”の秘密

英国では昔、女性は医師になれませんでした。

英エジンバラ大学のホームページに軍医ジェームズ・バリーの数奇な人生が紹介されています。バリーは1809~12年までエジンバラ大学で医学を学び、南アフリカのケープタウン、セントヘレナ島、トリニダード・トバゴの陸軍外科医として傑出したキャリアを築きました。

バリーは短気でエキセントリックな声を上げるため、同僚によくからかわれました。バリーはこうした同僚に決闘を挑み、胸を撃ち抜いて1人を殺害しました。この事件のあと、バリーをからかう人はいなくなりました。

日本でもクリミア戦争に従軍した「白衣の天使」として有名なフローレンス・ナイチンゲールはバリーを憎み、バリーの死後こう記しました。

「彼は私を兵士、軍の兵站部、召使いが入り混じった群衆の中に立たせ続けました。野蛮人のように振る舞い、がみがみ言いました。彼が死んだ後、私はバリーが女性だったと知らされました。バリーは私が今まで出会った中で最強の生物だったと言わざるを得ません」

バリーが赤痢を患い、英国に帰国後、亡くなったのは1865年のことです。彼の葬式を準備していた家政婦はバリーが実は女性だったことを見つけたのです。「バリーは両性具有者」「思春期を経験したことがない男性」などと憶測とスキャンダルが一気に広がりました。

軍はバリーの論文を100年間封印し、1950年代に歴史家が公表するまでバリーの人生は歴史の闇にしまい込まれてしまいました。英国最初の女医としてバリーではなく、エリザベス・ギャレット=アンダースン(1836~1917年)の名が歴史に刻まれています。

英国では女性に医学の門は閉ざされていたため、医師を目指したバリーは男性に変装してエジンバラ大学に進んだのです。

「馬鹿げた規則をまとった馬鹿」

英国でも性差別はまだまだ残っています。

インディペンデント紙のルーシー・マキナニー記者は「残念なことに、女性の権利が制限されたり、場合によっては完全に排除されたりする例が非常に多く残っています」「より多くの女性が目を見開けば、馬鹿げた規制をまとった馬鹿を見つけやすくなります」と指摘しています。

英国でもハイヒール事件が起きました。2015年12月、ニコラ・ソープさんが派遣会社を通してロンドンの国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパースで一時雇いの受付嬢として働くことになりました。

ニコラさんは底が平らなフラットシューズを履いて出勤。派遣会社のドレスコードでヒールの高さが約5~10センチ(2~4インチ)と定められていたため、靴を買いに行くよう求められます。ニコラさんが拒否するとその場で帰宅させられ、一銭ももらえませんでした。

ニコラさんは雇用主が女性にハイヒール着用を求めるのを禁じる法律を作ろうと呼びかけたところ、署名は15万人を突破。英下院の署名委員会と女性・平等委員会は17年1月に共同で報告書をまとめます。

「職場で長時間、ハイヒールを履くと痛みを感じるばかりか、ダメージを受ける」「髪をブロンドに染めたり、頻繁に化粧をし直したりするよう要求された」「露出度が高い服を着るよう言われた」という声が報告されました。

制限される女性の選択する権利

職場でハイヒールを着用するよう求めるドレスコードは2010年平等法に明白に違反しているため、メイ政権は昨年5月、雇用主と労働者向けにドレスコードと性差別のガイドラインを発表しました。

この中で女性に刺激的な服を着ることを求めない、女性にハイヒールを履くように要求するなど性差に基づく規範を求めないことが明記されました。

マキナニー記者は女子生徒だったころ、10年間もスカート着用の苦痛を強いられました。冬になるとタイツを何枚履いても凍りつくように寒かったそうです。

今では多くの学校でルールが変更され、女子生徒がズボンを着用したり、男子生徒が望むならスカートを着用したりできるようになりました。

マキナニー記者は「結局のところ、個人の選択する権利を排除していることが問題なのです。公正なルールの下、自分で決定できる制度を確立することが求められているのです」と訴えています。

日本の男性はいつまで女性を性的な対象として外見上の美しさだけを求めるのでしょうか。女性は波風を立てないように黙ってその役割を受け入れ続けなければならないのでしょうか。

日本でも女性の社会進出が拡大した今、女性の選択する権利は男性と同じように認められなければならないのは当然です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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