「今の日本人はチャレンジ童貞。童貞男子とそっくり」竹中平蔵氏の発言について考えてみた

東洋大学国際学部の竹中平蔵教授(写真:つのだよしお/アフロ)

「女性を知らないがゆえに恐れたり、蔑んだりする童貞男子」

[ロンドン発]「今の日本人は『チャレンジ童貞』(略)女性を知らないがゆえに、女性に現実離れしたイメージを抱き、恐れたり、蔑(さげす)んだりする童貞男子とそっくりです」と東洋大学国際学部の竹中平蔵教授がプレジデント・オンラインで指摘しています。

竹中教授と言えば2004年の改正労働者派遣法で非正規雇用を増やしたと左派から批判されている構造改革派の中心人物。現在は人材派遣の大手パソナグループの会長です。まず「童貞男子とそっくり」発言の下りを見ておきましょう。

「下品な意味ではなく、今の日本人は『チャレンジ童貞』になっているのではないかとすら思います。自分がまだ見ぬ世界、領域、場所、体験など、未知のものを異様なまでに怖がっているように見えるのです。その様は、女性を知らないがゆえに、女性に現実離れしたイメージを抱き、恐れたり、蔑んだりする童貞男子とそっくりです」

スウェーデン・カロリンスカ研究所の上田ピーター氏と東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教室のサイラズ・ガズナビ氏らの調査によると、2010年時点で日本の18~39歳の処女は326万人、童貞は380万人、30代の処女や童貞は156万人とみられています。

バブル崩壊後、「失われた20年」に当たる1992年から2015年の間に、18~39歳で性交渉の経験がない日本女性(処女)が21.7%から24.6%に、日本男性(童貞)は20%から25.8%に増えました。

30代の10人に1人は性交渉の経験がないと回答。無職、非正規・時短雇用、収入の低い日本男性ほど童貞が多かったそうです。

上田氏は「男性の未経験である確率と収入・雇用形態の相関関係は必ずしも因果関係を表しているものではない」と断った上で「こうした問題を抱える人に対しては雇用環境の改善や収入の向上などの政策的介入を検討することも必要ではないかと考えています」と指摘しています。

童貞男子は「失われた20年」の原因?それとも結果?

1990年代のバブル崩壊で雇用・設備・債務の3つの過剰の解消が進められ、リストラ圧力が高まったことが非正規雇用を拡大させ、ひいては日本の童貞男子を増やしてしまいました。

「今の日本人は童貞男子そっくり」と言われても、「失われた20年」の間に貧富の格差、教育の格差が固定し、いったん「負け組」に転落すると負のスパイラルから抜け出すのが難しくなります。「童貞男子」は竹中教授が言う原因というより結果のような気がします。

収入を得るには主に4つの方法があります。

・自分で働く

・他人を働かせる

・不動産を運用する

・オカネを運用する

・テクノロジーに働かせる

「童貞男子」組は不動産や手持ち資金、他人を働かせたりテクノロジーを活用したりする甲斐性があれば、すでに「童貞」を卒業していてもおかしくありません。

奨学金を借りている大学生は今や2人に1人。日本学生支援機構によると、奨学金を借りても返せず自己破産に追い込まれるケースが2012~16年度で返還者本人8108件、連帯保証人5499件、保証人1731件にのぼっているそうです。

大学を卒業して無事就職できたとしてもグローバル化やデジタル化の影響で実質賃金は低下。非正規雇用で採用された場合、さらに賃金は下がるので中間搾取を完全に排除しないと労働者の取り分はますます減ってしまいます。

派遣労働者は派遣元と労働契約を結んでいるので、人材派遣会社は中間搾取を排した労働基準法6条で禁止された「他人の就業に介入して利益を得て」いるわけではありません。しかし「童貞男子」問題を根っこから解消するには労働者の取り分を増やしてやる必要があると思います。

人工知能を活用すれば生産性は40%上昇する

テクノロジーを活用すれば生産性を上げて収入を増やすことができるというのは竹中教授が言う通りです。しかしテクノロジーは人件費のかかる労働者に取って代わる形で生産性を上げているので、格差を解消するというよりも格差を拡大する恐れがあります。

竹中教授が引用している国際コンサルティング会社アクセンチュアの報告書によると、人工知能(AI)は仕事のやり方を根本的に変え、ビジネスの成長を促す人の役割を強化することで2035年までに先進12カ国の年間経済成長率を2倍にし、労働生産性を最大40%も高めるそうです

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少子高齢化で人手不足が深刻化する一方でデジタル化が遅れる日本は粗付加価値(GVA)の成長率を3.4倍に高める可能性があるそうです。

しかしAIは複雑な問題を引き起こすため、報告書は次の4点を提案しています。以下の点について竹中教授は全く触れていません。

(1)次世代の準備

ヒューマンインテリジェンスとマシンインテリジェンスを統合して、双方向の学習関係を確立し、将来に必要な知識とスキルを再評価できるようする。

(2)AIを活用した規制の奨励

適応性があり自己改善する法律を更新・整備して、技術革新のペースと規制を適応させるペースとのギャップを埋める。

(3)実際に基づいてAIの倫理規定を議論する

倫理的な議論はAIの開発・使用における具体的な基準とベストプラクティス(結果を得るのに最も効率の良い手法)によって補完されるべきだ。

(4)再配分に与える影響に対処する

政策立案者はAIが具体的な利益をもたらす方法を強調し、AIの欠点を予防し、雇用と収入の変化によって不均衡に影響を受けるグループを支援する必要がある。

技術革新のスピードが人間の適応力を凌駕する

英国ではデジタル、マーケティング、デザインの労働市場は圧倒的な売り手市場で、転職するサイクルが短くなっています。このため労働者が自分のスキルアップを図るサービスが人気を集めています。

労働者1人ひとりがこうしたサービスを利用して自分の市場価値を上げるチャレンジをすべきだというのは竹中教授の言う通りでしょう。しかし技術革新や市場の変化のスピードは私たちの想像力をはるかに上回っています。

問題の核心は、技術革新のスピードが人間の適応できるスピードを凌駕してしまっていることです。

グーグルやアマゾン、フェイスブックのようなテクノロジストの天才集団が市場を支配するだけでなく、国家をも超越する時代がもうすぐそこにやってきているのかもしれません。

米マイクロソフト創業者ビル・ゲイツ氏は「ロボットは人間の仕事を奪っていく。政府は病院や学校を維持していくためにロボットを使う企業に課税すべきだ」とロボット税を提唱したことがあります。

「セイの法則」は 「供給は自ら需要を作りだす」とうたっていますが、市場は決して万能ではありません。

だから政府が教育や職業訓練に力を入れたり、適正な課税や再分配を行って格差を埋めてやったりする必要があるのではないでしょうか。

(おわり)