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「グレタに世界の複雑さを教えてやれ」という心無い批判 スウェーデン少女、ノーベル平和賞受賞ならず

木村正人在英国際ジャーナリスト
国連気候行動サミットで温暖化対策の強化を訴えるグレタさん(写真:ロイター/アフロ)

「How dare you!(よくもそんなマネができるわね)」

[ロンドン発]地球温暖化対策を訴えて金曜日の学校ストを始め、現在、北米を経て国連気候変動枠組条約第25回締約国会議(COP25)が開かれるチリを目指すスウェーデンの16歳、グレタ・トゥーンベリさん。11日にノーベル平和賞が授与されると世界中の注目を集めましたが、受賞はなりませんでした。

今年のノーベル化学賞はリチウムイオン電池を開発した吉野彰・旭化成名誉フェローら3人に授与されるなど気候変動への関心が高まる中、ロンドンでは温暖化対策の強化を訴える社会運動「絶滅への反逆」の抗議活動が行われ、1週間で1100人以上が逮捕されました。

セント・ジェームズ・パークで野営する「絶滅への反逆」の参加者(10日筆者撮影)
セント・ジェームズ・パークで野営する「絶滅への反逆」の参加者(10日筆者撮影)
警官に排除される活動家(同)
警官に排除される活動家(同)

グレタさんは9月、米ニューヨークでの国連気候行動サミットで演説し「すべてが間違っている。私はこの壇上にいるべきではない。海の反対側の学校に戻るべきなのに、大人は若者に希望を求めてくる。よくもまあそんなマネができるわね」と怒りをぶつけました。

「あなた方、大人は私の夢や子供時代を虚ろな言葉で奪ってきた。人類は苦しんでいる。人類は死につつある。すべての生態系が壊れていく。私たちは大量絶滅の入り口にいるというのに、どうしておカネや永遠の経済成長というおとぎ話を語ることができるの」

「誰かグレタに世界の複雑さを教えてやれ」

しかし、この演説に対してロシアのウラジーミル・プーチン大統領や米国のドナルド・トランプ大統領から激しい反論が寄せられました。

プーチン大統領は「グレタさんに現代世界は込み入っていて複雑なことを話してやる人が誰もいない」「アフリカやアジア諸国の人々はスウェーデンのように豊かになりたいと望むが、太陽光発電で行うのか。途上国がそうした技術を利用するのは難しい」と批判しました。

トランプ大統領も地球温暖化について考え方が全く異なるグレタさんについて「彼女は明るくて素晴らしい未来を見つめるとても幸せな少女のようだ。とてもうれしい」とツイートして冷やかしました。

米エネルギー情報局によると、世界最大の産油国(日産量)は米国で約1504万バレル。2位はサウジアラビアの約1200万バレル。3位がロシアの約1080万バレル。

ワールドアトラスによると2012年時点で、石炭の産出量でも米国は世界2位の9億2200万トン、ロシアは6位の3億5480万トンでした。

プーチン大統領やトランプ大統領の発言からは自国のエネルギー産業を保護しようという思惑が垣間見えます。

吊るされたグレタ人形

ローマにある橋に、髪を2つに三つ編みにしたグレタさんとみられる人形が吊るされました。ヴィルジニア・ラッジ・ローマ市長がツイートしました。

「精神的に病んでいる」「大人に利用されている」という批判に対してグレタさんは「また始まった。敵意を持つ人たちが大騒ぎしている」「科学を知ってもらいたいと訴える子供をなぜ、大人たちが馬鹿にしたり脅したりするのか、理解できない」と反論しています。

グレタさんはもう1つのノーベル平和賞と言われる「ライト・ライブリフッド賞」を受賞。「科学に耳を傾け行動しよう」という呼びかけに9月、世界各地でデモが行われ、主催者によると抗議運動への参加者は660万人を超えました。

グレタさんは昨年8月から毎週金曜日に学校をサボって、スウェーデン議会前での座り込みを始めました。最初グレタさんは独りぼっちでした。しかし座り込み運動はオーストラリアやベルギー、ドイツ、米国、日本など十数カ国に広がりました。

気候変動で最も大きな影響を受けるのはグレタさんらZ世代です。米シンクタンク、ピュー研究所は米国の世代を次のように区分しています。

グレート世代(1927年以前生まれ)

サイレント世代(28~45年生まれ)

ベビーブーマー(46~64年生まれ)

X世代(65~80年生まれ)

ミレニアル世代(81~96年生まれ)

Z世代(96年以降生まれ)

グレタさんはこう訴えます。「ほとんど語られていない事実がある。我々は6回目の大量絶滅の危機の最中にある。最大で200種の生物が毎日絶滅している。今日の絶滅率はこれまでノーマルとみられていたレベルの1000~1万倍に達している」

「今日の温室効果ガスの排出量からすると、富裕国は6~12年のうちに排出量をゼロにする必要がある」「あなたは自分の子供たちを何よりも愛していると言うかもしれない。にもかかわらず、あなたは子供たちの目の前で子供たちの未来を盗み続けている」

ロンドンのトラファルガー広場で抗議運動をする「絶滅への反逆」の参加者(同)
ロンドンのトラファルガー広場で抗議運動をする「絶滅への反逆」の参加者(同)

環境問題へのソリューションになるリチウムイオン電池

今年のノーベル化学賞に輝いた吉野氏は記者会見でリチウムイオン電池が環境問題へのソリューションを示すだろうと何度も強調しました。

「ストックホルムの人はリチウムイオン電池が環境問題に1つの答えを出してくれることに対して非常に期待されておりました。そういった意味合いで、リチウムイオン電池が受賞対象になったことを非常にうれしく思います」

「リチウムイオン電池というのは電気を蓄えるというのが一番の機能。電気自動車の普及はリチウムイオン電池でないとできません。単に車をクリーンにするだけではなくて、電気自動車が普及いたしますと巨大な蓄電システムが自動的に出来上がります」

「そうしますと太陽電池とか風力発電とか、非常に変動の激しい発電技術が非常に普及しやすくなってくる。そこのところがたぶん一番大きな環境問題への貢献だと思います」

「再生可能エネルギーで発電するという社会システムをつくっていかなきゃいけないと思います。それによって発電所から出るCO2(二酸化炭素)の問題が解決されていくかと思います。そのためには絶対、蓄電システムが必要なんです」

「そのためだけに蓄電システムをつくろうとすると相当な費用がかかります。電気自動車に積んでいる電池が蓄電システムという機能も持つんですよと。そうしますと太陽電池ですとか、そういったサステナブル(持続可能)な発電が非常にしやすくなっていくと思います」

「リチウムイオン電池の技術はさらに進んでいくかと思います。電気自動車、その次はたぶん海とか空の、飛行機を飛ばそうという話も出てきております」

経済成長を維持するためプーチン大統領やトランプ大統領のように石油や石炭などの化石燃料に頼るというのは最も安易な考えでしょう。過渡的エネルギーとして原子力に依存するのは次善の策。

吉野氏のように技術革新によって温暖化対策に新しいソリューションを見つけ出すことがグレタさんのような子供世代に大人が示さなければならない本当の仕事ではないのでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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