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【ラグビーW杯】オールブラックスがハカと日本式のお辞儀で教えてくれた他者への敬意と感謝

木村正人在英国際ジャーナリスト
観客に向かって日本式のお辞儀をするオールブラックスとカナダの選手(筆者撮影)

9トライもノックオンが相次いだ理由

[大分発]ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会1次リーグB組のニュージーランド対カナダ戦63-0を大分スポーツ公園総合競技場で観戦しました。史上初の3連覇を目指すオールブラックスが9トライで今大会最多63点を奪う猛攻を見せました。

ナマで見るニュージーランド・マオリの民族舞踊ハカはド迫力でした。勇猛な踊りで、対戦相手へのリスペクト(敬意)と感謝の気持ちを示すそうです。

オールブラックスの選手たちが披露したハカ(筆者撮影)
オールブラックスの選手たちが披露したハカ(筆者撮影)

80分間で「オールブラックス」が前進した距離は906メートル。司令塔のFBボーデン、ロックのスコット、WTBジョーディーのバレット3兄弟がそろってトライ。15人の意思が統一された速い展開に驚きました。

しかしノックオン(ボールを前に落とす反則)が意外と多かったので、どうしてかなと思っていると、日本の湿気と暑さでボールが非常に滑りやすいそうです。

トライ寸前でノックオンし、試合後に苦笑いするボーデン・バレット選手(筆者撮影)
トライ寸前でノックオンし、試合後に苦笑いするボーデン・バレット選手(筆者撮影)

各国ともシャンプーを混ぜた水にボールを浸したり、ベビーオイルをつけたりして練習しているそうです。同じ会場で行われる試合の条件をそろえるため大分スポーツ公園総合競技場の開閉式の屋根は閉じられていました。それで湿気が充満し、さらに滑りやすくなっていたようです。

6万9000人の観客にお辞儀

オールブラックスは初戦の南アフリカに勝った後、選手たちが詰め掛けた6万9000人の観客を前に深々と頭を下げ、温かい声援に対する感謝の気持ちを示しました。この日はカナダの選手とともに観客席を回って、4度もお辞儀をしました。

お辞儀をするオールブラックスとカナダの選手(筆者撮影)
お辞儀をするオールブラックスとカナダの選手(筆者撮影)

お辞儀はもともと日本チームが始めたものです。イタリア対ナミビア戦でも両チームが試合終了後、雨にもかかわらず最後まで残って応援してくれた観客に向かってお辞儀しました。ウルグアイ、サモア、アイルランド、ウェールズなどもこれにならいました。

移動の新幹線でウェールズ、南アフリカのサポーターに感想を尋ねると「ラグビーでは試合終了後、選手が観客席に向かって手を振るチームは少ないと思うよ」との返事。選手たちは日本の観客に感謝の気持ちを伝えるため日本式のお辞儀をしています。

サッカーの試合では観客席から相手チームへの罵倒と侮蔑が浴びせられるのが日常の光景です。それに対して、ラグビーは相手へのリスペクトを忘れない紳士のスポーツであることを痛感させられます。

オールブラックスのサポーター(筆者撮影)
オールブラックスのサポーター(筆者撮影)

大分ではオールブラックスのユニフォームを着ている多くの日本人サポーターに出会いました。オールブラックスのお辞儀は間違いなく日本人サポーターを増やしています。タトゥーを入れている選手は公共の場ではタトゥーをできるだけ見せないように配慮しているそうです。

ニュージーランド南部クライストチャーチでは今年3月、モスク(イスラム教の礼拝所)が半自動小銃を持った男に襲撃され、50人が射殺される悲劇が起きました。犯人は28歳のオーストラリア国籍を持つ28歳の男で、白人至上主義者でした。

オールブラックスのハカとお辞儀で、相手へのリスペクトという大切なメッセージが世界中に広がることを祈ります。

大成功を収める日本大会

9月16日には、地元の約1万5000人が北九州スタジアムを埋め尽くし、ウェールズの練習を見学。ウェールズ国歌「わが父祖の土地」を斉唱したことが英国で大きなニュースになりました。大分の試合会場でも隣の日本人サポーターは両チームのアンセム(賛歌)を歌っていました。

サッカーのW杯では日本人サポーターはお掃除文化で世界を感激させ、ロシア大会決勝トーナメント1回戦でベルギーに敗れた日本代表は更衣室をきれいに片づけて「スパシーバ(ありがとう)」と書いたメモを残して去ったことが称賛されました。

世界中のスポーツイベントで日本人アスリートのお片付けが有名になっているそうです。

日本は開幕戦の終了後、リーチマイケル主将(東芝)が対戦相手のロシアのロッカールームを訪れ、最も活躍した選手に模造刀の日本刀を渡し、日本式でノーサイドの精神を伝えました。

海外サポーターの誰に日本大会の印象を尋ねても「素晴らしい」という答えが返ってきます。日本大会はすでに大きな成功を収めているようです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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