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イラン革命防衛隊が英国タンカーを拿捕未遂 緊迫するホルムズ海峡に安倍首相は護衛艦を派遣するのか

木村正人在英国際ジャーナリスト
ホルムズ海峡で英国タンカーを護衛した英海軍のHMSモントローズ(資料写真)(提供:Mass Communication Specialist 1st Class Adam C. Stapleton/U.S. Navy/ロイター/アフロ)

英海軍のフリゲート艦が護衛

[ロンドン発]イランのイスラム革命防衛隊が原油輸送の大動脈ペルシャ湾からホルムズ海峡を抜けようとした英国の石油タンカー「ブリティッシュ・ヘリテージ」を拿捕しようとして失敗したと米CNNが10日、米高官2人の話として報じました。

イラン革命防衛隊の小型船5隻がタンカーに進路を変更して近くのイラン領海で停船するよう命じました。後方からタンカーを護衛していた英海軍のフリゲートHMSモントローズが甲板の30ミリ機関砲を向け、無線で離れるよう警告したため、事なきを得ました。

英海兵隊は英領ジブラルタル自治政府の要請を受け4日、欧州連合(EU)の対シリア制裁に反して南アフリカ・喜望峰経由でシリアに原油を運んでいたイランの石油スーパータンカー「グレース1」をジブラルタル沖で拿捕したばかり。

これに対して、イラン革命防衛隊の元司令官が「英国がイランの石油タンカーを解放しないなら、英国の石油タンカーを拿捕する」とツイート。ハッサン・ロウハニ大統領も「英国はこの結果を見ることになる」と警告を発していました。

イランの核・ミサイル開発、テロ支援を巡って米国とイランの緊張はエスカレートする一方です。10日、国際原子力機関(IAEA)特別理事会がウィーンで開かれましたが、イランは「核合意を破壊しようとしているのは米国だ」と主張し、米国と激しく対立しました。

「イランは密かに濃縮を続けている」トランプ氏

ドナルド・トランプ米大統領はこうツイートしています。「イランは長きにわたって、ジョン・ケリー元米国務長官とオバマ前政権が1500億ドルもかけたひどい合意を破って、密かに『濃縮』を続けてきた。この合意は短い年数で終了することを記憶にとどめよ。間もなく対イラン制裁は本質的に強化される」

ジョセフ・ダンフォード米統合参謀本部議長は9日「中東地域の自由航行を確保するため米国と同盟国は有志連合をつくる方向で動いている」ことを明らかにしました。

「国務長官と国防長官と私は、ホルムズ海峡とバブ・エル・マンデブ海峡(紅海とアデン湾を分けるジブチ国境付近の海峡)の自由航行を確保するため有志連合を作れるか、いくつかの国と連絡を取っている」

「米国の観点からは米国は海上安全保障を確保する海上領域認識と監視を提供するだろう」「要請があれば商船の護衛のため米海軍の艦艇が護衛する」

「しかし通常時は商船の旗国が護衛することになる。米国が提供できるのは海上領域認識と情報、監視、偵察とその海域で有志連合の艦艇を調整し、パトロールを行うことだ」

中東の石油への依存度が激減した米国

トランプ大統領は先月24日、こうツイートしていました。「中国は原油の91%を(ホルムズ)海峡から輸入している。日本は62%だ。他の多くの国も似たような状況だ。どうして我が国が他の国々のために何年も何の見返りもなしにシーレーンを守らなければならないのか」

「(ホルムズ海峡を通って運ばれてくる原油に依存する)こうしたすべての国はいつも危険な旅を強いられている自国の船舶を自分たちで守るべきだ」

こうした米軍の海上治安活動への「ただ乗り」発言はホルムズ海峡周辺でタンカーが攻撃されて以降、マイク・ポンペオ国務長官やポール・セルバ統合参謀本部副議長から相次いでいました。

「中国はホルムズ海峡に膨大なエネルギー輸送を依存している。韓国、インドネシア、日本にもこの海上輸送路の自由航行を確保することに大きな利益がある。米国はもちろん役割の一部を担うが、どの国も海上輸送路を守る利益を有している」(ポンペオ氏、6月18日)

ペルシャ湾からホルムズ海峡、オマーン湾にかけての海上治安活動は米中央軍傘下の第5艦隊を軸に英国、イタリア、オーストラリア、湾岸諸国で構成される「第152合同任務部隊(CTF152)」が担当しています。

有志連合はソマリア沖の海賊対処活動を想定か

香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官は筆者に次のような見方を示していました。

「米国はシェールガス革命で間もなくエネルギー純輸出国になるので、ホルムズ海峡の海上治安活動は狭い意味で米国の国益とは関係なくなりました。他国のために米国が主になってやりませんよ、と当事国に今後の対応を迫ったわけです」

「現在、日本はホルムズ海峡の海上治安活動に艦艇を出していません。ホルムズ海峡の海上治安活動の有志連合に入るかどうかの判断を迫られるでしょう」

「ソマリア沖の海賊対処活動で多国籍部隊としては第151合同任務部隊(CTF151)が編制され、自衛隊は護衛艦と派遣航空隊を編入しました。これと同じような形で西側諸国による有志連合が編成され、航行する船舶を護衛することになるでしょう」

(筆者注)ソマリア沖の海賊対処活動では、海上警備行動に基づいて護衛艦2隻が民間船舶を前と後ろから護衛し、P3C哨戒機が不審船情報を護衛艦や他国の艦艇、周辺の商船に提供。海賊対処法による護衛活動が開始されてからは、あらゆる船舶を護衛している。

昨年の護衛回数は29回(海賊対処法以降、累計800回)で、護衛隻数は38隻(累計3864隻)。

P3C哨戒機の飛行回数は237回(累計2188回)で、飛行時間は約1660時間(累計約16570時間)、情報提供回数は約640回(累計約13800回)にのぼっている。

「日本船舶の直接の護衛は日米安全保障条約の対象ではありません。だから自衛隊が守らなければなりません」

「ホルムズ海峡を通って日本に原油を運んでくる相当数のタンカーの船籍は日本ではありません。自衛隊がなぜ日本を仕向け地とする外国船籍の船を守るのかという特別措置法の検討ぐらいは今から始めておかなければなりません」

(筆者注)海運の世界では船の所有者、船籍国、管理者、保険会社、再保険を掛ける保険会社、船長、船員、用船契約、積み荷の仕向け地の国が異なるのが普通。

1990年の湾岸戦争では戦争終了後、日本は海上自衛隊の掃海部隊を派遣し、機雷掃海を行っています。2001年の米中枢同時テロではテロ特別措置法を制定してインド洋に補給艦と護衛艦2隻を派遣、米国など数カ国の艦船に給油活動を行いました。

09年にはソマリア沖海賊対策のために自衛隊の護衛艦2隻と哨戒機を派遣。15年に制定された安全保障関連法で集団的自衛権の行使が限定的に容認された際、ホルムズ海峡が封鎖されれば、海上自衛隊を機雷掃海のため派遣できるとの政府見解を示しています。

ホルムズ海峡の緊迫で日本政府もトランプ政権から対応を迫られるのは必至です。

これまでの経過

15年7月、国連安全保障理事会常任理事国5カ国とドイツ(P5+1)、EUとイランによる核合意。核開発活動を10~15年制限して監視下に置く代わりに欧米側は経済制裁を解除

16年3月、米共和党の大統領候補の1人だったトランプ氏がイラン核合意は「史上最悪の合意」と破棄を公約に掲げる

17年1月、トランプ大統領就任

18年5月、トランプ大統領が核合意からの離脱を宣言。11月から経済制裁を再開。新しい核合意のための12項目を要求

19年1月、英仏独3カ国がドルを使わないイランとの貿易メカニズムを構築

4月、イランが米国との新しい核合意のための交渉を否定。米国が対イラン追加制裁を検討

5月2日、トランプ政権がイラン産原油を全面禁輸

5月5日、ジョン・ボルトン米国家安全保障問題担当大統領補佐官が「イランが米国や同盟国を攻撃すれば容赦のない報復を受ける」と警告。米空母エイブラハム・リンカーンを中東に派遣

5月12日、サウジの石油タンカー2隻を含む4隻がアラブ首長国連邦(UAE)沖で攻撃される

5月16日、サウジアラビアが、イランが石油パイプラインを攻撃したと非難

5月20日、イラクの首都バグダッドの旧米軍管理領域に自走式多連装ロケット砲が撃ち込まれる。米国大使館近くに着弾

・イラン原子力庁報道官が低濃縮ウランの製造量を4倍に増やすと発表

5月24日、トランプ大統領が米軍1500人の中東への追加派兵を命令

6月12日、イエメンのフーシ派がサウジアラビアのアブハ空港を攻撃し、市民26人が負傷

6月12、13日、安倍晋三首相が現職首相として41年ぶりにイランを訪問し、米海軍退役軍人の解放を要請。イラン最高指導者アリ・ハメネイ師は原油禁輸制裁の停止を要求

6月13日、原油輸送の20%を占める大動脈、ホルムズ海峡近くで東京の海運会社「国華産業」が運航するタンカーと台湾の石油大手、台湾中油のタンカーが攻撃を受ける

6月17日、イランが10日後に低濃縮ウランの貯蔵量300キログラムの制限を超えると警告。7月7日から最大20%のウラン濃縮を始める可能性があるとも予告する

6月18日、米軍がさらに兵士1000人を中東に追加派兵と発表。追加派兵の規模は計2500人に

6月20日、イラン革命防衛隊が領空侵犯した米国の無人偵察機RQ-4グローバルホークを撃墜と伝えられる

6月24日、トランプ大統領がハメネイ師を含む新たな対イラン制裁を発動。報復攻撃見送る

7月1日、イラン外相が低濃縮ウランの貯蔵量が核合意で定められた上限を超過したと発表。IAEAも確認

7月3日、英仏独の外相とEU外交安全保障上級代表が「合意を壊す措置をさらに取らないように」求める共同声明

7月4日、英海兵隊がイランの30万トン級石油タンカーを英領ジブラルタル沖で拿捕

7月7日、イラン政府がウランの濃縮上限の3.67%を突破すると発表。60日ごとに核合意違反をエスカレートさせていくと警告

7月10日、IAEA特別理事会でイランと米国が激しく対立。イラン革命防衛隊が英国の石油タンカーを拿捕未遂

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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