ついに堪忍袋の緒が切れた安倍首相 韓国への先端素材に輸出規制 泥沼化する日韓関係

G20大阪サミットで安倍首相と韓国の文大統領は5秒間握手しただけ(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「日韓間の信頼関係が著しく損なわれた」

[ロンドン発]経済産業省は7月4日からテレビやスマートフォンの有機ELディスプレー部分に使われるフッ化ポリイミド、レジスト(感光材)、フッ化水素の韓国向け輸出と製造技術の移転について個別に輸出許可申請を求め、輸出審査を行うと1日発表しました。

先の20カ国・地域(G20)大阪サミットで日韓首脳会談は開かれず、安倍晋三首相は出迎えの時、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と5秒間握手を交わしただけ。北朝鮮の核・ミサイル問題を巡る米朝交渉が新たな動きを見せる中、緊密な連携が求められる日韓関係は戦後最悪の状態に陥っています。

ドナルド・トランプ米大統領が、不公正な貿易であると米国が認定した場合、その国に対して一方的に制裁措置をとることができる1974年通商法301条(スーパー301条)を適用して中国に追加関税を発動したように、安倍首相も外為法に基づく厳格な輸出管理を発動した形です。

経産省は「日韓間の信頼関係が著しく損なわれたと言わざるを得ない状況」と指摘。韓国に関連する輸出管理を巡り不適切な事案が発生したとして輸出審査を行うとしています。日経新聞によると「不適切な事案」の具体的な中身は明らかにされなかったそうです。

この問題については産経新聞が6月30日付の1面で「政府は、韓国への輸出管理の運用を見直し、(略)フッ化ポリイミドや、半導体の製造過程で不可欠なレジストとエッチングガス(高純度フッ化水素)の計3品目の輸出規制を7月4日から強化する」とスクープしていました。

韓国政府「国際通商慣行上、常識的ではない」

産経新聞は「いわゆる徴用工訴訟をめぐり、韓国側が関係改善に向けた具体的な対応を示さないことへの事実上の対抗措置。発動されれば、韓国経済に悪影響が生じる可能性がある」と分析しています。

国際的な輸出管理の枠組みに参加し、輸出管理を厳格に実施している国は「ホワイト国」(27カ国)と呼ばれ、輸出許可の申請が免除されています。経産省は「ホワイト国」から韓国を削除するための政令改正について意見募集手続きを開始しました。

フッ化ポリイミドなど3品目は世界の全生産量の7~9割を日本が占めているため、規制が厳しくなれば、韓国を代表する半導体大手サムスン電子や、LGエレクトロニクスに大きな影響を与えるのは必至です。

これに対し中央日報は1日、韓国の産業通商資源部関係者は「報道が出る前まで、日本から貿易報復措置に関するいかなる文書や口頭通知も受け取っていない」「事実なら国際通商慣行上、常識的ではない」と不快感をにじませたと報じました。

「韓国政府は内部的に半導体など核心素材・材料の国産化率を高めることに注力する方針を固めた」とも伝え、対抗措置として世界貿易機関(WTO)への提訴もという元通商交渉本部長のコメントを掲載しています。

また「韓国が先制的に強制徴用解決策具体化しなくては」というコラムの中で「安倍首相が他の国の首脳とは会談したのに『戦略的利益を共有する最も重要な隣国』だった韓国は排除された」と指摘しています。

朝鮮日報は「『華為(ファーウェイ)制裁の10倍』の衝撃、韓国政府は日本の報復に備えているのか」という社説の中で「強制徴用賠償判決や慰安婦財団解散などが重なり、感情的な溝を深めてきた韓日関係が、ついに一触即発となりかねない局面に至っている」と警鐘を鳴らしました。

最悪の日韓関係

「親日残滓(ざんし)の清算」を進める文在寅大統領の登場で日韓関係は最悪の状態に陥っています。

昨年10~11月、元徴用工・元朝鮮女子勤労挺身隊員の戦時下動員を巡り韓国大法院(最高裁)が日本製鉄(旧新日鉄住金)や三菱重工業の差し戻し上告を棄却、損害賠償の支払いを命じる。元徴用工は賠償に応じない場合、企業の資産を差し押さえて売却する手続きを進めている

昨年11月、日本政府が一時、韓国に輸出されるフッ化水素の一部を承認しない事態が発生

昨年12月、韓国海軍艦艇が自衛隊哨戒機へ火器管制レーダーを照射

今年1月、日本政府は1965年の日韓請求権協定に基づく協議を要請。韓国政府は応じず

今年2月、韓日議員連盟会長を務めたこともある韓国の文喜相(ムンヒサン)国会議長が米ブルームバーグのインタビューに「戦争犯罪の主犯の息子」である日本の天皇が元慰安婦に謝罪すれば慰安婦問題は解決すると発言

3月、文在寅大統領が「親日残滓の清算」を進めると演説。独立運動に関して「約7500人の朝鮮人が殺害された」と述べ、日本政府は「歴史家の間でも争いがある数字だ」と反発

・戦時中に朝鮮半島出身者を働かせて軍需物資を生産した日本企業を「戦犯企業」として責任を追及する条例案が韓国の地方議会で相次いで提出される

6月、日本政府は元徴用工問題の解決に向け、日韓請求権協定に基づき第三国に委員の人選を委ねる形での仲裁委員会開催を韓国政府に要請

・文在寅大統領は、日韓両国企業が出資して損害賠償金の財源をつくる韓国政府提案は「現実的な解決策」と主張

参院選向けパフォーマンス?

7月4日の参院選公示を前にしたパフォーマンスなのでしょうか。それとも安倍首相の堪忍袋の緒が切れたのでしょうか。日本政府は、元徴用工らへの補償は日韓請求権協定で解決済みとの立場を崩しておらず、個人請求権を認めていません。

韓国政府が認定した元徴用工は約22万6000人。個人請求権を認めると、北朝鮮との国交が正常化された場合、賠償額が膨れ上がる恐れがあります。日本の賠償は2国間で行われてきたため、韓国だけ例外扱いするわけにはいかないという事情があります。

その一方で戦争被害者個人の補償問題が残されてしまいました。日韓関係の悪化は日韓両国企業にとっても大きなマイナスです。歴史問題とそれ以外の経済協力を切り離す必要がありますが、元徴用工問題と今回の報復措置でこの2つが完全に結びついてしまいました。

日本の民間非営利団体「言論NPO」と韓国のシンクタンク「東アジア研究院」の世論調査では、日本企業に賠償を命じた元徴用工問題の韓国大法院判決について、日本は「全く評価しない」38.2%「あまり評価しない」20.5%と回答。

一方、韓国は「非常に評価する」45.9%「一定程度評価する」29.6%と答え、58.1%が「韓国最高裁の判決に従い、日本企業が賠償を行う」ことを求めています。日韓の溝は埋めようがないほど開いており、政治の対立は両国の世論を反映した形になっています。

日本は韓国社会の不満のはけ口

日本に追いつけ追い越せで急激に工業化を進めた韓国では国民は疲弊し切っています。

・韓国の失業率は4%(日本は2.4%)

・韓国の自殺率(人口10万人当たりの自殺者数)は20.2(日本は14.3)

・韓国の平均寿命は82.3歳(日本は83.7歳)

・経済協力開発機構(OECD)の調査で韓国の66歳以上の貧困率は45.7%(日本は19%)

・グローバル予測・定量分析会社オックスフォード・エコノミクスによると、韓国の工場労働者1万人当たりのロボット導入数は631台(日本は303台)

今後のロボット化や「中国製造2025」で韓国の工場労働者はさらに仕事を奪われてしまうでしょう。韓国が日本にやたら強く当たり始めたのは、日本を追い越したという過信以上に超競争社会の不満を日本に向けているという面もあるのではないでしょうか。

韓国の求める個人請求権に応じると日本政府はすべての国の個人請求権に応じなければならなくなります。それでなくても政府債務残高が国内総生産(GDP)の240%近くに膨らんでいる日本の財政は完全に破綻してしまいます。

今回の先端素材に対する輸出規制が日韓関係をさらに悪化させる恐れは十分にあります。「親日残滓の清算」を掲げる文在寅大統領に率いられた韓国が現実的に歴史問題を見直すきっかけになることを願わずにはいられません。

(おわり)