信頼度最下位・朝日新聞への伝言 ロイター・ジャーナリズム研究所長に尋ねてみた

「デジタルニュース・リポート2019」より抜粋して筆者加工

[ロンドン発]朝日新聞の信頼度が昨年に続き、五大紙で最下位になったロイター・ジャーナリズム研究所の調査報告書「デジタルニュース・リポート2019」(38カ国・地域、7万5000人対象)。

同研究所のラスマス・クリーズ・ニールセン所長(英オックスフォード大学教授)に朝日新聞を含め日本の新聞社が取り組まなければならない課題を尋ねてみました。

ニールセン所長(筆者撮影)
ニールセン所長(筆者撮影)

――日本の新聞はデジタル化が非常に遅れ、困難に見舞われています。どのようにすれば良いジャーナリズムを守っていくことができますか

「最初に、獲得したい読者がどこで情報とニュースにアクセスしているのかを知る必要があります。日本を含め世界中の若者は主にオンラインで情報やニュースを得ています。大部分は検索エンジンとソーシャルメディア、ポータル(インターネット の玄関口となる巨大なウェブサイトのこと)、メッセージアプリケーションです」

「報道機関は獲得したい読者がどうのように情報やニュースに接しているか、自分の求める読者がどこにいるのかを知る必要があります。彼らが抱えている問題、報道機関が過去に解決してきた問題を検証して、いまジャーナリズムが立つところを知らなければなりません。ベストジャーナリズムは社会に価値を付け加えるものでなければなりません」

――今回の報告書ではオンライン上の有料の新聞読者は頭打ちになっています

「多くの新聞社はオンラインのニュースに対してお金を払って下さいということをまだ、ためらっています。もう20年以上もオンラインのニュースは無料で読めるようになっています。アグリゲーターのサイトを通じてもニュースは無料で読めます」

「もし読者に対して購読料を払いたいなら払ってくれますかと頼んでみる。まず無料の読者に購読料を払って下さいと言ってみることです。次にジャーナリズムがその購読料に値することを示すことです。読者の視点に立ってそれが必要な情報かを吟味しながら取材し、ニュースを発信することです」

――朝日新聞の信頼度が今年も昨年に続き、五大紙の中で最下位になってしまいました。右派と左派の政治的な分断が背景にあると思いますが、どう対処すれば良いのでしょう

「私は報道機関にこうアドバイスしています。すべての人の信頼を勝ち取ろうとは思うなと。報道機関としてどのような読者にアピールしたいのかにフォーカスすることです」

「自分の読者にとって有益な情報を把握し、しっかり伝えていくことが大事です。自分の読者の信頼を獲得し、維持していくことが大切です」

「社会全体から信頼を得るのはだんだん難しくなってきています。人々の意見やアイデンティティー、価値観は大きく異なるようになっています。すべての人の信頼を勝ち取ろうとしないことです。それは非常に難しくなっています」

米国の右派は9%しかニュースメディアを信頼していない

ニュースに対する総合的な信頼は44%から42%に下がりました。自分が読んでいるニュースに対する信頼も51%から49%に下がっています。検索エンジンで読んだニュースの信頼は1ポイント減の33%、ソーシャルメディアは横ばいの23%でした。

ニュースを避けている人は2017年より3ポイント増えて32%。ギリシャは54%、米国41%なのに対して、日本は11%にとどまりました。

軍事政権時代を称賛し、差別発言や過激発言を繰り返した「ブラジルのトランプ」ジャイル・ボルソナロ大統領が誕生したブラジルでは11ポイント減の48%、「黄色ベスト運動」が吹き荒れたフランスは11ポイント減の24%です。

米国ではニュースメディアを信頼する右派はわずか9%。これに対して左派は53%。ドナルド・トランプ大統領の誕生を境に右派と左派の両極化が進んでいます。

昔は題字をとればどれも同じと言われた日本の新聞ですが、政治や社会が分断しているように、新聞の読者もくっきり分かれるようになりました。朝日新聞が読売新聞や産経新聞の読者の信頼を得ようと思っても土台無理なわけです。

筆者は日本の新聞では日経新聞と朝日新聞のデジタル版をとっています。理由は簡単です。取材現場で一番よく会うのがこの2紙だからです。取材体制も手厚いし、自分の書いた原稿と読み比べて、吸収できるところは吸収しています。

その一方で朝日新聞の論調は筆者からすると左寄り過ぎて、もう少し中道に寄せた方が、読者が増えるのではとも感じます。

蒲島郁夫・熊本県知事が東京大学大学院法学政治学研究科教授だった頃、こんなお話をお伺いしたことがあります。「読売新聞の読者は自民党支持、朝日新聞の読者は民主党(当時)支持、産経新聞の読者は自由党(同)支持、だいたい、こんな感じに色分けできるのでは」

朝日新聞の信頼度が回復しないのは、従軍慰安婦報道の「吉田清治証言」、元福島第一原発所長、吉田昌郎氏の「吉田調書」報道を巡る後遺症とともに、朝日新聞の論調と親和性のあった民主党が崩壊してしまったことが大きいように思います。

デジタル時代に生き残るのはクオリティーペーパーだ

デジタルだけの購読者は報告書によると

ニューヨーク・タイムズ紙330万人

ウォールストリート・ジャーナル150万人

ワシントン・ポスト120万人

フィナンシャル・タイムズ74万人

です。

クオリティーペーパーほど有料のデジタル購読者を獲得できることはすでに証明済みです。

双方向というインターネットの特性を生かして、読者のニーズにリアルタイムで応えていくことがかぎになります。権力者が知らしめたいことより、読者が知りたいことに応えていくことが重要です。

もう夜回りや朝駆けはやめた方がいいのではないでしょうか。経費の無駄遣いであるばかりか、読者に対する裏切りです。

紙の新聞も自然と今の部数になったわけではありません。専売店や拡張員が必死に拡張したから増えたのです。デジタル版も同じように拡張すれば購読者が増えないわけがありません。

そこに住まいと職場、生活、趣味、娯楽、仕事と関連付けたパーソナライズド広告やネット販売を絡めることができれば利益率は格段に上昇するのではないでしょうか。

それができないのは発行本社の販売局、専売網の反対が強いからです。

新聞社は高齢者を対象にした「紙」と獲得したい若者を対象にした「デジタル」に分社化して意思決定を分けて行えるようにする必要があります。

新聞社が「紙」から「デジタル」への移行をスムーズに進めることができなければ、急激にデジタル化する世界の中で日本は完全に沈没してしまうでしょう。

(おわり)

参考:朝日新聞の信頼度は今年も五大紙で最下位 新聞のデジタル読者は一部を除いて頭打ち(2019年6月16日)

朝日新聞の信頼度、五大紙の中で最下位 産経新聞を下回った理由とは(18年6月20日)

朝日新聞の謝罪で日本の名誉は回復されたのか(14年9月25日)

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