朝日新聞の信頼度は今年も五大紙で最下位 新聞のデジタル読者は一部を除いて頭打ち

五大紙の中で信頼度が最下位の朝日新聞(写真:西村尚己/アフロ)

ライバルはネットフリックス

[ロンドン発]「デジタルニュースを購読するぐらいならネットフリックス(Netflix)やスポティファイ(Spotify)」「デジタルニュースの購読者はそれほど増えていない。ノルウェーは34%なのに対し日本は7%」「デジタルの購読紙は1つの人が大半」――。

紙の新聞が衰退の一途をたどる中、デジタルの未来も決して明るくないことが英オックスフォード大学内に設置されているシンクタンク、ロイター・ジャーナリズム研究所の調査報告書「デジタルニュース・リポート2019」(38カ国・地域、7万5000人対象)で分かりました。

「デジタルニュース・リポート2019」より抜粋
「デジタルニュース・リポート2019」より抜粋

米国では主要メディアを「フェイク(偽)ニュース」と罵倒し続けたドナルド・トランプ大統領が就任した2017年にデジタルニュースの購読者が16%にハネ上がりました。しかしインターネット普及率が高いノルウェー(99%)やスウェーデン(97%)を除くと頭打ちの状態です。

政治部長も早期退職した産経新聞

筆者の古巣の産経新聞が希望退職を募り、政治部長が応じたことがニュースになりました。今年3月期決算は退職金の支払いなどで約20億円の赤字を計上しました。紙の販売・広告収入が落ち込む中、デジタルにも希望を持てないとなると新聞経営は非常に苦しくなってきます。

日経新聞と並んでデジタル化に取り組む朝日新聞の信頼度は昨年に続いて五大紙の中で最下位。媒体を認識している人の信頼度を0~10で指標化したところ新聞では日経新聞が6.09ポイント(昨年比+0.01P)でトップです。

2位は地方紙の5.94ポイント(同+0.07P)。3位は読売新聞5.8ポイント(同+0.04P)、4位は産経新聞5.78ポイント(同+0.1P)、5位は毎日新聞5.65ポイント(同+0.02P)、朝日新聞は最下位の5.39ポイント(同+0.04P)に沈みました。左派メディアはどうも不利なようです。

読者の信頼度を見ると日経新聞が首位の7.08ポイント(同+0.25P)。2位は地方紙6.63ポイント(同+0.18P)、3位は読売新聞6.59ポイント(同+0.14P)、4位は朝日新聞6.47ポイント(同+0.2P)、5位は毎日新聞6.45ポイント(同+0.19P)。

最下位は昨年2位の産経新聞で6.36ポイント(同▲0.15P)。日経新聞の信頼度が高いのは英紙フィナンシャル・タイムズの買収でデジタル化とグローバル化を一気に進め、読者の分析を通じてニーズに応じた紙面作りを進めているからでしょう。

しかし新聞のライバルは新聞ではありません。

有料でコンテンツを提供し、数十億ドルを稼ぐネットフリックス(契約者1億5000万人)やスポティファイ、アップル・ミュージック、アマゾン・プライムです。このほかにスポーツやオンライン・ギャンブル、デートサービスもあります。

活況を呈するオンラインのコンテンツ業界

45歳未満の回答者に「もし来年、たった1つだけ契約するとしたらどのサービスにしますか」と尋ねたところ次のような結果になりました。

オンラインビデオ37%

オンラインミュージック15%

オンラインニュース7%

筆者の友人家族はロンドンでインディペンデントのフィルムプロデューサーとして活躍しています。ネットフリックスやアマゾン・プライムの台頭で目の回るような忙しさだそうです。監督、脚本家、俳優は取り合いで報酬はハネ上がっています。

映画は一時「斜陽産業」と言われていました。アカデミー賞作品にも関わったことがある友人は「英国政府のサポートもあったし、不安に思ったことは一度もない。不況になればなるほど映画は必要とされる。エンターテイメントは永遠だから」と言います。

最近、英BBC放送や米国のテレビドラマを見ていても、脚本も良いし、俳優の演技も素晴らしい。ネットフリックスには世界中の才能と金が集まってきているのに、新聞社ではリストラが進み、人材の流出が止まりません。

テレビ報道もインターネット時代の悩みを抱えています。最近、テレビの特派員からこんな話を聞きました。

「どんなに急いで現場に駆けつけても、誰かがすでにスマホで撮影している。ニュースの冒頭は素人が撮影した映像になる。私たちの現場レポが流されるのはその後だ」

インターネットで加速する「中抜き」

12年に産経新聞を早期退職した筆者はオンラインでのニュース発信にフォーカスしています。インターネット時代はどうしても「中抜き」になるので巨大プラットフォーマーとコンテンツメーカーしか生き残れないと考え、日々、試行錯誤を繰り返しています。

大阪社会部で16年間、事件記者をした後、東京で社長秘書(2年間)をし、政治部と外信部のデスク(計4年間)、ロンドン特派員(5年間)をして50歳で産経新聞を卒業しました。

恥ずかしい話ですが、自分で実際に取材するまで政治・経済・国際ニュースが何を書いているのかさっぱり分かりませんでした。今でも自分で読んでいてよく分からないニュースは調べ直してエントリーしています。「分かりやすかった」という反応があるとうれしくなります。

日本のバブル崩壊を見事に予測した英誌エコノミストのビル・エモット元編集長は出会うと、大勢の前でいつも「オーイ、マサト」と声を掛けてくれるので赤面するのですが、本当に日本経済が抱える課題をよく把握していて分かりやすく解説してくれます。

最初は日本の新聞記者と英国のジャーナリストの本質的な違いが分かりませんでした。彼らと同じように記者会見に出て質問しているうちに大きな違いに気づきました。欧米の記者は事象をいくつかのエレメントに分けて他の国や過去データと比較して分析しています。

こうすると問題点がくっきりと浮かび上がり、分析に基づく将来予測や対策も指摘できるようになります。

権力に注意される日本メディア

さて、日本はどうでしょう。川崎20人殺傷事件や元農林水産事務次官が自宅で44歳の長男を殺害した事件をきっかけに中高年のひきこもりに焦点が当たりました。

これに対して根本匠厚生労働相は「安易にひきこもりなどと(事件を)結び付けるのは慎むべきだ」と求めました。日本の報道は権力を監視するどころか、注意されているのが現状です。

実際のところ「ひきこもりの中に無差別殺傷犯が多く見られる」ということと「無差別殺傷犯の中にひきこもりが多く見られる(法務省の調査では23%)」と表現することの違いを明確に認識できる日本人は果たしてどれぐらいいるのだろうと考え込みました。

大阪教育大学附属池田小学校の無差別殺傷事件をきっかけに心神喪失者等医療観察法が施行されましたが、無差別殺傷事件は後を絶ちません。

日本は「管理」と「隔離」を強化するよりも、診療報酬を見直して精神科病院の病床数を減らす代わりに、地域ケアを拡充して自殺対策を進めた方が良いのではないでしょうか。イタリアでは「自由こそ治療だ!」を合言葉に精神科病院をなくしました。

新聞記者時代の後悔はいくつかあります。その1つが1994年、制止警告を無視、歩行者4人をはねたドライバーの少年を警官が射殺した事件です。警官の武器使用が正当だったとしても少年の遺体の解剖が刑事訴訟法上、適切だったのか詳細な検証が必要だと考えたのです。

連載のコンテを作ってデスクに上げたとたん、警察担当の横やりが入って1本の大型記事にまとめざるを得ませんでした。英国ではこうした場合、遺族の要請に基づいて死因審問が開かれます。原則、公開で死に至る経過が証言や証拠に基づいて再現されます。

犠牲者は死ななくて済んだのではないか、その命を救うことができなかったのか、徹底的に検証されます。

日本にも死因審問制度があれば警官らの公権力行使による死亡や無差別殺傷犯について刑事裁判とは別に国民の「知る権利」に応えることができます。25年前に、死因審問についての知識があれば横やりをハネ退けることができていたはずです。

そうすれば死ななくて済んだ命を救うことができたのではないかと今でも後悔しています。

日本の新聞社が抱える阻害要因

新聞社で28年間働き、社長秘書として新聞経営に関わり、07年にプロジェクトマネージャーとして産経新聞のデジタル改革案をまとめた経験から見ると、日本の新聞には阻害要因が多すぎます。ロイター・ジャーナリズム研究所の報告書にもそれが端的に現れています。

「デジタルニュース・リポート2019」より抜粋
「デジタルニュース・リポート2019」より抜粋

「メディアは権力を監視しているか」という質問にドイツは読者・視聴者は37%、ジャーナリストは36%が「はい」と回答しました。これに対して日本は読者・視聴者17%、ジャーナリスト91%と非常に大きな開きがあります。

こういうのを「思い上がり」というのではないでしょうか。

日本メディアの情報発信は一方通行になっているため、発信者と受け手側に大きな認識のズレが生じています。新聞もテレビもデジタル化に取り組むのが遅れ、読者・視聴者の満足度を十分に分析して、それに応えてこなかったのが原因です。

筆者自身、新聞社時代、読者の顔を思い浮かべることは全くありませんでした。デスクや部長、局長の顔色や他社の動向ばかりをうかがって原稿を書いているからこんな現象が起きるのです。

日本メディアもそろそろ創造的破壊に本格的に取り組む時期が来ています。

(おわり)