Yahoo!ニュース

日米同盟に激震「日本は米国への攻撃をソニーのテレビで視ていられる」と言ってのけたトランプ大統領の本音

木村正人在英国際ジャーナリスト
G20サミットを前にホワイトハウスで報道陣に応じるトランプ米大統領(写真:ロイター/アフロ)

「日本が攻撃されたら米国は第三次大戦を戦う」

[ロンドン発]28、29日大阪で開催される20カ国・地域(G20)首脳会議を前に、米国のドナルド・トランプ大統領が26日、FOXビジネスネットワークのインタビューで日米安全保障条約に基づく安保協力について次のように語り、日本政府関係者を驚愕させました。

「もし日本が攻撃されれば、米国は第三次世界大戦を戦う。米国は私たちの命と財産をかけて日本人を助けるために戦闘に参加する。米国はいかなる代償を払っても戦う。いいかい?」

「しかし、もし米国が攻撃されても日本は私たちを助ける必要は全くない。日本人は米国への攻撃をソニー製のテレビで視ることができる。これが小さな違いか、どうだ?」

24日にはこうツイート。「中国は原油の91%を(ホルムズ)海峡から輸入している。日本は62%だ。他の多くの国も似たような状況だ。どうしてわが国が他の国々のために何年も何の見返りもなしにシーレーンを守らなければならないのか」

「(ホルムズ海峡を通って運ばれてくる原油に依存する)こうしたすべての国はいつも危険な旅を強いられている自国の船舶を自分たちで守るべきだ」

そして同じ日、米ブルームバーグ通信は、関係者3人の話としてトランプ大統領が最近、腹心に対して日米安全保障条約は片務的だと不平を言い、破棄する可能性について言及したと報じました。

移転問題が片づけば2022年にも日本に返還されることでバラク・オバマ米大統領(当時)と安倍晋三首相が合意した米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)について、トランプ大統領は約100億ドル(約1兆700億円)の不動産価値があると腹心に言ったそうです。

IISSのマーク・フィッツパトリック氏(筆者撮影)
IISSのマーク・フィッツパトリック氏(筆者撮影)

安全保障分野では世界的に権威のあるシンクタンク、国際戦略研究所(IISS)のマーク・フィッツパトリック前アメリカ本部長(現アソシエイト・フェロー)に緊急インタビューしました。フィッツパトリック氏は1979~2005年米国務省に勤務した元外交官で、東京やソウルにも赴任したことがある知日派の核専門家です。

――トランプ大統領の発言の狙いは何でしょう。日本との貿易交渉で安倍首相の妥協を引き出そうとしているのか、イランの核開発を巡って日本にさらなる貢献を求めているのでしょうか

フィッツパトリック氏「トランプ氏のゴールが何なのか理解するのは難しい。おそらくトランプ氏には安全保障上の同盟関係を交渉材料としてぶら下げれば日本との貿易交渉の助けになるというぼんやりした信念以外にゴールはないでしょう」

「心に留めておかなければならないのは、トランプ氏がこのようなことを言うのはこれが初めてではないということです。彼はこんなことを30年以上も言い続けてきました」

「あるかもしれないイランとの交渉に関係していることは一切ないと思います。日本はイラン産原油の輸入を止めるなど、米国から求められたことはすべて実行しています」

――日本政府はすでに大量の最新鋭ステルス戦闘機F35や無人航空機RQ4グローバルホークの調達を決めています。在日米軍駐留経費負担として「思いやり予算」を組んでいます。これ以上何をトランプ大統領は求めているのでしょう

「トランプ氏は『もっと』、カネに置き換えられるすべてのものを『もっと』ということの他に自分が何を求めているのか分かっていません。彼は日本が在日米軍基地のホスト国としてすでにどれほどの負担をし、米国からどれだけ兵器を調達しているのか理解していません。トランプ氏は、日本は何でも良いからもっと払うべきだと考えているだけです」

――なぜ、トランプ大統領はこの時期にこういうことを言い出したのでしょう。安倍首相にとっては7月に参院選が控えており、タイミングとして良くありません。逆にトランプ大統領は日本にプレッシャーをかける絶好のタイミングと考えたのでしょうか。それともトランプ大統領には日米安保を俎上に載せることで安倍首相の憲法改正を後押しする狙いがあったのでしょうか

「奇妙なタイミングです。ブルームバーグの報道はトランプ氏が公に言ったものではありません。私的な会話の中でトランプ氏が不平を漏らしていたことが報じられました。そこで問題になってくるのは、なぜいま3人の情報源が記者に話したかです」

「おそらくトランプ氏がG20サミットで訪日する準備をしている時に(日米同盟に関する)不平を改めて漏らしたからでしょう。ブルームバーグの情報源がそれを聞いた時、おそらく彼らはネガティブに反応し、それ(日米安保の破棄)は非常に悪い考えであることをトランプ氏に理解させる手段としてマスコミに話したのでしょう」

「トランプ氏は日本にプレッシャーをかける良いタイミングと考えたとか、安倍首相の憲法改正を後押ししようと考えたとかというようなことはありません。トランプ氏はこうした重要なディテールを考えることはありません。彼の不平にいかなる種類の戦術的なロジックを関連付けることも大きな誇張になるでしょう」

――日米安保に対するトランプ大統領の不平は大統領だけではなく、米共和党のタカ派にも共有されているのでしょうか

「トランプ氏の不平に同意する人間はワシントンにはほんの一握りしかいません。ケンタッキー州選出のランド・ポール上院議員のような孤立主義者の政治家の中には何人かいるかもしれません」

「しかし共和党のタカ派にはそんな考え方を持っている人はいません。彼らは米国に対する信頼を揺るがす危険性と、トランプ氏がこのように話すことで中国が得る利益を理解しています」

――日本政府はトランプ大統領の発言にどのように反応したら良いのでしょう。さらなる協力か、さらなる貢献か、それとも自衛隊をもっと柔軟に運用できるようにすべきなのでしょうか

「過剰反応しないことです。(ブルームバーグの報道を否定した)国務省の言葉を信じることです。彼らの話にはバイアスはかかっていません。日本政府は、米中の地政学的なライバル関係の中で日本は米国の緊密な同盟国であることをトランプ氏に思い起こさせ続けることです」

――安倍首相は現職首相として41年ぶりにイランを訪問しました。トランプ大統領は何をイランに伝えるよう安倍首相に託したのでしょう。ホルムズ海峡近くで東京の海運会社「国華産業」が運航するタンカーが攻撃された事件はそれに対する答えだったのでしょうか

「トランプ氏はおそらく自分は交渉のテーブルに着くつもりがあることをイランの指導者たちに伝えるよう安倍首相に頼んだのでしょう。そして、おそらく善意の印として拘束されている米海軍退役軍人の解放をイラン政府に促したのでしょう」

「なぜ安倍首相がイランの最高指導者アリ・ハメネイ師に会っているまさにその時に国華産業の運航するタンカーが攻撃されたのか理解するのは難しい。 唯一、論理的な答えは、イランが米国との交渉のテーブルに着くことを望まないイラン革命防衛隊の分子が攻撃を実行したということです」

日本をやり玉に挙げたトランプ語録

トランプ大統領はこれまで何度も日本をやり玉に挙げてきました。過去の発言を振り返っておきましょう。

1987年の公開書簡ではこう述べています。

「米国は支払い能力のある日本や他の国に負担させることで膨大な赤字を終わらせる時が来た。こうした国々に対する米国の世界防衛は数千億ドルに値し、米国自身の防衛よりもはるかに大きくなっている」

90年にプレイボーイ誌のインタビューで「あなたがもし米大統領になったら、どんな外交政策をとりますか」と聞かれて、こう答えています。

「“トランプ大統領”は圧倒的な軍事力の非常に強力な信奉者だろう。彼は誰も信用しない。ロシアも信用しない。同盟国も信用しない。彼は巨大な軍事力を持ち、それを完成させて、理解する。問題の一部は無償で、世界で最も豊かな国々を防衛していることだ。日本を防衛して、米国は世界中の笑いものになっている」

2016年の大統領選では日米同盟の根幹をなす日米安全保障条約の再交渉まで公約に掲げていました。

「もし誰かが日本を攻撃したら、米国がすぐに駆けつけて第三次世界大戦をおっぱじめなければならないの? もし米国が攻撃されても日本には米国を守る義務はない。ともかく、これは公平には聞こえない。米国にとって良い話のように聞こえるかい?」

米政府が正式に謝罪している第二次大戦中の日系人強制収容の是非について米誌タイムに次のように語っています。

「私はこうした考えを嫌っている。しかし正確な答えをするためにはあの時代のあの場所にいる必要があるだろう」「非常に難しい問題だ。難しい。戦争はタフだ。戦争に勝つことはタフだ。米国はもう戦争に勝てない。米国はもはや強い国ではなくなった」

米国の対日防衛義務を定めた安保条約

1951年の対日講和条約と同時に署名され、60年に改定された日米安全保障条約では米軍の日本国内への駐留を認め、日本が外部から武力攻撃された場合には出動できると規定しています。

中核となる5条では、日米両国が「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃」に対して「共通の危険に対処するよう行動する」と「米国の対日防衛義務」が定められています。

これに基づく在日米軍駐留経費負担(思いやり予算)は新年度予算で1974億円(歳出ベース)。安倍政権は昨年末、F35 を計147機体制とする方針を決め、総額約1兆7000億円(F35Aを100億円、F35Bを150億円で試算)で調達を進めています。

このほか、グローバルホークや垂直離着陸輸送機オスプレイ、早期警戒機E2Dアドバンスドホークアイ、陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」も調達する予定です。

安倍首相は抱きつき外交を続けているうちに、トランプ大統領から揺さぶれば何某(なにがし)かを引き出せる「打ち出の小槌」とみなされてしまったのでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事