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元自衛艦隊司令官はこう見る トランプ米大統領の「中東のシーレーンは自分で守れ」

木村正人在英国際ジャーナリスト
国華産業が運航するタンカーの船体に残された付着機雷の一部(提供:U.S. Navy/ロイター/アフロ)

[ロンドン発]米国のドナルド・トランプ大統領が「どうして米国が他国のために無報酬でシーレーンを守らなければならないのか。危険な旅を強いられている自国の船舶は自分たちで守るべきだ」とツイートしたことについて、香田洋二・元海上自衛隊自衛艦隊司令官はどう見るのか、緊急インタビューしました。

――トランプ大統領のツイートの真意は何でしょうか

香田洋二・元自衛艦隊司令官(筆者撮影)
香田洋二・元自衛艦隊司令官(筆者撮影)

香田氏「米国はシェールガス革命で間もなくエネルギー純輸出国になるので、原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡のシーレーン防衛は狭い意味で米国の国益とは関係なくなりました。他国のために米国が主になってやりませんよ、と当事国に今後の対応を迫ったわけです」

「ホルムズ海峡への依存と責任が少なくなった米国のトランプ大統領がそのように言い出すことは想定済みで、問題は、日本政府にその時の覚悟と準備があるかどうかでしょう。現在、日本はホルムズ海峡のシーレーン防衛に艦艇を出していません」

――海上自衛隊にその能力はありますか

「通常の外洋作戦能力で言えば、海自は英国やフランスよりはるかに高いですから。駆逐艦の数で言っても海自は英海軍の3倍はあります。ホルムズ海峡のシーレーン防衛を担う能力は十分にあります」

「トランプ大統領が強調したいのは自分のことは自分でしっかりやりなさい、全般的なことは米軍がやりますということだと思います」

――米国が前面に出てこないと、中東からのシーレーンで中国海軍のプレゼンスが増すということはありませんか

「軍隊は本拠地がないと動けません。ジプチのような中国の海外基地には政治的な意味はあっても本格的な後方支援はできません。中国の同盟国は北朝鮮やカンボジアぐらいです」

「米軍の横須賀海軍施設は燃料補給も艦艇のメンテナンスもできる世界第一級の海軍基地です。中国にはまだ後方支援ができる海外基地はなく、外洋で作戦行動できる範囲は限られています」

――ホルムズ海峡のシーレーン防衛はどんな形になりますか

「インド洋に出ると安全です。ホルムズ海峡のシーレーン防衛の有志連合に入るかどうかの判断を迫られるでしょう。ソマリア沖の海賊対処活動で多国籍部隊としては第151合同任務部隊(CTF151)が編制されています」

「自衛隊は護衛艦と派遣航空隊をCTF-151に編入しました。これと同じようなかたちで西側諸国による有志連合が編成され、航行する船舶を護衛することになるでしょう」

「ペルシャ湾、紅海、アラビア海からケニアまでの東アフリカを担当する米海軍第5艦隊が全体を調整するでしょう。米国は何と言っても情報を豊富に持っています」

「日本船舶の直接の護衛は日米安全保障条約の対象ではありません。だから自衛隊が守らなければなりません。ホルムズ海峡を通って日本に原油を運んでくる相当数のタンカーの船籍は日本ではありません」

「自衛隊がなぜ日本を仕向け地とする外国船籍の船を守るのかという特別措置法の検討ぐらいは今から始めておかなければなりません」

――東京の海運会社「国華産業」が運航するタンカーへの攻撃に使われた付着機雷について教えて頂けますか

「タンカーが走っている時に付けるのは難しいので原油や天然ガスを積むために停泊している時を狙って付着させます。例えば時限装置を25時間後にセットしたら、その時間が来れば航海中にボンと爆発する仕組みです」

「機雷というより小型の時限爆弾です。相手をかく乱するのが目的で、普通はスキューバダイバーが潜って船舶に近づき、スクリューのプロペラに仕掛けて爆発させ動けなくするのに使います。船を沈めるのではなく、動けなくするのです」

――米国とイランの緊張が高まって、ホルムズ海峡が閉鎖されることはあるのでしょうか

「イランはこの20年間、ホルムズ海峡を閉鎖する、閉鎖すると言い続けて実際には封鎖したことがありません。閉鎖したら最後、米軍から10倍返しを受けることはイラン自身が一番分かっているので、今回のような悪さはしますが、閉鎖しないわけです」

「ホルムズ海峡に手を出せば、世界中を敵に回してしまうことをイランは知っています。米国に袋叩きにされるのを恐れています」

――トランプ大統領の狙いは何でしょう

「トランプ大統領は北朝鮮と戦争をせずに、米朝首脳会談を行った米国唯一の大統領と自慢しています。トランプ大統領の政治的な目標は次の大統領選に勝つことです。敵の首脳と直談判するのがトランプ大統領のセールスポイントになっています」

「イランも米国も戦争をして得はしません。またイランが米無人偵察機を撃墜するようなことがあれば、米国が懲罰的な攻撃を加えることはあるでしょう。逆にイランと米国の首脳会談が開かれる可能性もあると思います」

「国華産業が運航するタンカーについては、イラン革命防衛隊の下請けの下請けぐらいが実行して、イラン政府にとっては、かく乱が狙いとしたものの日本船攻撃ということは想定していなかったと見積もられることから、余計なことをしてくれたと考えているのかもしれません」

香田洋二(こうだ・ようじ)

元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)。1972年防衛大学校卒業、海上自衛隊入隊。統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監、自衛艦隊司令官などを歴任し、2008年退官。09年から11年まで米ハーバード大学アジアセンター上席研究員。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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