大阪G20サミット前に起きた警官の拳銃強奪事件 外勤警官の拳銃所持は安全、それとも危険

日本の外勤警官は拳銃を所持している(写真:森田直樹/アフロ)

韓国大統領襲撃に使われた例も

[ロンドン発]大阪府警吹田署の千里山交番前で16日未明、巡査が包丁で刺されて拳銃が奪われた事件は27時間後、拳銃を持っていた男(33)が現場から8キロの山中で逮捕され、解決に向かいました。

胸を刺された古瀬鈴之佑巡査(26)は意識不明の重体です。無事をお祈りします。

大阪では28、29の両日、20カ国・地域(G20)首脳会議が開かれます。1974年には、大阪市南区(現中央区)の高津派出所から盗まれた拳銃がソウルで朴正煕韓国大統領夫妻の襲撃(文世光事件)に使用された例があるだけに大阪府警の関係者は肝を冷やしたでしょう。

84年には京都府警の元警官が京都市内で警官から銃を奪って射殺し、その後、大阪市内の消費者金融に強盗に押し入り店員を射殺する事件(警察庁広域重要指定115号事件)が起きています。

日本では今年、ラグビーのワールドカップ(W杯)、来年に東京五輪・パラリンピック、2025年に大阪万博が開催されるだけに、細心の警備が求められています。

英国の外勤警官は拳銃を所持していない

それにしても世界的に見て殺人事件が極めて少ない日本で外勤警官の拳銃所持は必要なのでしょうか。

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少し古いデータになりますが、主要国やお隣の韓国と比べても日本の殺人事件発生率が低いことが一目瞭然です。銃器使用による殺人事件は片手で足りる年もあるほどです。組織犯罪やテロへの対応に銃器は欠かせませんが、日常の警ら活動にも本当に必要なのでしょうか。

外勤警官が銃を携帯していない国はアイルランド、ニュージーランド、ノルウェー、英国などです。英国を訪れた観光客の多くが「あれッ、英国のお巡りさんは拳銃を持ってないぞ」と驚きます。外勤警官は身の危険を感じながらも拳銃所持は必要ないと考えているようです。

ロンドン警視庁は1829年「力ではなく同意に基づく警察活動」をモットーに創立されました。外勤警官に拳銃を持たせると住民を威圧して間違ったメッセージを送ることになり、問題を解決するより悪化させると考えたそうです。

拳銃を所持しない理由は

英国の外勤警官の標準装備は伝統のヘルメットに警棒、警笛、手錠、防弾チョッキ、それに最近、暴漢に電気ショックを与えるスタンガン(2008年から携帯)が加わりました。

英国の外勤警官が拳銃を所持していない主な理由は次の通りです。

・拳銃を所持していると逆に狙われるリスクがある

・拳銃を使用すると市民の巻き添え被害を出してしまう恐れがある

・拳銃を所持している、いないにかかわらず待ち伏せに対応するのは難しい

英国で銃を保有している人は日本ほどではありませんが、銃大国・米国に比べるとかなり少ないという事情もあります。

06年の調査では警察連盟に加入する4万7328人のうち82%が拳銃の常時携帯は望んでいないと答えました。その一方で04年の世論調査では国民の47%が警官の拳銃所持を支持、反対は48%でした。

07年の政策シンクタンクの調査では72%が武装警官によるパトロール強化を望んでいました。

警官の銃撃のよる死者は12年度、13年度はゼロ。16年度は6人、17年度は4人でした。テロやナイフ犯罪の多発でロンドンも非常に物騒になってきました。00年以降、27人の警官が勤務中に命を落としています。

テロや組織犯罪に対して、英国の警官は丸腰であっても前に出て犯人を捕まえに行くのでどうしても死亡するケースが増えてしまいます。それでも英国の外勤警官が拳銃を所持しないのは「警察活動は住民の同意に基づく」という伝統と誇りがあるからです。

英内務省とパートナーシップを結んだ日本の警察庁

しかしテロやハイブリッド戦争に備えるため、欧米警察の装備は軍隊並みに強化されているのが現実です。英国でもテロや重大事件の一報があれば射殺を許可された武装警官が現場に急行します。ハンドガンを所持し、車にはカービン銃が積まれています。

武装警官の装備(警察装備の見本市で筆者撮影)
武装警官の装備(警察装備の見本市で筆者撮影)

警察装備の見本市で本物の武装警官にハンドガンやカービン銃を持たせてもらったことがありますが、思っていたより軽かったので驚きました。被害の拡大を防ぐために犯人を「射殺(ストップ)」するかどうかの判断は現場の武装警官1人ひとりに委ねられています。

またテロの警戒レベルに応じてカービン銃を携帯した外勤警官が空港や鉄道の主要駅、議会などで警備に当たります。ロンドン警視庁はまさに国際警察なので状況に合わせて対応を変えています。

筆者はロンドン警視庁のクレシダ・ディック警視総監にテロが起きた場合の対応について質問したことがあります。

――東京は五輪・パラリンピックを開催します。テリーザ・メイ英首相が来日した際、安倍晋三首相と19年のラグビーワールドカップや20年の東京五輪・パラリンピックに向け、日本の警察庁と英内務省のパートナーシップを結ぶことで合意しました。

ロンドンでは05年には民間人誤射という不幸な事件がありました。それでもテロが起きると、ロンドン警視庁の警官がテロリストを射殺しています。射殺するか否かの判断は誰がしているのですか。また、射殺する判断の基準は何ですか(筆者)

クレシダ・ディック警視総監(ロンドン警視庁提供)
クレシダ・ディック警視総監(ロンドン警視庁提供)

クレシダ・ディック警視総監「日本が五輪に備えるには、最悪の事態を含めて、すべてのシナリオを想定して対策を準備しなければなりません。想定外のケースにも備えておく必要があります。もちろんテロリストを殺害(kill)する、我々は『止める(stop)』と言う言葉を使っていますが、そうした事態も考えておかなければなりません」

「すべての事件から学んでは対策を見直しています。今年起きた4件のテロを検証した『アンダーソン・レビュー』には警察と対内情報機関の情報局保安部(MI5)に対する126もの勧告が書かれていますが、世界中のテロ対策担当者と話しても上手く対応しているのは英国だと評価されています。テロ対策では英国が世界をリードしています」

「恐ろしい決断をしなければならない事態に備えて、我々は武装対応能力に多大な投資を行っています。特にパリやブリュッセルでテロが起きてからは武装対応能力を一段と向上させました。おそらくホテルや鉄道など複数の場所が4日間にわたってイスラム過激派グループに攻撃された08年のムンバイ同時多発テロをきっかけにテロ対策の戦術は大きく変わり始めました」

「武器を持たない街頭警官に、洗練された武装チームを加えました。十分な装備と武器を持ち、機動性を兼ね備え、戦略的に配置されています。テロ対策はそれぞれ小さなチームで構成され、規律があり、指揮系統がはっきりしています。あらゆる事態に対応できるようにしています。最後にテロリストを殺害するほかない時、武装警官は非常に落ち着いています」

「ウェストミンスター橋から議会に突入したテロリストは数秒でストップ(射殺)されました。ロンドン橋やバラ・マーケットで起きたテロでも犯人3人は通報から8分のうちにストップ(射殺)されました。これによって数十人から、おそらく数百人の命が救われたのは疑う余地がないでしょう」

「決断しなければならないのはテロに直面する現場の警官です。そして事態が終わったあと、決断した理由を説明し、武器使用が正当だという証拠を示さなければなりません。その決断について調査を受けることも現場の警官は承知しています。撃つか、撃たないかの判断は現場の警官に任されているのです」

「銃の保有はイタリア文化」

一方、イタリアでは極右政党「同盟(旧北部同盟)」の書記長、マッテオ・サルビーニ副首相兼内相は昨年の総選挙で軍仕様の狙撃用ライフルやサブマシンガンを手にポーズを取り、「銃を保有することはイタリアの文化だ」と訴えました。

欧州懐疑主義の新興政党「五つ星運動」と連立を組んで内相に就任すると、公約通り銃規制を緩和しました。殺傷能力が高く、米国の銃乱射事件でも頻繁に使用されている米軍のM16自動小銃でも免許さえあれば保有できるようにしたのです。

グローバル化で人の移動が自由になる中で、警官の拳銃所持を巡っては2つの大きな流れがあります。日本はおそらく現在の外勤警官の拳銃所持を維持するでしょう。しかし筆者は英国を見習って地域ごとに選択と集中を進めた方が良いように思います。

日本では女性警官はどれぐらいの割合で拳銃を所持しているのでしょうか。外勤の女性警官は待ち伏せされると男性警官に比べて拳銃を奪われるリスクは高いはずです。

外勤警官の拳銃所持を見直す一方で警視庁や大阪府警など大きな都道府県警を一部「準国家警察」化し、テロや組織犯罪の凶悪事件に数分以内に即応できる武装エリート部隊を養成するのです。都道府県の垣根が残る日本の警察は英国に比べるとデジタル化が非常に遅れています。

日本警察も緊急事態に即応できる銃器使用のプロフェッショナルをある程度広げて育てていく必要があると筆者は考えますが、皆さんはどう思われますか。

(おわり)