Yahoo!ニュース

SNS「いいね!」が勝負の分かれ目 お笑いカリスマ政治家が欧州議会選で大躍進

木村正人在英国際ジャーナリスト
支持者の自撮りに陽気に応じる伊「同盟」のサルビーニ副首相(筆者撮影)

子ネコに集まる「いいね!」と同じ

[ロンドン、ローマ発]23~26日、加盟28カ国で投票が行われた欧州議会選でイタリアのマッテオ・サルビーニ副首相兼内相率いる極右政党「同盟(旧北部同盟)」が前回の得票率6%から34%に大躍進しました。

右派ポピュリズム政党のカリスマ指導者はSNSのフェイスブックやツイッターを非常に巧みに使っています。ローマにあるシンクタンク、国際問題研究所(iai)のエリオノーラ・ポリ研究員は筆者にこう語ります。

「身の回りの安全、難民の大量流入、グローバリゼーション、文化の喪失といった人々の恐怖、西洋社会に広がる没落していくことへの恐れを利用して目に見える敵を作り出すのです。経済、安全、犯罪で我々を不安に陥れているのは移民だと繰り返すのです。サルビーニ氏は真の問題であるマフィアについては語りません」

「サルビーニ氏は昨年の総選挙で『ウィン・サルビーニ(サルビーニを獲得しよう)!』というキャンペーンを展開しました」

「彼がフェイスブックに投稿すると最初に『いいね!』した人には何かのサプライズが与えられるのです。例えばサルビーニ氏から直接、電話がかかってくる、彼に会う特別の機会が与えられるというふうにね」

iaiのエリオノーラ・ポリ研究員(筆者撮影)
iaiのエリオノーラ・ポリ研究員(筆者撮影)

「人々は気晴らしを求め、サルビーニ氏と一緒に撮った自撮り写真を自分のフェイスブックにアップします。キャンペーンは大成功を収めました。それは単なる子ネコやスパゲティの写真がものすごい数の『いいね!』を集めるのと同じです」

「サルビーニ氏が求めているのは、連立を組む新興政党『五つ星運動』が腐敗撲滅のため進めようとしているデジタル直接民主主義ではありません」

「彼は民間のコミュニケーション会社を雇っています。インスタグラムは若年層に、フェイスブックはそれより上の世代、ツイッターは全世代とSNSを巧みに使い分けています」

党のプラットフォームを通じて党員の意見を聞く

著書『デジタル政党』がある英キングス・カレッジ・ロンドンのデジタル文化センター、パオロ・ゼルバウド所長は英シンクタンク、国際問題研究所(チャタムハウス)での討論会や英紙ガーディアンへの寄稿でこんな見方を示しています。

「五つ星運動がサルビーニ氏率いる同盟と連立を組むかどうか迷った時、党で緊急会議を開いたわけではありません。自分たちが運営するプラットフォームを通じて党員の意見を聞いた結果、94%が連立を支持しました」

パオロ・ゼルバウド所長(筆者撮影)
パオロ・ゼルバウド所長(筆者撮影)

「デジタル技術はイタリアだけでなく、スペイン、フランス、北欧の国々でも民主主義に大きな変化をもたらしています。デジタル民主主義のパイオニアは10年前に著作権の大幅緩和を求め、スウェーデンやドイツ、アイスランドに広がった海賊党でした」

「五つ星運動の首謀者ジャンロベルト・カサレッジオ氏(故人)は『一般市民は職業政治家の手に握られた代表民主制という現在のシステムを廃止して、それぞれが主人公になるのです』と訴えました。このメッセージは政治腐敗にうんざりしていた多くの市民の心に届きました」

英国ではブレグジット党が台頭

欧州連合(EU)離脱を混迷に陥れた責任を取って、テリーザ・メイ首相が6月7日に辞任することを表明した英国。欧州議会選では英国独立党(UKIP)元党首ナイジェル・ファラージ氏が結成した新党「ブレグジット党」が得票率32%と大躍進しました。

英ブレグジット党のファラージ党首(筆者撮影)
英ブレグジット党のファラージ党首(筆者撮影)

ブレグジット党は、EUからの完全離脱を果たすため、市民生活や企業活動を大混乱に陥れる「合意なき離脱」を主導しています。前回、EU離脱を主張し、旋風を巻き起こしたUKIPの得票率は27%でした。

ブレグジット党の集会では、これまでは保守党を支持していた老夫婦や、女性の姿が目立ちました。「ホワイト(白人)」「オールド(高齢)」「アンガー(怒り)」がキーワードです。ファラージ氏は巧みな弁舌で、EUに残ると自分たちは英国民でありながら「二級市民」に押しやられるという潜在的な不安と恐怖を煽りました。

地元の年金生活者は「長年支持してきた保守党には裏切られた。二度と票は入れない」と吐き捨てました。

フランスでは悪名高き極右政党「国民戦線(FN)」の看板を穏健な「国民連合(RN)」に取り替えたマリーヌ・ルペン党首がエマニュエル・マクロン大統領の共和国前進・民主運動をかわして首位に立ったものの、得票率は前回から1.3ポイント落としました。

伸び悩んだ仏「国民連合」のルペン党首(中央、筆者撮影)
伸び悩んだ仏「国民連合」のルペン党首(中央、筆者撮影)

サルビーニ氏やファラージ氏が陽気なお笑い芸人風ポピュリストなのに対して、本格的な保守政治家を目指し始めたように見えるルペン氏は、大衆を熱狂させるような面白みに欠けているように感じました。

ルペン氏のカリスマは健在です。しかしポピュリストではなくなりつつあるのかもしれません。

今回の欧州議会選ではイタリアの同盟と英国のブレグジット党が大躍進しましたが、EU統合推進派の中道右派・中道左派・中道・緑の党の4派(得票率67%)が欧州懐疑派4派(同28%)に対し何とか持ちこたえたように感じました。

画像

(1)投票率が初めて上昇に転じ50%台に回復

(2)中道右派と中道左派の得票率が初めて計50%を割る

(3)代わりに中道と緑の党が躍進

(4)欧州懐疑派4派の得票率は横ばい。ユーロ・EU離脱の主張は影を潜める

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事