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グーグルがファーウェイ携帯のアンドロイド更新を停止か トランプ大統領の米中5G戦争が激化

木村正人在英国際ジャーナリスト
米国の経済圏から締め出されるファーウェイ(写真:ロイター/アフロ)

ファーウェイは米国の外交・安保上の利益に反する

[ロンドン発]ロイター通信は19日、米アルファベット傘下のグーグルが、中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対し、オープンソース以外のハードウェアやソフトウェア、技術的なサービスの提供を停止するとスクープとしました。

米商務省産業安全保障局(BIS)は15日、ファーウェイとその関連企業を取引禁止対象リストに加えました。ファーウェイが米国の安全保障や外交上の利益に反する活動に関わっていると判断したためです。

規制強化の範囲はまだ明らかにされていませんが、ソフトウェアにまで厳格に適用されるとファーウェイは米国企業とビジネスを展開することができなくなってしまいます。

中国との貿易戦争を激化させている米国のドナルド・トランプ大統領はアングロサクソンの電子スパイ同盟「ファイブアイズ」や北大西洋条約機構(NATO)などの同盟国に次世代通信規格5Gネットワークからファーウェイを全面排除するよう求めています。

米ブルームバーグによると、半導体のインテルやクアルコム、ザイリンクス、ブロードコムはBISが詳細を明らかにするまで重要なソフトウェアや部品をファーウェイに提供するのを止めると従業員に伝えたそうです。

ロイター通信の報道が本当ならトランプ大統領のハーウェイ包囲網はさらに厳しくなります。第二次大戦以来、米国との「特別な関係」を維持し、ファイブアイズの主要国でもある英国はファーウェイの5G部分参入を認める方針ですが、見直しを迫られる可能性があります。

グーグルの報道担当者はロイター通信に対し、「我々は政府の決定を順守し、その意味を再考している」と話しています。

その一方で、「ファーウェイのスマートフォンを使っている我々のユーザーは引き続きグーグルプレイ(アンドロイド端末向けデジタルコンテンツの配信サービス)やセキュリティーサービスを使用できる」と説明しています。

詳細はまだはっきりしませんが、中国国外では、グーグルがスマホ用に開発したアンドロイドを使用するファーウェイの携帯電話販売に大きな影響が出る恐れがあります。アップデートされたOS(オペレーティングシステム)や最新アプリが使えなくなるからです。

英国では漏洩問題で国防相更迭

保守系の英紙デーリー・テレグラフは4月下旬、英国家安全保障会議(NSC)で議長のテリーザ・メイ首相が「ファーウェイが英国での5Gネットワーク構築に関し、アンテナや他の『重要ではない(ノンコア)』インフラストラクチャーのような一部を支援することを限定的に認める」方針を伝えたとスクープしました。

「コア」な部分とは、センシティブなデータを扱ったり、データ通信を管理したりするコントロールパネルを指します。メイ首相は、機密扱いになっているNSCの内容を記者に漏らしたのはギャビン・ウィリアムソン国防相と断定して更迭する騒ぎになりました。ウィリアムソン国防相は疑惑を否定しています。

これを受けて英下院外交特別委員会のボブ・シーリー下院議員は英シンクタンク、ヘンリー・ジャクソン・ソサイアティのアジア研究所、ジョン・ヘミングス所長と連名で報告書『我々のデータを防衛せよ ファーウェイ、5Gとファイブアイズ』を発表し、5つの疑問に答えています。

(1)ファーウェイは民間企業、それとも国有、または国の影響を受ける企業か?

中国の国家情報法7条は「国民と組織は、法に基づいて国の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならず、国は、そのような国民及び組織を保護する」と規定。ファーウェイも中国共産党の指導に基づき北京の利益に基づいて行動する可能性がある。

ファーウェイが民間企業であるかどうかは非常に疑わしい。同社は労働組合委員会によって98%が所有されている。労働組合関係者は国から給与が支給され、中国共産党への順守、報告義務がある。国有企業のように行動しており、そのように扱われている。

(2)ファーウェイは制度的に中国の情報機関または軍事機関に関係しているか?

同社は長い間、スパイ行為に関わっていると糾弾されてきた。明確な証拠は見つかっていないものの、オーストラリアや米国を含む多くの国がファーウェイを「ハイリスクなベンダー」とみなし、国家安全保障の懸念から5G参入から排除した。

ファーウェイは、権威主義が強まる新疆ウイグル自治区の治安部隊の情報通信技術(ICT)パートナーである。中国共産党によって同社は権威主義的な価値、テクノロジーによる市民監視のアプローチを海外に輸出するために使われる恐れがある。

英国での5G参入を認めるのはリスクを伴う。

(3)ファーウェイ・サイバーセキュリティー検討センター(HCSEC)は、英国での5Gネットワーク構築にファーウェイの部品を使う場合の潜在的リスクを十分に低減できるか?

HCSECは今年3月に政府の決定と異なる報告書を出している。

(4)英政府のファーウェイ5G参入制限はさらなるリスクを弱めるのに適した方法か?

ファーウェイ製品を5Gネットワークの「コア」部分から外すという政府決定に対してエンジニアや専門家は「コア」と「周辺」の区別は意味をなさないと指摘している。

ファイブアイズの米国やオーストラリアは「コア」と「周辺」について英国とは異なる定義をしている。5Gはソフトウェアのネットワーキングなので、英政府が「周辺」器機とみなすアンテナの目的を気付かれずに変えてしまう製造技術も増えてくる。

(5)英政府のファーウェイ5G参入を限定的に容認する決定はファイブアイズにどんな影響を与えるのか?

ファイブアイズの米国、オーストラリア、ニュージーランドに加え、日本がファーウェイ全面排除を決定。ファイブアイズ同盟国のカナダも対応を見直している。

まだ英国に対するファイブアイズの対応は決定されていないものの、英政府の決定は重大な結果をもたらす恐れがある。英国が足並みを乱すのは西側の同盟に象徴的な打撃を与える。英国内での中国が主導するサイバー介入作戦の危険性を増大させる。

オーストラリアやニュージーランド、英国の議会をハッキングする行為は民主主義や制度をハッキングするのと同じだ。中国が関与していた可能性が指摘されている。

米国の同盟国の親中政権は必ず崩壊する

日本では日中国交正常化を実現した田中角栄首相はロッキード事件で逮捕されました。かつては権勢を誇った親中派の旧田中派は今や政権の中枢から駆逐されてしまいました。

英国でも「中英黄金時代」を提唱し、先進国の中ではいち早くアジアインフラ投資銀行(AIIB)への参加を発表したデービッド・キャメロン首相(当時)は欧州連合(EU)に残留するか離脱するかを決める国民投票で敗北し、辞任しています。

米国の同盟国では、親中派は失脚する運命にあるようです。

今年2月、英最新鋭空母「クイーン・エリザベス」を太平洋に派遣すると発表し、中国を激怒させたウィリアムソン前国防相の首を中国に差し出したメイ首相も早ければ6月末までに退陣する見通しです。

「合意なき離脱もやむなし」と豪語するボリス・ジョンソン前外相が次期首相になると英国のEU離脱はハードになり、「合意なき離脱」の恐れが膨らみます。

EUとドイツを中国と並ぶ米国の貿易赤字の元凶とみなすトランプ大統領にとって英国の「合意なき離脱」は好都合です。

世界のブロック経済化が進む中で、英国を取り込めばEUの貿易圏や経済圏は縮小し、米国のそれが拡大するからです。

筆者は今、米国、中国、欧州の3極構造の中で貿易圏や経済圏の組み替えが起きていると見ています。ファーウェイ問題はそのリトマス試験紙の一つに過ぎません。

日本の安倍晋三首相は北朝鮮の核・ミサイル問題、中国の軍事的な拡張に対応するため米国との同盟関係を重視しています。英国もジョンソン政権が誕生すれば欧州よりも対米関係を重視してファーウェイを5Gから排除する可能性が高まるのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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