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メーガン妃にマタハラの嵐「妊娠はウソ」「わがまま妃」出産前にツイッターと英メディアが集中砲火

木村正人在英国際ジャーナリスト
英連邦記念日の式典に出席するメーガン妃(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

ロイヤルベイビーのフォトコールがキャンセル

[ロンドン発]第一子の出産が迫る英王位継承順位6位のヘンリー王子(34)の妻で元米人気女優のメーガン妃(37)に対するバッシングが止まりません。王室恒例のロイヤルベイビーのフォトコールがキャンセルされ、英メディアはカンカンです。

ヘンリー王子とメーガン妃はロンドン郊外のウィンザーにあるフロッグモア・コテージを300万ポンド(約4億3789万円)かけて改装し、転居。筆者も2人のロイヤルベイビーを撮影しようと、ウィンザー城につながるロング・ウォークでの取材許可を英王室に申請しましたが、あえなく却下されました。

がっかりさせられたのは筆者だけではありません。

ヘンリー王子の母、故ダイアナ元皇太子妃とチャールズ皇太子の極秘デートをスクープし、ヘンリー王子を含む5人のロイヤルベイビーをカメラに収めてきた英大衆紙サンの王室フォトグラファー、アーサー・エドワーズ氏はメディアにこんな愚痴をこぼしています。

「ハリー(ヘンリー王子の愛称)とはパブに行き、あらゆることを話してきた。それなのに彼は私たちを電柱のように扱うようになった」。ヘンリー王子とメーガン妃のロイヤルウェディングが執り行われた聖ジョージ礼拝堂に入れたのもフォトグラファー1人だけでした。

「ダイアナの腕に抱かれた生まれたばかりのハリーを撮影した。そのハリーが第一子を抱いている姿を撮りたい。喜びの瞬間なのに。賭け屋は第一子の名前をボードに書き連ねる一大イベントだ。ハリーには少しがっかりした。だんだん付き合いが悪くなってきたからだ」

「メーガン妃の妊娠はウソ」のデタラメ

米国人、離婚経験者、アフリカ系、キャリアウーマン、フェミニストでありアクティビスト――ヘンリー王子とメーガン妃の結婚は英王室の伝統からすると異例ずくめでした。底意地の悪いタブロイド紙(大衆紙)から「奴隷の子孫」と散々叩かれてきました。

妊娠が発表されてからも異様な「メーガン叩き」はエスカレートする一方です。メディアとSNSを通じて増幅されるレイシズムとマタニティー・ハラスメント(マタハラ)に対し、メーガン妃は国際女性デーの3月8日、英大学キングス・カレッジ・ロンドンでのイベントでこう話しました。

「私は何も読んでいません。その方がより安全です。しかしそれは私の個人的なやり方です。それにはマイナス面もプラス面もあるからです。今日、ある程度、(新聞の書いていることは)騒音にしか聞こえません」「ツイッターも見ていません」

英王位継承順位2位ウィリアム王子の妻キャサリン妃(37)とメーガン妃のサポーターがソーシャルメディア上で中傷合戦を繰り広げる背景には、ネット世論を操作するロシアの「トロール部隊」の影もちらついています。

「メーガンは妊娠をウソ」「メーガン・マークルは偽装妊娠で英国と米国の血税を何百万も使ってベビーシャワー(出産前のお祝い)を行った」「メーガンとハリーが乳母を雇わないのは、お腹に枕を入れて妊娠を装っているからだ」という根も葉もないツイートが拡散しています。

「メーガン流」が気に入らない英保守層

英メディアと保守層はメーガン妃が王室の伝統(プロトコール)を守ろうとせず、「メーガン流」を曲げないことが気に入らないようです。

・昨年5月の結婚式前後からメーガン妃を支えてきたスタッフ3人が相次いで辞任。「難しいお妃」「わがまま妃」というニックネームがつけられ、「メーガン妃は独裁者のように振る舞っている」という批判も

・サン紙はメーガン妃が「聖ジョージ礼拝堂がかび臭いので礼拝堂全体に空気清浄機を置くよう」求めたと報道

・王室ジャーナリストのロバート・ジョブソン氏は新著で、ヘンリー王子がメーガン妃の望むティアラを着けられるよう要求したところ、エリザベス女王が「私が選んだティアラを着けなさい」とたしなめたエピソードを紹介

・サン紙が、キャサリン妃がメーガン妃に「ケンジントン宮殿の私のスタッフにガミガミ言うのは止めて」と苦情を言ったと報道。結婚式でもシャーロット王女の着るブライズメイドドレスを巡ってメーガン妃の要求がきつく、キャサリン妃が泣いたという話も

・ベビーシャワーは米ニューヨーク市にある五つ星ホテルのペントハウスで行われ、女子プロ・テニス選手のセリーナ・ウィリアムズさんや米人気俳優ジョージ・クルーニーの妻で人権弁護士アマルさんら著名人が出席。費用は20万ドル(約2238万円)と報じられる(米雑誌バニティ・フェア)

・エリザベス女王はメーガン妃の要望に対しロイヤルコレクションにある宝飾品の貸与を禁止。キャサリン妃には許可していると報道

EU離脱を主導する怒れる白人保守層

「ブレグジット党」を立ち上げたファラージ氏(筆者撮影)
「ブレグジット党」を立ち上げたファラージ氏(筆者撮影)

欧州連合(EU)離脱を巡り、英国では移民に対する排外主義の空気が強まっています。2016年の国民投票で離脱派を主導し、反移民・難民を煽りまくった英国独立党(UKIP)のナイジェル・ファラージ元党首は新党「ブレグジット党」を立ち上げ、再び旋風を巻き起こしています。

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離脱期限は3月末から10月末に延期され、英国は5月の欧州議会選に参加する可能性が膨らんできました。世論調査会社ユーガブによると、「合意なき離脱」を叫ぶブレグジット党の支持率は直近の5日間で15%から27%にハネ上がっています。

バーミンガムで開かれたブレグジット党の選挙集会を取材してきましたが、3つのキーワードは「ホワイト(白人)」「オールド(高齢)」「アンガー(怒り)」です。高齢化した白人保守層は英国の伝統的価値が崩壊していくのに怒っています。

「一刻も早くEUを離脱しろ」と集団ヒステリーを起している怒れる白人保守層は英王室の伝統が守られることを望んでいます。

低所得者層も敵に回す?

リベラル系の英紙ガーディアンはイングランドの土地の半分は人口の1%未満に相当する2万5000人によって所有されていると報じました。第12代バクルー公爵やエリザベス女王、企業、掃除機やヘアドライヤーで日本でもお馴染みのダイソン社創業者ジェームズ・ダイソン氏らです。

内訳は次の通りです。

貴族や地主階級 30%

会社 18%

オリガルヒ(新興財閥)とバンカー 17%

企業 8.5%

王室に対して面白くないと思っている人たちも英国にはたくさんいます。王室に嫁いだ特権を利用して、セレブリティーとして振る舞っているように見えるメーガン妃は知らず知らずのうちに低所得者層を敵に回してしまったのかもしれません。

メーガン妃は積極的にチャリティーや女性問題、人権問題に取り組んでいます。

メーガン妃がパブリックイメージを正しく伝えてもらうためには英メディアとの良好な関係を再構築する必要があります。サン紙の王室フォトグラファー、エドワーズ氏はダイアナ元妃のことを語る時、涙ぐむような人です。そんな人まで遠ざけるようでは、状況は悪化する一方です。

メディアとの「冷戦」が続くのはメーガン妃にとっても、英王室にとっても、英国社会にとっても決して好ましいことではありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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