「イスラム国(IS)」の赤ちゃんの死は誰の責任か 花嫁の英国籍を剥奪した内相に批判集中

15歳でISに嫁いだシャミマさんは生後3週の男児を失った(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

「子供は苦しむべきではない」

[ロンドン発]過激派組織「イスラム国(IS)」に嫁ぐためシリアに渡り、外国人戦闘員と結婚、ISが壊滅状態に陥ったため母国・英国への帰国を訴えていたシャミマ・ベガムさん(19)の男の赤ちゃん=生後3週=が今月7日、肺炎のため死亡しました。

男の子はシャミマさんが避難しているシリアの難民キャンプ近くに埋葬されました。シャミマさんは3人の子供を出産しましたが、上の2人はすでに死亡しています。子供に罪はありません。紛争とテロリズム、国際社会の無力、無策が生んだ悲劇です。

シャミマさんの英国籍を剥奪し、帰国を認めなかったサジッド・ジャビド英内相に「冷淡、非人道的」と家族の友人や最大野党・労働党から批判が集中しています。シャミマさんの英国籍が剥奪される前に生まれた男の子はれっきとした英国人で帰国する権利がありました。

英国政府は「いかなる子供の死も家族にとっては悲劇であり、極めて痛ましいことだ」「政府は一貫してシリアには渡航しないよう呼びかけている」とコメントしました。英国では今年2月から、人道活動や取材活動以外で戦闘地域に行くことは罪に問われるようになりました。

ジャビド内相は男の子の国籍について下院や英BBC放送でこう説明していました。

「子供は苦しむべきではない。親が国籍を失っても、子供の権利には影響を及ぼさない」「悲しいことに戦争地域で生まれた子供が多くいる。その子たちは完全に無実なのは明らかだ。巻き込まれた子供たちには同情するしかない」

夫「妻や子供を連れてオランダに帰りたい」

「国親思想」が根付く英国では子供には罪はなく、国が責任を持って保護すべきだという考え方があります。

バングラデシュ系英国人シャミマさんは15歳の時、友人2人とともにロンドンからシリアに渡航。オランダ出身の外国人戦闘員ヤゴ・レディク受刑者=オランダの欠席裁判でテロ罪により有罪、シリアで投獄中=と結婚し、3人の子供を授かりました。

レディク受刑者はBBCのインタビューに「自分のしたことを許せない人が大勢いるのは分かります」「彼女は家にいて私や子供の世話をしていただけです。そんな彼女にどんな脅威があると言うのでしょう」「妻や子供を連れてオランダに帰りたい」と訴えていました。

一方、シャミマさんはBBCに「シリアに渡航したことを後悔していない」「英マンチェスターで起きた自爆テロで罪のない市民22人が犠牲になったのは間違いだ。しかしイスラム国でも爆撃によって女性や子供が殺されている。あれはISに対する攻撃への報復だった」と答えました。

「イスラム国の宣伝に使われるつもりはなかった」「私は英国の価値観をいくつか支持している。英国に戻ってリハビリを受けたい」「赤ちゃんには英国人になってほしい」とも話していました。

英国政府は男の子を英国に連れて帰るのにはシャミマさんの同意が必要で、シリアの難民キャンプに行くのには危険が伴うと二の足を踏んでいる間に男の子は亡くなってしまいました。責任はいったい誰にあるのでしょう。

誰も救いの手を差し伸べなかった

シャミマさんの母親はバングラデシュ系で、シャミマさんは二重国籍を保有しています。英国籍を剥奪してもバングラデシュ国籍が残るため、国際法で予防することが規定されている無国籍にはならないというのが英国政府の見解です。

一方、バングラデシュ外務省は「シャミマさんはバングラデシュ国民ではなく、入国は認められない」と突っぱねました。21歳になるまでにバングラデシュ国籍を維持する手続きをとらなければ、休眠状態のバングラデシュ国籍は失効してしまいます。

シャミマさんは19歳なので英国籍を剥奪してもバングラデシュ国籍を取得する道が残されています。昨年、英国政府は英国籍を剥奪したバングラデシュ系英国人2人に異議を申し立てられ、敗れています。

シャミマさんの赤ちゃんは英国籍、母親方のバングラデシュ国籍、父親方のオランダ国籍を主張する権利を有していました。

シャミマさんと同じようにISに参加するためイラクやシリアに渡航した英国人は900人以上。このうち二重国籍を持つ100人以上が英国籍を剥奪されています。

米シンクタンク、ソウファン・センターによると、ISに渡航した外国人は欧州連合(EU)域内全体で4000人。このうち女性は680人とみられています。ISに渡航した女性や子供の数はEU主要国では次の通りです。

フランス 最大320人(子供460人)

ドイツ 最大190人(同56人)

オランダ 90人超(同90人)

英国 100人超(同50人)

スウェーデン 最大70人(同45人)

国籍剥奪で責任を他国に押し付ける英国

一番の責任はテロと残虐行為を繰り返してきたISにあるのは言うまでもありません。それを承知の上でISに渡航したシャミマさんとレディク受刑者も責任を免れません。

しかし英国がISに渡航した外国人戦闘員やその花嫁について英国籍を剥奪して責任を他の国に押し付ける自分勝手なやり方は国際社会には受け入れられないでしょう。イスラム社会ではシャミマさんをバングラデシュが受け入れるべきだという声が上がっています。

国際子供支援団体セーブ・ザ・チルドレンは「ISに関係したすべての子供たちは紛争の犠牲者であり、そのように扱われなければなりません。男の赤ちゃんやその他の犠牲は防ぐことができたはずです。英国やその他の出身国は自分たちの国民に対して責任を果たすべきです」と訴えています。

難航するEU離脱を巡り、ナショナリズムが強まる英国ではシャミマさんの英国籍剥奪を支持する声が78%にも上っていました。

難民キャンプで劣悪な環境に置かれているのはISの花嫁とその子供たちだけではないのです。食料や毛布、テントが不足し、摂氏3~4度まで気温が下がるのに暖房はありません。

世界保健機関(WHO)は1月末、シリア北東部の難民キャンプで8週間のうちに29人の子供や新生児が低体温症で亡くなったと報告しています。

15歳で「ISの花嫁」になったシャミマさんのケースをドラマタイズして報道するのは間違っていると思います。私たちはいま一度、シリア内戦で発生した難民問題を直視する必要があるのではないでしょうか。

(おわり)