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祝ロイヤルウェディング すべてを黄金に変えるメーガン・マークルさんとヘンリー王子の魔法

木村正人在英国際ジャーナリスト
泊まり込みでメーガンさんとヘンリー王子の結婚式を待つカナダの観光客(筆者撮影)

チャールズ皇太子が父親代わり

[ウィンザー発]英王位継承順位6位のヘンリー王子(33)と米人気女優メーガン・マークルさん(36)の結婚式が5月19日正午(日本時間同日午後8時)から、ロンドン西郊のウィンザー城聖ジョージ礼拝堂で執り行われます。10万人がウィンザー城周辺を埋める見通しです。

沿道に泊まり込んで結婚式を待つファン(5月17日、筆者撮影)
沿道に泊まり込んで結婚式を待つファン(5月17日、筆者撮影)

メーガンさんの父親トーマス・マークルさん(72)は体調不良のため結婚式への出席を取りやめ、チャールズ皇太子(69)が急遽、ピンチヒッターとしてメーガンさんの手を引いて礼拝堂のバージンロードを歩くことになりました。

英保守系大衆紙に「奴隷の子孫」と叩かれ、トーマスさんの「ヤラセ写真」疑惑、異母姉兄の嫌がらせ発言に苦しめられるメーガンさんをロイヤルファミリーぐるみで支える姿勢を打ち出しました。健気なメーガンさんが「負債」ではなく「資産」であるのは明らかです。

2人の結婚による経済効果は今年だけで10億ポンド(約1500億円)以上と試算されています。大西洋に橋を架ける世界のセレブリティになったメーガンさんとヘンリー王子は今や触ったものをすべて黄金に変えてしまうギリシャ神話の「ミダス」と同じような存在になりました。

クリスマスの贈り物

24時間ニュース番組スカイニュースの記者がこんな話を教えてくれました。昨年のクリスマス、サンドリンガムでメーガンさんとヘンリー王子、キャサリン妃(36)とウィリアム王子(35)が微笑む4ショットをとらえたシングルマザーの人生が180度転換したというのです。

地元のカレン・アンビルさん(40)は17歳だった娘レイチェルさんと一緒にサンドリンガムの聖メアリー・マグダレン教会を訪れるロイヤルファミリーを見にやって来ました。その前年は体調を崩していたので、翌年は「絶対に2人で見に行こうね」と娘と約束していたからです。

カレンさんが元気よく「メリークリスマス」と声をかけると、4人が微笑み返してくれました。最高のシャッターチャンスを逃さず、写真に撮らえてツイッターにアップすると、しばらくしてメディアからの問い合わせが殺到しました。

英大衆紙サン、デーリー・メール、デーリー・ミラー、デーリー・スター、デーリー・エクスプレスだけでなく、高級紙デーリー・テレグラフもプロのカメラマンが撮影した写真を押しのけて1面でカレンさんの写真を使いました。

日本、米国、カナダ、スペイン、イタリアなど世界中のメディア50社以上が使用したそうです。

ダブルワークから解放

この写真が大きなクリスマス・プレゼントになりました。それまで借金を返済するため、カレンさんは1日に別々の勤め先で働かなければならなかったそうです(ダブルワーク)。しかし写真の売り上げで借金を完済、普通の人と同じように1日に1回働けば暮らしていけるようになりました。

娘が友だちを連れて来られるように自宅を改修。キッチンやお風呂も新調しました。ペットにも新しいお家を買ってやりました。それまで床にマットレスを敷いて寝ていましたが、ベッドも購入しました。

初めてパスポートを申請してアイルランドに旅行し、今度は娘と米国への旅行を計画しているそうです。

文字通り、1枚の写真がカレンさん母娘の人生を好転させたのです。メーガンさんとヘンリー王子の笑顔にはそんな魔法が秘められています。しかし、その魔法を悪用しようとする人は不幸の坂道を転げ落ちていくようです。

メーガンさんとヘンリー王子がメディアの注目を集めるようになってからメーガンさんの父親トーマスさんは5万~10万ドル(550万~1100万円)の謝礼でインタビューのオファーを受けるようになりました。メーガンさんが「パパ、私の手を引いてバージンロードを歩いて」と託した願いをトーマスさんはかなえることができませんでした。

「ミダス」が生み出す黄金に目が眩む人がいても何の不思議もないでしょう。

「メーガンたたき」を乗り越えよ

米国初の黒人大統領バラク・オバマ氏の登場が反動として人種・性差別的な発言を繰り返してきたドナルド・トランプ大統領を誕生させてしまいました。優秀な若者は内陸部から海岸部へと移動し、内陸部の保守化を加速させます。保守化した州はトランプ大統領の支持基盤となり、米国を過去へと引き戻そうとしています。

それと同じように、アフリカ系の母親と白人の父親を持つ多様なメーガンさんの存在を面白く思わない英国の保守系メディアは父親のトーマスさんや異母姉兄を利用して、すでに陰湿な「メーガンたたき」を始めています。

メーガンさんとヘンリー王子の結婚に込められた最大のメッセージは肌の色や伝統、文化の違いを乗り越える「融和」です。しかし、それは過去と未来、現実と理想の相克を引き起こす「両刃の剣」でもあるのです。

これから英王室はトーマスさんと異母姉兄とは距離を置き、メーガンさんと母親ドリア・ラグランドさん(61)のサイドに立つでしょう。この結婚は英国と王室にとって大きな可能性を秘めるとともに制御不能になるかもしれないリスクをはらんでいます。

ヘンリー王子とメーガンさんが露出を少なくしようとすればするほど世界中の関心がエスカレートします。王位継承順位1位のチャールズ皇太子とカミラ夫人、同2位のウィリアム王子とキャサリン妃がいくら努力しても及ばない人気をヘンリー王子とメーガンさんはすでに手に入れました。

それを不幸の入り口にするのも、幸福につなげていくのも、2人の愛と意思の力、それを支えるロイヤルファミリーのチームワークにかかっているのです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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