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日経平均2万6000円超→デフレ脱却宣言→憲法改正という安倍シナリオ「和製ソロス」が大胆予言(上)

木村正人在英国際ジャーナリスト
2018年東証大発会 日経平均は大幅高値(写真:つのだよしお/アフロ)

[ロンドン発]北朝鮮の核ミサイル危機、「強いアメリカ」の復活を掲げるドナルド・トランプ米大統領の登場、中国の「強国」化で国際情勢は激動しています。その一方で世界経済の成長率は4%台に乗る可能性が出てきました。ロンドンに本拠を構える債券では世界最大級ヘッジファンド「キャプラ・インベストメント・マネジメント」共同創業者、浅井将雄さんに2018年の展望をおうかがいしました。3日連続でお届けします。

――完全失業率は2.7%と24年ぶりの低さ、有効求人倍率は約44年ぶりの水準という日本の景気は本当に良くなったのでしょうか。日経平均株価の2万5000円超えはあると見られていますか

「失業率、有効求人倍率を見れば需給ギャップが急速に改善しています。それが加速度的に日本経済の後押しをしていると言うのは間違いありません。スラックと呼ばれる余剰生産、少子高齢化と足を引っ張る要素はありますが、株式がこれだけ上がっており、資産浮揚効果が大きい。世界経済も2008年以降久々に4%以上の成長が2018年に見込めます。2017年の第3四半期から4%に乗ってきていると思います。外部環境の好転と内部的に資産浮揚効果があいまって、日本はほぼ完全雇用の状況に達しています」

「PER(株価収益率)とPBR(株価純資産倍率)だけでみると株価はほぼ上限、過熱しているというところまで来ていると思います。それは日本だけでなくて世界的な株価もしかりです。中央銀行が大量に流動性を市場に供給した結果、マイナス金利政策が世界的に伝播して、あふれた資金が債券や金利からリスク資産、代表的なものは株、仮想通貨もしかりですが、そちらの方に流入して非常に大きな力で資産価値を押し上げるという状況は2018年当初も変わらないと見ています」

「昨年後半からのトレードで原油価格に代表されるようなエネルギー・資源価格の回復が少しずつ見られてきており、株価の浮揚効果に貢献しています。世界経済の成長率も4.1%から4.3%ぐらい見込める中、インフレは比較的低位に収まっているという状況が続いています。それが株式をさらに10%程度は容易に押し上げる環境下にあると思っているので、日経平均も近いうちに2万6,000円から2万6,500円といったところに上昇し得ると考えています」

――今年中にデフレ脱却は宣言できるのでしょうか。インフレ目標はどうして達成できないのでしょう

「誰がどういった定義でデフレ脱却宣言をするのか分かりませんが、安倍政権がどこかの段階でデフレ脱却宣言を行う可能性は十分にあると思っています。日銀が2%のインフレ目標を掲げる中、2%という数字が独り歩きしていますが、消費者物価指数(CPI) も0.9%まで戻って来て、デフレ脱却宣言の下地は十分にできてきたと思っています」

「資産インフレが起きているのは間違いありません。デフレ脱却宣言というのは実際には2%に達しなくてもできるわけで、政治的な観点から見ると安倍晋三首相の経済政策アベノミクスの成功をきちんと国民に説明するために、『黒田・日銀の金融緩和策と安倍政権下の積極財政でデフレを脱却しました』『アベノミクスは成功でした』というロジックを彼のマイルストーン(一里塚)にする可能性は十分にあると思っています」

「今年中にデフレ脱却宣言をして翌19年10月の消費税増税(8%から10%に引き上げ)への道標にする可能性が高いでしょう。消費税増税にスポットが強く当たらないようにするためにはデフレ脱却宣言が必要かなと思います。今年9月の自民党総裁選で安倍首相の3選がほぼ見込まれる中で次の任期にやはり憲法改正が最も大きなファクターになってきます。その意味でもアベノミクスの1つの到達点として2018年にデフレ脱却宣言をしてくるというのは十分にあり得ると思います」

――黒田・日銀の金融緩和策は「出口」に向かっていますか。次の日銀総裁人事についてはどう見ていますか

「2013年4月に黒田東彦・日銀総裁が量的・質的金融緩和という大胆な金融緩和策を打ち出しました。その時に1つのメルクマールだったのが年間約80兆円の長期国債の保有残高増加です。しかし2016年9月以降、イールドカーブ・コントロール(長短金利操作)を始めて、主な目標を80兆円の保有残高増加から10年物国債の利回りをゼロ近辺に誘導する方向に移しました」

「日銀は保有残高の増加を80兆円からすでに50兆円まで減らしてきているので、我々はステルステーパリング(見えない緩和縮小)と呼んでいます。日銀の旗としては長期国債の保有残高増加よりも今は10年物国債金利のイールドカーブをコントロールすることが第一義になっています。今でも量的緩和は十分にしているのですが、金利をターゲットにしたものが主要政策になってきています」

「黒田総裁が続投するかどうかというのは1月の国会の後半には出てくると思います。黒田総裁の任期切れは4月ですが、日銀総裁は国会承認人事ですので1月か2月の間に黒田総裁の後継問題が話し合われます。複数の候補者がいますが、おそらく黒田総裁が続投することになるでしょう。ただし黒田総裁は73歳という高齢ですし、次の5年任期を全うするには厳しい年齢ではないでしょうか」

「続投しながら途中で交代ということは十分あり得ると考えています。今の段階では黒田総裁の後継としてはアベノミクスの理論を安倍首相に進言した1人、本田悦朗スイス大使、伊藤隆敏・コロンビア大学教授、渡辺博史・元財務官らの名前が出ています。黒田総裁の続投が決まり、2年か3年程度で交代するとなると、安倍首相の任期も来てしまいます。その時の候補者としてはいろんな方の名前が出てくるかもしれません。もちろん今の森信親・金融庁長官や日銀OBもメンバーに入ってくる可能性があります」

――日本の財政について。北朝鮮の核・ミサイル問題や中国が揺さぶってくる東シナ海・尖閣問題への対応で防衛支出が増えています。高齢化の問題もあり、日本の財政は心配しなくて大丈夫なのでしょうか

「非常に心配です。世界的な低金利の中で日本の国債金利が特段に低いというわけでもなくて、スイス国債の金利は日本国債より低くなっています。低金利でも日本に資金を滞留している外国人や国内勢がかなりいるという中で、今の金融政策を続けている限り日本の国債消化に不安が訪れることはないと思います」

「それが日本の財政に大きなメリットになっています。国債の発行は非常に大きくなったのに国債費、すなわち利払いと償還に使われるお金自体は抑えられているので、低金利のメリットは国の財政にとっても十分恩恵があります。それを実現しているのが日銀の金融政策という構図です。2020年までに基礎的財政収支(プライマリーバランス)をゼロにするという国際公約があったにもかかわらず、それを後ろ倒しすることが可能になっているのは今の金融政策がベースになっているからだと思います」

――内閣府は国と地方の基礎的財政収支をめぐり、黒字化が2027年度にずれ込むとの試算をまとめました。昨年7月の前回試算では25年度を想定していますが、さらに2年遅れとなりました

「20兆円を超える国債費は非常に大きく、予算の20%超を占めています。それを抑制できているというのは非常に大きなファクターで、それがあるので新規国債の発行も抑えられています。税収が60兆円しか計上されない中、歳出は100兆円に近いところまで来てしまっています」

「その主因は社会保障費ですが、社会保障費は残念ながら今までなかなか減らすことができていない予算です。2025年には団塊の世代が後期高齢者になり、そのコストは財政発散のリスクまで抱えています。日本の財政が今後好転する見込みは現在の政策をとっている限り、ありません。防衛予算も大きいですが、やはり社会保障費の伸びを抑えることができない限り、日本の財政は発散していく可能性が高いでしょう」

「財政は不安ですかと聞かれると100%イエスですが、幸いなことに世界経済が好転したことと、日本自体の成長率の押し上げもあって今はファンディングには問題ありません。アベノミクスが素晴らしい政策だったかどうかは分かりません。財政再建についての答えを出すことはできなかったけれども、デフレ脱却宣言という答えは出せる可能性が高いと思っています」

「団塊の世代が後期高齢者に入っていった時に膨張する社会保障費を抑える手立ては現政権では今のところ見いだせていません。基礎的財政収支の黒字化を今、後ろ倒ししていますが、現実味がない後ろ倒しです。2025年から2027年へ後ろ倒しする数字が出ていますが、2025年には社会保障費の大きな発散が出てくるのでさらに財政支出が拡大する可能性が高まって基礎的財政収支をゼロに戻すのは非常に難しいのではないかと危惧しています」

「財政発散がある定点で発生するというより、その時の経済状況にもよるので、例えば世界経済が供給過剰に陥っているような状況ですと起きやすいと思います。2025年に日本経済がどうなっているかは分かりませんが、今のところ日本経済の足を大きく引っ張る要素がありません。先進国はいずれもメタボ状態ですが、特に日本の場合、少子高齢化が進んでいるので成人病の後期に当たっていると思います。インシュリンが必要な状態になっているけれど、インシュリンを打っておけば生きていけるということで時間を稼いでいる段階です」

――財政が発散すると日本はどうなりますか

「財政が発散しても国がなくなるわけではありません。ベネズエラが典型的で2000%以上のインフレです。アルゼンチンもデフォルトしました。すべての国が通貨価値の大きな下落と経済的地位の損失を越えてまた復活してきます。イギリスも1970年代に国際通貨基金(IMF)の支援を受けています」

「イギリスは現在、国債比率をずっと100%以内に抑えていますし、日本とイギリスのどちらが良い国かという議論を脇に置くと、財政については再建を果たしました。もちろん日本に何か問題があったらIMFで支え切れるかというと支え切れません。1970年代のイギリスだってIMFで支え切れませんでした」

「イギリスは1970年代、80年代、労働争議と低成長、ハイパーインフレに苦しみ、金利も10%を超えていました。その後、マーガレット・サッチャー首相が民営化、炭鉱閉鎖など、激しい痛みを伴う構造改革をしました。そういうリスクが日本にもあるのかもしれません。財政が発散しても日本が消滅するわけではありません」

「日本は1980年代、90年代前半のジャパン・アズ・ナンバーワンを謳歌している状況ではないですが、 すべての国民が安全に一定の社会保障を受けて安心して暮らせる国という状況にはあると思います。財政が発散するというのは、その根底を支えている厚い社会保障が壊れていくということだと思います」

浅井将雄(あさい・まさお)

筆者撮影
筆者撮影

旧UFJ銀行出身。2003年、ロンドンに赴任、UFJ銀行現法で戦略トレーディング部長を経て、04年、東京三菱銀行とUFJ銀行が合併した際、同僚の米国人ヤン・フー氏とともに14人を引き連れて独立。05年10月から「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の運用を始める。ニューヨーク、東京、香港にも拠点を置く。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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