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日本の大学に行くのは無意味? 2018年「大学淘汰の時代」が始まった

木村正人在英国際ジャーナリスト
海外からの留学生が増えれば大学生活も刺激的に(写真:アフロ)

「大学全入時代」の虚構

[ロンドン発]「え?この時代に『大学に入る意味』があると、本気で思ってるの……?」という人気ブロガー、イケダハヤトさんのエントリーを読んで、日本では大学は無意味と考えている若者が多いことを改めて思い知らされました。

「大学全入時代」と言われますが、経済協力開発機構(OECD)のデータを見ても、日本の大学進学率は2014年時点で49%と、OECD平均の59%に比べて高くありません。

専門学校を含めた高等教育機関全体の進学率では80%になり、OECD平均の68%を大きく上回っています。どうしてでしょう。

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先日、日本の大学関係者から「日本の若者は大学に意味を見出していない。専門学校に行った方が将来、役に立つと考えている」という話を聞かされ、落ち込んでしまいました。大学で勉強しないのは若者の責任としても、日本の大学は大きな問題を抱えていると言わざるを得ないからです。

有名大学に合格することが一流企業への就職、終身雇用というキャリアパスになった時代は終わりました。

誰が考えても同じ結果になることを丸暗記したり、計算を速く正確にしたりする意味は急速に失われています。コンピューターや人工知能(AI)が人間の代わりにやってくれるようになったからです。

日本の大学にはびこる平等主義

世界有数の大学がひしめくロンドンで大学が主催するパブリック・イベントに参加していると、50歳を過ぎても大学に行って新しい知識を吸収すれば、もっと世の中の役に立つ記事が書けるようになるのではと思わせるほど、刺激的です。

日本の大学は「大学の自治」という名の下に学内にへんな平等主義がはびこり、競争原理が働いていません。大学のぬるま湯体質が学生にも伝わり、若者の向上心を削いでいるのです。

日本低迷の最大の原因は「大学力」の衰退にあると思います。18歳人口は1992年に205万人に達しましたが、2030年には101万人、2040年には80万人まで減少すると推計されています。大学経営の危機は「2018年問題」とも言われています。日本の大学は18歳人口の減少で淘汰の時代に突入したのです。

日本の大学は「黒船」を必要としています。

海外から留学生を受け入れることは損か、得か――イギリスの高等教育政策研究所(HEPI)などは11日、留学生を受け入れるコストと利益を調査してまとめた報告書を発表しました。

HEPI発表資料より
HEPI発表資料より

大学が産業化しているイギリスには2015年度、23万1,065人の留学生がやって来ました。欧州連合(EU)加盟国からの留学生が5万8,960人で全体の26%。EU域外からの留学生が17万2105人で74%。

EU域外からの留学生は中国がトップで6万2,105人。アメリカが2位で1万545人。インドが3位で9,095人。日本は悲しいかな、トップ10位内にはランクインしていません。EU加盟国ではドイツ、フランス、イタリアがトップ3でした。

留学生がイギリスに落とす純益は3兆円

EU加盟国からの留学生がイギリスにもたらす利益は1人当たり8万7,000ポンド。EU域外は10万2,000ポンド。EU域外からの留学生はイギリスの大学にとって、まさに「金のなる木」です。トータルすると226億4,000万ポンド(約3兆4,000億円)の利益が上がっていました。

それに対するコストはEU加盟国からの留学生1人につき1万9,000ポンド。EU域外からが7,000ポンドで、トータルで23億ポンド(約3450億円)。差し引きして203億4,000万ポンド(約3兆510億円)の純益になっていました。

ニック・ヒルマンHEPI所長は「留学生は彼らを受け入れるコストの10倍の利益をイギリスにもたらしている」と指摘しています。

留学生を含めた移民の流入に目を光らせている保守党政権下のイギリス内務省の悪名は世界に鳴り響いており、インドのメディアは「イギリスは世界のトップ大学を擁しているかもしれないが、その政府は世界で最も留学生に悪意を持っている」と警鐘を鳴らしています。

世界からの留学生は高度人材の供給源になっているため、イギリス産業界のリーダーたちはメイ政権に対して、留学生を移民の統計から外すよう要望しています。

日本の大学は海外との垣根をなくせ

日本の国内市場は深刻な少子高齢化の影響でどんどん細ってきています。日本企業は海外展開に活路を見出そうとしています。日本の大学は海外からの留学生を呼び込めるよう改革を進める必要があります。

そのためには海外の留学生が大学を選ぶ基準になっている世界大学ランキングの結果を直視しなければなりません。イケダハヤトさんが指摘されているように日本の若者でさえ行く意味がないと考えている大学に海外の留学生が関心を示すわけがありません。

海外との垣根をなくし、国内の大学間の垣根もなくす。

語学力は使わなければ衰え、使っていると知らず知らずのうちに身についていくものです。英語が話せる、話せないとでは将来、仕事のできる範囲が大きく異なります。英語の話せるアジアからの留学生が増えれば刺激が強まり、日本の若者たちにとっても大学の魅力は増すはずです。

下降スパイラルに入っている日本を立て直すためには、世界の留学生や社会人に対して日本の大学の門戸をもっと開放していく必要があると思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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