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オンナたちの一斉蜂起 BBC女性記者が給与格差に抗議の辞任 ハリウッド女優はセクハラ追放の黒ドレス

木村正人在英国際ジャーナリスト
セクハラに抗議して黒ドレスで連帯を示した女優たち(写真:ロイター/アフロ)

エマ・ワトソン「連帯の証として黒を着る」

[ロンドン発]米ゴールデングローブ賞の授賞式に、人気映画シリーズ「ハリー・ポッター」でお馴染みのエマ・ワトソン、「ブラック・スワン」でアカデミー主演女優賞を獲得したナタリー・ポートマンら豪華女優陣が黒色のドレスで出席しました。ハリウッドを揺るがしたセクハラへの抗議行動で、エマ・ワトソンは「連帯の証として黒を着ている」と表明したそうです。

一方、英BBC放送では中国総局長(editor)を務める女性キャリー・グレーシーさん(55)がBBCによる給与の男女格差に抗議して総局長ポストを辞しました。BBC在籍30年のグレーシーさんは公平な給与が期待できる元の職場のTVニュースルームに戻り、BBCには留まるそうです。ブログで「BBCには選択的で違法な給与文化がある。信頼が危機に陥っている」と指摘しています。

男女給与格差に抗議して中国総局長を辞したグレーシーさん(BBCサイトより)
男女給与格差に抗議して中国総局長を辞したグレーシーさん(BBCサイトより)

BBCは「女性に対する構造的な差別はない」と説明しています。がしかし、昨年7月に公開されたBBCの年収15万ポンド(約2300万円)以上のリストを見れば男女格差がありありと浮かび上がっています。未公開の15万ポンド未満の不平等はさらにひどく、年金まで含めるとその差はもっと開くとグレーシーさんは抗議しています。

BBCの男女給与格差は平等法違反?

英大衆紙デーリー・メールによると、グレーシーさんは中国総局長に留まるよう、現在の給与13万5,000ポンド(約2,000万円)に4万5,000ポンド(約690万円)を上積みすると提示されましたが、蹴っ飛ばしたそうです。北米総局長や中東総局長の男性記者はそれぞれ20万~24万9,999万ポンド(3,000万~3,800万円)、19万9,999ポンド(約3,000万円)が支給されていました。

BBCの年収15万ポンド超リストには男性62人、女性34人の名前が掲載され、男性の平均は29万5,000ポンド(約4,500万円)だったのに対し、女性は21万ポンド(約3,200万円)と大きな開きがありました。男性のトッププレゼンターは220万~225万ポンド(3億3,600万~3億4400万円 )、女性のトッププレゼンターは45万~50万ポンド(6,900万~7,600万円)でした。

未公開の15万ポンド未満の給与格差がどうなっているのか、疑問に思った女性プレゼンターや記者はそれぞれの給与を公開し合ったあと、同じ職場で同じような仕事をしている男性の給与を聞いて情報を集めました。男女間の給与格差は歴然としていたそうです。

イギリスでは2010年に平等法が成立し、男女平等がさらに徹底されました。グレーシーさんはBBCが男女間の給与格差は解消されていると公然と主張していることに憤慨し、BBCの男女間の給与格差は理由がなく平等法に違反していると抗議しています。BBCの著名女性ジャーナリストもグレーシーさんの行動を支持しました。

日本の新聞・通信社の女性記者比率は18.4%

日本ではメディア分野への女性参画はどうなっているのでしょう。少し古い資料になりますが、11年の内閣府「諸外国における専門職への女性の参画に関する調査」報告書から見てみましょう。06年時点で正社員に占める女性の割合は出版34.5%、民放22%、新聞15.4%、NHK11.8%でした。有給役員の女性比率は出版21%、新聞13.2%、NHK10%、民放2.4%。

アメリカでは雑誌や新聞の編集者の5割強が女性、TV・ラジオ局のプロデューサーの約4割が女性でした。女性幹部役員は新聞・出版社では約3割、TV・ラジオ局で約4割と女性参画が日本に比べて随分と進んでいました。スウェーデン・ジャーナリズム協会の女性会員は全体の45%に達していました。

一方、シティ (ロンドン大学)の調査では、イギリスのジャーナリズムの女性比率も45%でしたが、白人比率が94%にものぼることが分かっています。

内閣府「各種メディアにおける女性の割合の推移」をみると、メディア分野への女性参画は徐々に向上しています。しかし、16年時点で新聞社・通信社などの記者に占める女性の割合は18.4%、民放各社の管理職に占める女性の割合は13.7%、NHKの管理職に占める女性の割合は7%、新聞社・通信社の管理職に占める女性の割合は5.6%と、まだまだ男女平等とは言い難いのが実態です。

男女半々のニュースルームを

世界人口は男性の方が若干多いものの男女ほぼ半々です。妊娠、出産という性差による役割分担はあるものの、社会のニュースを追いかけるジャーナリストの役割は男女半々で担うのが理想的です。ニュースルームが男社会になり、オトコの論理に支配されてしまうと、どうしても女性にとって不利なかたちのニュースが作り出される傾向が強まってしまうからです。

国際女性メディア基金(IWMF)が11年に60カ国近くの500社以上を対象に調査したところ、フルタイムでジャーナリズムに携わっている女性は全体の3分の1でした。経営トップの仕事の73%は男性に支配され、女性比率は27%でした。

メディア分野の男女平等を確立するために英紙ガーディアンが5つの戦略を紹介しています。

(1)コンテンツのジェンダー・バランスを取る

(2)経営者からの強いコミットメントを確かなものにする

(3)女性が上級職を含めニュースルームのすべてのポストにつけることを保証する

(4)男女間の給与格差をなくす

(5)指導や能力開発プログラムを通じてスキル、指導力をアップさせる

男女が協力して産んで育てることをベースラインに持続可能な社会を実現していくためには、まず男女が同じように働けるニュースルームを作っていくことが不可欠です。社会をウォッチする女性の目が増えれば、権力と支配構造が作り出すセクハラやパワハラも自然になくなっていくのではないでしょうか。

権力に擦り寄ってニュースを取るのはもう止めにしましょう。そうすることによってメディアも権力と支配構造に組み込まれていくことになるからです。ハリウッドのジャーナリストもセクハラについて全く知らなかったということはないと思います。見て見ぬ振りをしてきたというのが実態ではないでしょうか。

女性が男性のように働くのではなく、男女が協力して無理なく働ける社会を率先して実現していく責務をメディアは負っているはずです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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