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「集団レイプ」の脅しに屈しない!可愛すぎる36歳女性リーダーはカタルーニャ独立問題に終止符を打てるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
旋風を巻き起こすイネス・アリマーダスさん(筆者撮影)

州議会選は独立派がリードも宙ぶらりんに

[バルセロナ発]独立問題で揺れるスペイン北東部カタルーニャ自治州議会選(定数135)の投開票が12月21日行われます。世論調査をみると、独立派3党と独立反対3党は大接戦を繰り広げています。しかし、いずれも過半数に届かない宙ぶらりんの結果に終わりそうです。

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カタルーニャの血が流れる人は「独立」、州外からやって来た人は「独立反対」とカタルーニャの社会は家族も、友人も、職場も完全に二分しています。選挙を何度繰り返しても同じような結果になる堂々巡りに陥る恐れが強まっています。

日本では「氏より育ち」と言いますが、独立に賛成か、反対かはカタルーニャの血を受け継いでいるか否かという「氏」に大きく左右されます。「氏」は変えようがないため、宙ぶらりん状態が当分続くという構造です。

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世論調査をもう少し詳しく見ていくと、独立派3党が独立反対3党を若干リードしていますが、独立反対3党のうち市民政党シウダダノス(Cs)が独立派のERCを逆転して議会第1党に躍り出る可能性が出てきました。

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「集団レイプされたらいい」

シウダダノスの筆頭候補イネス・アリマーダスさん(筆者撮影)
シウダダノスの筆頭候補イネス・アリマーダスさん(筆者撮影)

今回の州議会選で台風の目になっているのが同党の筆頭候補になった36歳の女性弁護士です。スペイン語でいうまさに「ボニータ(可愛い人)」。レッド・ツェッペリンとFCバルセロナと元監督ジョゼップ・グアルディオラ氏の大ファンだそうです。

選挙運動の最終日である19日夜、バルセロナ市内で開かれたシウダダノスの集会を取材しました。2,500人の支持者が集まる中、イネス・アリマーダスさんが登場しました。報道されていた通り可愛い女性ですが、カメラ映りが良く、カリスマを感じさせます。

同

スペイン南部アンダルシア州の出身でカタルーニャには12年間しか住んでいません。2010年に友だちにシウダダノスの集会に誘われたのがきっかけで政治活動に参加しました。12年のカタルーニャ州議会選で初当選。15年に野党会派の代表に就任しましたが、「中身のない人形さん」と心無い批判にさらされました。

同

カタルーニャ独立に強く反対し、独立住民投票を控えた今年9月には「彼女が集団レイプされることを望む」とツイートされたことがあります。ツイートしていたのは女性と分かり、その女性は職場を解雇されました。独立ナショナリズムはどうしても排他主義を伴う側面を完全には否定できません。

シウダダノスのスローガンは「カタルーニャは私の故国であり、スペインは私の祖国であり、欧州連合(EU)は私たちの未来」。アリマーダスさんは集会で「悪夢から目覚めよう。無謀な独立を止める唯一の方法は私たちシウダダノスに投票することです」と訴えました。

「最初の100日間で独立のプロセスを撤回」

独立派3党が州政府を握ってから、カタルーニャの在外公館設置、海外活動、公共放送に血税が投入され、医療やその他の公共サービスがおろそかになっているというのがシウダダノスの主張です。アリマーダスさんは州首相に就任したら最初の100日間で独立のプロセスを撤回し、独立派(ナショナリスト)と独立反対派(ユニオニスト)の和解を最優先にすると訴えています。

独立に反対するシウダダノスの選挙集会(筆者撮影)
独立に反対するシウダダノスの選挙集会(筆者撮影)

シウダダノスが人気を集めているのは、同じように独立に反対している既存の主要2大政党の国民党(PP)と社会労働党(PSC)に投票するより、アリマーダスさんに票を集めた方が独立運動の流れを止められるからです。政治腐敗で2大政党が有権者の信頼を失ったことも背景にあります。

アリマーダスさんは今回の州議会選で最年少候補者。「私たちの祖母の世代は男女平等の権利のために戦った。私たちは真の平等のために戦わなければならない」とジェンダーも争点に掲げています。しかしシウダダノスが議会第1党になってもアリマーダスさんが州首相になれるかどうかは微妙です。

結束を誓うシウダダノスの候補者(筆者撮影)
結束を誓うシウダダノスの候補者(筆者撮影)

アリマーダスさんは、カタルーニャ州の自治権を一時停止し、スペイン中央政府が直接統治する憲法155条の発動に賛成しました。このため、独立派3党の協力はまず得られません。独立に反対している社会労働党や、独立に反対しながらも住民投票の実施を唱える左派ポデモス(Podem)は、国民党をリニューアルしたようなシウダダノスを警戒しているからです。

行き詰った独立派

カタルーニャ州が独立住民投票を受け一方的に独立を宣言してから、3,000社が登記を州外に移しました。企業活動にとって不確実性は大きな問題です。先が読めないと安心して投資できないからです。独立宣言は海外から完全に無視され、観光客も減りました。

憲法に違反する独立を扇動したとして元閣僚や市民団体の代表が投獄され、カルラス・プチデモン前州首相はブリュッセルに逃亡したままです。今回の州議会選で独立派は黄色いリボンをシンボルにしています。現在、マンチェスター・シティの監督を務めるグアルディオラ氏も胸に黄色いリボンを着けて試合に臨んでいます。

投獄されている同胞への連帯の印だからです。

プチデモン氏はインターネットを通じて選挙運動を展開。「この州議会選は独立派に対する信任投票です。中央政府は暴力や非民主的な方法でカタルーニャの独立を覆そうとしています」と呼びかけています。

独立派3党はこのまま独立に突き進んでも展望は開けません。

独立派3党はポデモスを巻き込んで独立の是非を問う住民投票の実施を独立反対3党にのませるか、国政を巻き込んでカタルーニャの自治権をさらに拡大して独立派の不満を和らげるかしか解決策はありません。しかし膠着状態を打破するのは非常に難しそうです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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