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不倫に詐欺 政活費不正受給「一線」越えた橋本市議 こんな地方議員はもう要らない

木村正人在英国際ジャーナリスト
今井議員(右)と不倫疑惑の橋本市議が政活費を不正受給(写真:アフロ)

「市議に頼まれ架空領収書を発行」

 [ロンドン発]アイドルグループSPEEDのメンバーだった自民党の今井絵理子参院議員との不倫疑惑を報じられた自民党の橋本健・神戸市議(37)が5年間にわたって市政報告のチラシを印刷業者に架空発注して政務活動費(政活費)700万円を不正受給していた疑惑が週刊新潮のスクープで明らかになりました。

 橋本市議は「半分以上配り切れず、余ったチラシは廃棄した」と架空発注を否定していましたが、神戸市内の印刷業者が24日、弁護士を通じて「実際には印刷の仕事をしていないのに、橋本市議に頼まれて請求書や領収書を発行した。商品名や数量、金額は橋本市議の指示通りに記載していた」ことを明らかにしました。

 これは刑法上の詐欺と虚偽有印公文書作成・同行使の罪に当たります。今井参院議員との関係については「一線は越えていない」と言い張ってきた橋本市議ですが、今回の政活費の不正受給は言い逃れできそうにありません。地方議員の質の低下と政活費不正受給の全国的な広がりには目を覆うばかりです。

「号泣県議」は政活費を不正使用

 2014年、政活費の不正使用を問われた野々村竜太郎・兵庫県議(当時)の「号泣会見」は記憶に新しいでしょう。野々村氏は政務費計1834万円と利息89万円を返還し、辞職しました。神戸地検は政活費913万円をだまし取っていたとして在宅起訴。野々村氏は懲役3年、執行猶予4年の有罪判決が確定しています。

 昨年も、富山市議会で白紙の領収書に金額を書き入れたり、領収書をパソコンで偽造したりして4000万円超の政活費を不正受給していたことが発覚し、市議14人が辞職しています。宮城県議会でも議長が白紙の領収書を使って政活費を過大請求していたことが分かり、辞任しました。

 どんな立派な人物でも誰の監視も受けずに公費を使えるとしたら、次第に感覚がマヒして不正受給が日常化していきます。自分が腐敗していることにも気づかず、「誰でもしていることだ」と経費の使い放題になっていくのは国会議員、地方議員、お役所に限らず、民間企業にもあることです。

 イギリスでも09年、下院議員の経費スキャンダルが発覚。夫がこっそり見たアダルトTVの代金やアヒル小屋の費用まで議員経費で落としていたことが分かり、140人以上が次の総選挙への出馬を取りやめるなど、大変な騒ぎになりました。

日本の地方議員は多い? 少ない?

 少子高齢化が進む日本では、地方議員の成り手が少なくなり、無投票で当選するケースも目立ってきています。

 地方議会の政党化と既得権益化が進みすぎた結果、地縁や血縁はないものの志と資質を兼ね備えた働き盛り世代や若者の新規参入を阻んでいるからです。職を捨てて選挙に出るのは、落選した場合の再就職の難しさを考えるとリスクが高すぎるのでしょう。

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 総務省資料で各国の地方議員数を比べてみると、日本が飛び抜けて多いわけではありません。地方議員の質が低下しているのは、数が多いというよりは、立候補する人が少なくなり、競争原理が働かなくなったのが一番の原因です。

 地方自治は「民主主義の学校」と言われます。地方議会を牛耳る主要政党が門戸を開き、優秀な人材を集めていく必要があります。高齢者や女性、若者も就職しやすい労働市場をつくり、落選してもすぐ再就職が可能になるなら、気軽に地方議会選に立候補できるようになります。供託金の額を下げてやる必要もあるでしょう。

手当を含む議員報酬は高すぎる?

 地方議員は「名誉職」か「有給職」かが今でもよく議論されます。かなり古い資料になりますが、下のグラフはシンクタンク「構想日本」がまとめた地方議員の報酬・手当の国際比較です。

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 スイスやイギリス、フランスでは地方議員は「名誉職」であることが一目瞭然です。それに比べ、日本の場合、都道府県議会議員の報酬と手当は2119万円と非常に高くなっています。市議で952万円、町村議で399万円です。

 イギリスをお手本に明治維新を行った日本でも明治時代、地方議員は「名誉職」であると明記されていました。政治とは報酬をもらわなくても十分生活していける富裕層、知識層が行うものと考えられていたイギリスの民主主義をそのまま移植したからでしょう。

 戦後、地方自治制度が刷新され、すべての地方議員に報酬と費用が支払われるようになりました。地方議員の報酬は地方自治体の職員給与と足並みをそろえて1990年代半ばまで毎年、引き上げられました。「職員並みに」というのが目標でした。一方、各種手当は「国会議員並み」を目指して増額されてきました。

 地方議員の報酬や手当は、「名誉職」か「有給職」か、一般行政職や国会議員に比べて高いか低いか、「兼業」か「専業」か、という観点から議論されてきました。地方議員に専門性を求めるなら、薄給では人は集まりません。その一方で、低成長が長引き、手当の「お手盛り」が認められる時代ではなくなりました。

政活費を2年連続で100%使い切った富山市議会

 全国市民オンブズマン連絡会議は政活費執行率と公開度について昨年6月、47都道府県、20政令市議会、47中核市議会の114議会を調査しました。交付された政活費のうち実際にどれだけ使ったのかを表す執行率は15年度、都道府県議会の平均で87.8%でした。

 神奈川県の97.9%、福島県の97.6%、鹿児島県の97.3%がトップ3で、徳島県の61.8%、鳥取県の66%、兵庫県の66.4%がボトム3でした。政活費を2年連続で100%使い切っていたのは、政活費の不正受給で議員14人が辞職した富山市議会だけでした。

 執行率が前年度に比べて10%以上減少したのは兵庫県や佐賀県、堺市、神戸市、広島市など12議会。野々村スキャンダルに揺れた兵庫県議会は13年度87.8%から15年度には66.4%まで激減しました。

 政活費が500万円を超えていたのは10都道府県議会、5政令市議会です。

東京都 720 万円

大阪府 708 万円

京都府 648 万円

神奈川県 636 万円

北海道 636万円

埼玉県 600 万円

愛知県 600 万円

福岡県 600 万円

静岡県 540 万円

兵庫県 540 万円

横浜市 660 万円

京都市 648 万円

大阪市 615.6 万円

名古屋市 600 万円

川崎市 540 万円

 ホームページで領収書を公開していたのは大阪府、兵庫県、高知県、京都市、大阪市、神戸市、函館市、大津市、西宮市 の9議会。CD・DVDデータで提供しているのは岐阜県、愛知県、三重県、大阪府、兵庫県、鳥取県、高知県、沖縄県、札幌市、静岡市、大阪市、豊田市、那覇市の13議会でした。

 全国市民オンブズマン連絡会議は「政活費の公開が進んでいないのは議会の市民への情報公開が進んでいないことの証です。議会の非公開度は市民の常識とかけ離れています。市民に提供される情報が豊富になる、透明度がアップする、ということは、議会側に支出の適正化を促すことにつながります」と指摘しています。

 情報公開を進め、透明性を高めていくと、政活費の不正受給が減っていくのは間違いありません。

(おわり)

参考:「自治体議員報酬の史的展開」堀内匠(自治総研通巻456号 2016年10月号)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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