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「火薬庫」化する中東 中国の脅威増すアジアは軍拡 世界の武器取引

木村正人在英国際ジャーナリスト
ヨルダンを視察するフランスの国防相フローレンス・パーリー(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]国際コンサルティング会社ジェーンズIHSマーキットは7月19日、「世界の武器取引」年次報告を発表しました。昨年、世界の武器取引市場は43億ドル拡大して625億ドルに達しました。2010~13年にかけ世界の国防支出は減少したものの、武器輸入が増えたからです。

中国が軍事要塞化を進める南シナ海や北朝鮮の核・ミサイルが配備段階に入ったとみられる北東アジアでは、武器輸入で軍備を増強する国が増えています。

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サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、アルジェリア、イラクの武器輸入額は14年の計99億ドルから16年には同152億ドルに膨れ上がっています。03年のイラク戦争、中東の民主化運動「アラブの春」で不安定化した中東は「世界の火薬庫」になりつつあります。

中でもサウジの武器輸入は49億ドルから83億ドルに増えました。中東の武器輸入は20年以降、急速に縮小するとみられているものの、今後4年間は毎年、平均で220億ドルの武器を輸入し続ける見通しだそうです。

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しかし、その一方で滞留している発注済みの武器輸出分を見ると約5%も減っており、今後3年、武器取引は横ばいというよりむしろ減少する傾向です。IHSマーキットの上級アナリスト、ベン・ムーアズはこう分析しています。

「世界の武器輸出市場が減少すると予測するのは初めてのことです。理由はいくつかあります。(中東の産油国が武器を輸入する際の原資となっている)エネルギー価格が下がったこと、武器の国内生産が増えたこと、武器輸出の増加が長く続いたことで世界市場が一息ついたことなどが考えられます」

「武器取引市場は18年に減少に転ずる可能性があります。これは私たちが09年に記録をとり始めてから初めてのことです」

東アジアへの武器輸出は15年の104億ドルから16年の128億ドルに増えました。中国の軍事的な脅威に対抗するため、韓国や台湾、日本が武器輸入を大幅に増やしており、「韓国の武器輸入が今年、中国を追い抜くでしょう」とムーアズは話しています。

世界最大の武器輸出国はやはりアメリカです。サウジに武器を供給しているのもアメリカです。アメリカの武器輸出額は232億ドルから268億ドルに増え、ロシアも63億ドルから72億ドルに増やしています。

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一方、スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、16年の世界の国防支出は前年比0.4%増の総額1兆6860億ドル。最大の支出国アメリカは1.7%増の6110億ドル(世界全体の36%)。2番目の中国は5.4%増の2150億ドル(同13%)でした。

上位15カ国の中にアジア太平洋地域から中国、インド(559億ドル、世界全体の3.3%)、日本(461億ドル、同2.7%)、韓国(368億ドル、同2.2%)、オーストラリア(246億ドル、同1.5%)の5カ国が入りました。中国の軍事的脅威に対抗するため軍拡が進んでいる実態を浮き彫りになっています。

アジア太平洋全体の支出総額4500億ドルの半分近くが中国です。

また、SIPRIの「世界の武器取引」によると、世界に占める武器輸出の割合はアメリカが全体の約3分の1を占め、ロシアが23%です。第3位の中国は07~11年の3.8%から12~16年の6.2%にまで増え、フランス(6%)やドイツ(5.6%)を上回っています。

輸入ではアジア太平洋地域が同じ期間に7.7%も増加し、全体の43%を占めました。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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