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強硬左派ジェレミー・コービンまさかの大逆転は? 深読み!イギリス総選挙

木村正人在英国際ジャーナリスト
乗りに乗る強硬左派ジェレミー・コービン(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]イギリスの欧州連合(EU)離脱の行方を決める総選挙の投票日である8日がやってきました。最大野党・労働党党首の強硬左派ジェレミー・コービンが予想以上に追い上げ、最新の世論調査では首相テリーザ・メイ率いる保守党との差は平均値で9%ポイント。保守党の地滑り的勝利のシナリオはすでになくなっています。

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がしかし昨年、イギリスのEU国民投票とアメリカの大統領選で世論調査は大きく外れました。今回は汚名をすすぐことができるのでしょうか。

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大手世論調査会社YouGovが選挙区ごとに聞き取りした5万5707人調査では、保守党302議席(28議席減)、労働党は269議席(37議席増)となり、どの政党も議会の過半数(326議席)を獲得できない「ハング・パーラメント(宙ぶらりんの議会)」になるという予想が出ています。

これに対して、元保守党副幹事長のアシュクロフト卿が私財を投じて実施している調査では、保守党が357議席を獲得し、与野党の議席差は64と予想しています。

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先の2015年総選挙を最も正確に予想した世論調査会社ComResの調査結果をグラフにすると下のようになります。直近の支持率では保守党が10%リードしています。

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英世論調査協議会会長を務めるストラスクライド大学の教授ジョン・カーティスは保守党が労働党に激しく追い上げられている理由について筆者にこう指摘しました。

(1)全然期待されていなかったコービンが思っていた以上にうまく選挙キャンペーンを行った

(2)労働党のマニフェスト(政権公約)には、有権者受けするポピュリズムが入り込んでいる

(3)保守党の選挙キャンペーンが機能しなかった

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保守党のリードと与野党の議席差の予想をまとめると次のようになります。

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世論調査が正しければ、メイは過半数を得て政権を維持し、野党との議席数の差は30~40議席といったところになりそうです。

第二次大戦を戦い抜いたウィンストン・チャーチル(保守党)は事前の世論調査で83%の高支持率を得ていたにもかかわらず、1945年7月の総選挙で189議席を失って、労働党党首のクレメント・アトリーにまさかの大敗北を喫します。

先の統一地方選で地滑り的圧勝を収めた保守党のメイがコービンに敗れるようなことになれば、チャーチルまさかの大敗北以来のことになります。カーティス教授は5月31日の時点でこう予想しました。

(1)保守党と労働党の差は劇的に縮まっている

(2)保守党が勝つにしても、地滑り的勝利はもはやあり得ない

(3)ブレグジット(イギリスのEU離脱)に関して保守党と労働党支持者の溝はさらに広がっている

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YouGovの世論調査を見ると、昨年の国民投票でEU残留に票を投じた人は次第に、ソフト・ブレグジット(単一市場や関税同盟へのアクセスをできるだけ残してEUから離脱)を主張する労働党を支持するようになってきています。

EU離脱に関する保守党と労働党のマニフェストを見ておきましょう。

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【保守党】ハード・ブレグジット

・EUの単一市場と関税同盟から離脱。EUとの深い特別なパートナーシップを模索

・円滑で秩序あるブレグジットを確実に行う。イギリスにとって条件の悪い合意なら結ばない

・EU離脱に際してイギリスの権利と義務について公平な決着を断固として目指す

・EU法をイギリス国内法に移し替えるために「Great Repeal Bill (大廃止法案)」を成立させる

【労働党】ソフト・ブレグジット

・保守党のブレグジット白書を廃案にする。その代り単一市場と関税同盟へのアクセスをできるだけ残すことを交渉の優先課題に定める

・イギリスで暮らすEU市民の権利を即座に保証する

・労働者の権利と環境保護に変更がないよう「大廃止法案」をEUの権利と保護法案に置き換える

・有効な選択肢として「合意のないまま離脱」を消去する

労働党は、昨年の国民投票でEU残留に投票した若い有権者の支持を得て、急伸しました。カーティス教授は「今度の投票結果がイギリスのEU離脱にどんな影響を与えるのかはしばらく経ってからでないと確かなことは言えない」と話しています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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