Yahoo!ニュース

ステルス機F35が大幅値下げ これで自衛隊の調達は大丈夫?

木村正人在英国際ジャーナリスト
ロッキード・マーチンのF35A(写真:ロイター/アフロ)

1機1億ドル割ったF35A

米防衛大手ロッキード・マーチンと米国防総省は3日、高い状況認識力を持った最新鋭ステルス第5世代戦闘機F35Aの次回生産分90機を約85億ドル(約9570億円)にすることで合意しました。

「最も高価な戦闘機」と揶揄されてきたF35Aの1機当たりのお値段は9500万ドル(前回の調達は1億200万ドル、7.3%減)となり、1機当たりの調達コストが初めて1億ドルを下回りました。

日本円にすると1機当たり107億円です。トランプ大統領は当選が決まってからツイートで「F35はカネがかかりすぎ」と批判を強めていました。

2016年12月12日

「F35計画と費用は制御不能に陥っている。私が米大統領に就任する1月20日以降は軍やその他の調達にかかっている何十億ドルもの大金が節約できる」

12月22日

「ロッキード・マーチンのF35にかかる莫大なコストと予算オーバーについて、私はボーイング社にF18 スーパーホーネットの見積もりを出すよう依頼した」

今回の削減幅は合計で7億2800万ドルです。トランプに批判される前からロッキード・マーチンと国防総省の交渉は水面下で進んでいたようです。これまでうなぎ登りだった航空自衛隊の調達価格が180億円から147億円に下がっていたからです。

防衛予算の概要で2012年度からF35A、1機当たりのお値段がどう変わってきたかを調べてみました。為替の影響もあるので円安になると割高になり、円高になると割安になります。

F35A1機、12年度99億円

4機で395億円

その他シミュレーターの取得経費として205億円を計上。

13年度150億円

2機で299億円

国内企業参画に伴う初度費として別途830億円を計上。国内企業が製造に参画するとともにF35の国際的な後方支援システムに参加。

その他関連経費(教育用器材等)として別途211億円を計上。F35Aの配備(三沢)に向けた教育訓練施設の整備のための調査工事。

14年度160億円

4機で638億円

国内企業参画の範囲を拡大することに伴う初度費として、別途425億円を計上。その他関連経費(教育用器材等)として別途383億円を計上。F35Aの配備(三沢)に向けた教育訓練施設等の整備27億円。

15年度172億円

6機で1032億円

国内企業参画の範囲を拡大することに伴う初度費として、別途177億円を計上。その他関連経費(教育用器材等)として別途181億円を計上。

16年度180億円

6機で1084億円

その他関連経費(整備用器材等)として別途307億円を計上。このうちアジア太平洋地域における機体の整備拠点の立ち上げに必要な経費として21億円を計上。

17年度147億円

6機で880億円。1機当たり147億円。

その他関連経費(整備用器材等)として別途309億円を計上。17年度予算までの整備数(中期防内の整備数)は28機中22機。

F35Aのほか、新型輸送機オスプレイ、無人機グローバルホークなど米国製装備の調達コストがかさんできたため、日本側が値引き交渉していたとロイター通信は報じています。

航空自衛隊の戦闘機はF15が201機、日米共同開発機のF2が92機、F4が54機です。F35A戦闘機42機を調達し、老朽化したF4と置き換える計画です。

F15もF35Aに置き換え

今後5年間の防衛力運用計画である中期防衛力整備計画で「近代化改修に適さない戦闘機(F15)について、能力の高い戦闘機に代替するための検討を行い、必要な措置を講ずる」と明記しました。

一部でF15の旧型機についてもF35Aに置き換える計画が浮上しており、F35Aを100機以上調達する可能性が出てきていると報道されています。

主力戦闘機を一機種に絞るとトラブルが発生した場合、すべて運用できなくなる恐れがあるため、複数の機種を配置するのが常識です。

日本の場合はこれまでF15、F2、F4の3機種でした。すべてのF4だけでなくF15の約半数までF35Aに置き換えるとなると、かなり大きなリスクを抱え込むことになるのではないかと心配になります。

F35Aはゲームチェンジャーか

日本の防衛関係者は「F35はステルス性と状況認識力に優れており、航空優勢を確立するゲームチェンジャーになる」と断言しますが、一方で「前に決められたことをひっくり返さないのが防衛省と自衛隊の不文律」という前例踏襲主義も聞こえてきます。

F35Aは発展途上の戦闘機で、実戦でどれだけ役に立つのかデータが乏しいという難点があります。しかしロシアや中国への航空優勢を維持するため、米国のほか10カ国が採用を決め、引くに引けない巨大プロジェクトになっています。

短い距離で離陸し、垂直着陸と超音速飛行が可能で、空中戦と対地攻撃能力を備えた多用途性のF35には通常離着陸のA型、短距離離陸・垂直着陸のB型、艦載用のC型があります。しかし、あらゆる用途に対応しようとしたため、構造上多くの矛盾を抱えてしまいました。

疑問符、続出

エンジン出火、ミッションソフトウェアの問題などで計画から20年近い歳月がたち、米軍の2457機調達に4千億ドル(45兆円)かかると言われています。

ステルス性や運動性能に乏しい上、搭載量が適切ではなく、運用コストも高くつき、兵站システムも複雑という専門家の指摘もあります。

米国のF15サイレント・イーグル、F18スーパーホーネット、欧州のユーロファイター、グリペン、ラファールなど、F35より安くて効率的で実績のある戦闘機はいくつもあります。

F35をめぐる論争は防衛産業のロビー活動の側面もあり、鵜呑みにはできませんが、多くの疑問符が浮上しているのは間違いありません。

尖閣を含む東シナ海上空に防空識別圏(ADIZ)を設定するなど中国の軍事的な台頭が著しいアジア・太平洋地域でF35の調達を拡大する動きが出ています。

航空自衛隊の主力戦闘機は、領空侵犯機に対応するスクランブル(緊急発進)が主任務なのに、ドッグファイトに疑問符がつくF35Aの割合をこれ以上増やして行っても大丈夫なのでしょうか。航空自衛隊は実際の運用を通じてF35Aを使いこなし、パフォーマンスを上げていくしかありません。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

木村正人の最近の記事