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男女平等世界一アイスランドと111位日本の違い 立ち上がれ大和なでしこ

木村正人在英国際ジャーナリスト
なかなか進まない日本の男女平等(ペイレスイメージズ/アフロ)

下を見れば中東・アフリカ諸国

「ダボス会議」を主催していることで有名な世界経済フォーラム(WEF、本部・ジュネーブ)が各国の男女平等度を指数化した「ザ・グローバル・ジェンダー・ギャップ報告書2016」を発表しました。安倍晋三首相が音頭を取る女性活躍のウーマノミクスにもかかわらず、日本は144カ国中111位。昨年より順位を10も落としてしまいました。

出所:WEF報告書より筆者作成
出所:WEF報告書より筆者作成

10年前に比べ各指数は保健を除いて改善しているものの、順位はすべての面でかなり落ちています。日本より世界の方が急ピッチで男女格差を縮めたからです。男女格差を少なくした先進国は出生率が回復し、経済成長を維持しています。男女格差が大きく、労働時間が長い日本は出生率が落ち、生産性や経済の低迷が続きます。経済成長は人口構成に深く関わっているからです。

ジェンダー・ギャップ指数は(1)経済的平等(2)教育機会(3)健康医療の機会(4)政治参加の4項目について男女格差を指数化したもので、日本は109位のエチオピアや110位のネパールを下回りました。唯一の救いは韓国が116位で日本より順位が低いことぐらいで、日本より男女格差が開いているのは中東・アフリカ諸国という状況です。

男女平等世界一を2009年から8年連続で達成したアイスランドは人口33万人、北極圏に接する世界最北の小さな島国です。なぜ、日本の男女平等は進まないのか、アイスランドと比較しながら考察してみましょう。

同

(1)経済的平等

労働参加の男女平等10位(日本は79位)

賃金の男女平等11位(58位)

所得の男女平等23位(100位)

女性の昇進29位(113位)

専門職・技術職1位(101位)

アイスランドの経済的平等は日本に比べてかなり進んでいることが分かります。

(2)教育機会

識字率の男女平等1位(日本は1位)

初等教育1位(1位)

中等教育1位(1位)

高等教育1位(103位)

日本は女性の大学進学率がまだまだ低いことがうかがえます。教育格差が賃金格差を広げています。

(3)健康医療の機会

赤ん坊の男女比1位(日本は95位)

平均寿命117位(1位)

男女平等が進むアイスランドでは女性のストレスが増えるのか、女性の平均寿命は男性より長いものの少し短くなっていることがうかがえます。

(4)政治参加

国会議員の女性比率12位(日本は122位)

閣僚の女性比率9位(50位)

女性国家元首の在位期間4位(68位)

日本では皇室典範第1条で「皇位は、皇統に属する男系の男子が、これを継承する」と定められており、女性天皇は禁止されています。ウーマノミクスを唱える安倍首相は女性閣僚の登用を進めていますが、国会での女性議員の比率で見るとまだまだです。

アイスランドの女性独立記念日

アイスランドで男女平等が大きく進むきっかけになったのは1975年10月24日に行われた抗議活動です。女性人口の20%に当たる2万5千人が首都レイキャビックに集結する一方で、教師や看護婦、オフィスワーカー、主婦の90%が仕事や家事、育児を放棄しました。男女平等を求めるストライキです。

この運動がきっかけとなり、5年後、世界で初めての民選女性元首、ヴィグディス・フィンボガドゥティル大統領が誕生します。彼女は現在、ユネスコの親善大使を務めています。

2000年には育児休業制度が導入され、現在では、父親も母親もそれぞれ3カ月、その後、どちらかが3カ月の育児休業を取得できます。日本円にして月約29万2千円を上限に給与の80%が特別な基金から支給されます。

取得しないと権利がなくなってしまう(パパ・クオーター制度)ため、父親の9割が育児休業を取得するようになったそうです。日本の育児休業取得率はまだ2.03%で、この数字だけでも日本の男女格差の実態が浮き彫りになっています。

世界銀行によると、2014年の合計特殊出生率はアイスランド1.93、日本1.42です。出産・育児をサポートすれば出生率は改善していきます。

日本もアイスランドと同じ島国です。人口を維持しながら経済成長を実現するためには、出産・育児・家事の負担を男女で分担して女性の社会参加を支える政策が不可欠です。

日本の場合、まだ移民に大きく門戸を開くという空気ではないため、生産年齢人口を含め人口構成を少しずつでも改善していかないと、経済も財政も行き詰まってしまいます。

2:38pmストライキ

男女平等世界一のアイスランドで賃金格差の是正を求めるストライキが行われました。女性の賃金は男性より14~18%も少ないため、平均すると午後2時38分以降はただ働きになっているとして職場を放棄しました。

ストライキが始まる時間は05年の午後2時8分、08年の午後2時25分と次第に遅くなってきています。それでもこのペースのままでは賃金格差がなくなるのに52年はかかるそうです。WEFの報告書によると、世界で男女の経済格差がなくなるまでに170年かかると指摘しています。果たして日本はどれぐらいで男女の経済格差を埋めることができるのでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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