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民進党・蓮舫氏の「二重国籍」問題を考えてみた

木村正人在英国際ジャーナリスト
民進党代表選を争う蓮舫氏(右)(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

民進党代表選挙に立候補している蓮舫代表代行に、日本国籍と台湾籍の「二重国籍」問題が浮上しています。日本では建前上「国籍唯一の原則」を掲げていますが、外国籍を取得しても国籍離脱を認めない国や原国籍の放棄を求めない、また喪失しない国もあるため、国会議事録のやり取りをみると58万人ぐらいの重国籍者(2009年時点)が日本国内に存在するとも言われています。

蓮舫氏が参院選で初当選を果たしたのは04年です。「二重国籍」だから問題かと言えば、何の問題もありません。ペルーと日本の二重国籍を持ち、当時チリで自宅軟禁されていたアルベルト・フジモリ元ペルー大統領が07年の参院選に国民新党から立候補して落選したのは記憶に新しいでしょう。ペルーの大統領まで務めた人が二重国籍を使って日本で選挙に出られるのかと疑問を持たれる方がおられるかもしれませんが、日本では可能なのです。

国籍法が改正された1984年の参院法務委員会で飯田忠雄理事(公明党)が「二重国籍者に被選挙権を無制限で認めるということは政治上障害が起こらないか」と質問しています。

自治省(当時)選挙課長はこう答えています。「公職選挙法は一定年齢以上の日本国民は衆院議員または参院議員の被選挙権を有すると定めている。一方で二重国籍の者を排除するという規定もないから、二重国籍者が国会議員となることも現行法上可能だ。これまでのところ二重国籍者が選挙権を行使する、あるいは選挙によって選ばれる、公職についたことによって何らかの障害が生じたという事例は承知していない」

飯田理事の追及は続きます。「例えば総理大臣が二重国籍者、例えばソビエトと日本と両方の国籍を持っているという場合に、結局強い方の国家主権に奉仕するという傾向になりがちだ。一体日本国民の利益が擁護されるかという根本問題がある。そんなばかなことは起こらぬと皆さんお考えかもしれないが、二重国籍者であるならば起こる。殊に二重国籍者に外交問題を担当させ得るかというと、これは大変疑問がある」

自治省選挙課長は次のように答弁しています。「当然二重国籍ということは今後とも起こり得る状況にある。そういう二重国籍を持った方が公職選挙法で定める一定の年齢に達し、選挙権、被選挙権を有するということはあり得る」。内閣法制局第一部長は憲法の基本原則である国民主権主義に基づいて公職選挙法は定められていると補足しています。

国籍法は「法務大臣は、選択の宣言をした日本国民で外国の国籍を失っていないものが自己の志望によりその外国の公務員の職(その国の国籍を有しない者であっても就任することができる職を除く)に就任した場合において、その就任が日本の国籍を選択した趣旨に著しく反すると認めるときは、その者に対し日本の国籍の喪失の宣告をすることができる」としています。しかし日本弁護士会が08年に法相や衆参各院の議長に提出した「国籍選択制度に関する意見書」によると、国籍喪失が宣告された例は未だ存しないそうです。

蓮舫氏は6日の記者会見で、「二重国籍」問題が指摘されていることについて、台湾籍を放棄した確認がとれていないとして、改めて手続きを取ったと話しました。蓮舫氏は67年、東京で台湾出身の父親と日本人の母親の間に生まれました。当時の旧国籍法では父方の国籍を付与する父系血統主義がとられていたため、蓮舫氏には日本国籍ではなく、台湾籍(便宜上、中国籍)が付与されました。

84年の国籍法改正で父母のどちらかが日本人であれば日本国籍を付与する父母両系血統主義に改められました。蓮舫氏の説明では17歳になった85年に日本国籍を取得し、台湾籍の放棄を宣言しています。しかし、「父と一緒に東京にある台湾の窓口に行って、台湾籍放棄の手続きをしたが、言葉がわからず、どういう作業が行われたか、全く覚えていない。改めて台湾に確認を求めている」(NHKより)そうです。

日本在住の台湾人だった蓮舫氏が日本国籍を取得したのであれば重国籍者の国籍選択というより帰化や届け出が必要になるので、原則として台湾籍の喪失や離脱が必要になります。台湾は二重国籍を認めているため、仮に台湾籍が残っていたとしても、蓮舫氏が代表になり将来、首相になっても憲法や公職選挙法上の問題は生じません。

外務省専門職員採用試験では、本人が外国で生まれたり、出生時に父親か母親が外国国籍を有していた(重国籍者を含む)りした場合は、外国国籍の有無を確認し、外国国籍を有している場合には速やかに離脱するよう促しています。

重国籍者は外務省専門職員にはなれませんが、憲法上、外相や首相になることは可能です。蓮舫氏は日本国籍を選択し、民主主義に基づいて選ばれています。蓮舫氏の父親が台湾出身だから尖閣諸島の領有権問題で判断がぶれることを懸念する人は蓮舫氏に投票しなければ良いのです。

外国籍と日本国籍を有する重国籍者は22歳に達するまでに(20歳に達してから重国籍になった場合は2年以内に)、どちらかの国籍を選択する必要があります。選択しない場合は、日本の国籍を失うこともありますが、筆者の周りにも重国籍の日本人は結構、多いです。日本人が英国籍を取得した場合、英政府から日本政府に連絡が行きますが、日本の法務省が日本国籍からの離脱を促したという話はあまり聞きません。

日本で暮らす重国籍者の数は国籍法改正翌年の85年には年間約1万人でしたが、02年には年間約3万3千人を超え、累計では約40万人に達したとみられています。08年の国籍法改正時には53万~58万人いるという指摘もありました。

重国籍者をめぐって生じる主な論点は以下の通りです(前出の日弁連意見書より)。

他国での兵役

参政権の問題

公務員への就任

国籍国が忠誠義務を課した場合

外交保護権の問題

犯罪人の引き渡し

就職の際に国籍を書く義務の範囲

筆者は蓮舫氏の台湾籍が仮に残っていたとしても二重国籍者の被選挙権は憲法で保障されていると考えます。しかし「国籍唯一の原則」が崩壊し、重国籍者が58万人に達する現状を鑑みると、外交・安全保障上、国籍とセキュリティー・クリアランス(安全証明)の基準ぐらいは明確に定めておかなければならないのではないでしょうか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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