「離脱なら大英帝国分裂、EU縮小のドミノ倒しが始まる」和製ソロスが大胆予言(上)

EU離脱派のボリス・ジョンソン前ロンドン市長(左端)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

国際金融都市ロンドンで世界経済危機、欧州債務危機の荒波を生き抜いた債券のヘッジファンドでは世界最大級の「キャプラ・インベストメント・マネジメント」共同創業者、浅井将雄さんは23日に迫った英国の欧州連合(EU)残留・離脱の国民投票をどう見ているか、気になってインタビューしました。

浅井さんは「英国のEU離脱の可能性は残っている。離脱なら近い将来スコットランドが英国から独立し、EU縮小のドミノ倒しが始まる」と言います。浅井さんから世界経済の見通しをおうかがいするようになって約8年になりますが、今回ほど浅井さんの予言が間違っていてほしいと願ったことはありません。

浅井さんは安倍晋三首相の経済政策アベノミクスについても「2026年、日本の財政は危機的状況に瀕し、グローバル企業を除いて日本企業は世界からの撤退を強いられる」と予測しています。

浅井将雄さん(右、筆者は左)
浅井将雄さん(右、筆者は左)

――6月23日のEU国民投票は残留と離脱が拮抗しています。最終盤になって残留派が優勢になったように見えるのですが

「投票が23日、開票が24日に迫ってきて、先週に起きた労働党のジョー・コックス下院議員殺害事件で残留派が勢いを取り戻した格好にはなっていますが、個人的には最終的に非常に競った形になり、離脱の可能性が強く残っているのではないかなと思っています」

――当日は、キャプラ独自に出口調査を実施されますか

「一切しません。もちろん弊社では、どういう方向性で世論調査が進んでいるのかという動向によって、それがもたらす相場の影響は分析しています」

――今回の国民投票で英国社会の分断が浮き彫りになりました

「分離しているのはもともと正しい過程で、私は民主主義が機能していると思っているので非常に肯定的です。一方、英国のキャメロン首相が3年前にEU残留・離脱の国民投票を法的な裏付けなく実施を表明してしまいました。英国独立党(UKIP)が反移民、反EUを掲げて急速に支持を拡大する中、それを抑えこむために国民投票の実施を表明したことについてはその手法・選択において懸念が残ります」

「もともと言葉も人種も違う国々がEUとして一つになる、英国は入っていませんが、単一通貨のユーロを持つというのは難しいと思うので、こういう形で再度、残留か、離脱かを問うのは非常にメリットがあるのではないかと思っています」

「社会階層の分断はありますが、それはあって当然です。ただ世論調査に答えた人たちが実際に投票権を持っているかというと持っていない人も含まれているでしょう。実際に投票権を持っている人を見るともっと拮抗してくると思います」

「離脱派で力を持っているのは保守党の一部強硬派とUKIPです。保守党と労働党という大きな基軸があったものが、保守党強硬派とUKIP、それに対して中道寄りの保守党、労働党、スコットランド民族党(SNP)に分かれているのは面白い構造だなと思っています」

「離脱派は年代的には45~50歳以上が中心。若手世代は残留派が多い。経済的メリットの恩恵が若年層にあることを認識しているのに対し、高齢者や保守層の一部は労働者も含め、英国がEUに入ったことによる直接のメリットを感じていない。移民が大きな社会不安をもたらしているのを実際に表している数字なんだと思います」

「こうなってくると最後は国民投票の実施を表明したキャメロン首相が招いた責任が問われます。離脱派のボリス・ジョンソン前ロンドン市長らは政権を獲得するためこういう賭けに出たのでしょう。離脱による最大のデメリットを知っているのはボリス・ジョンソンだと思っていますが…」

「これは英国の主権のあり方という闘いです。主権と経済のどっちを取るかということを国民投票で決めるという大きな議論です。私はこうした大きな議論がされることは意義があると思います。感情的な部分が多分にありますが、本質的に主権か経済かを議論することは民主主義にとって非常に大きなメリットだと思いますね」

――EU国民投票の大きな論点にはグローバル化と自由貿易、人の自由移動(移民)がありますね

「EUに入ったメリットは英国にとって非常に大きいと思います。関税の撤廃がもたらしたメリットは大きいし、非常に競争力のある英国の金融業は国民総生産(GDP)の1割を超えています。1割を超えるというのは非常に稀なケースで、それを可能にしたのがEU統合です」

「欧州の金融センターとして英国が海外マネーを引き入れたり、英国で営業免許を取ればEU域内ならどこでも営業できるというパスポートが取れたりします。非常にドラスティックな規制緩和をEU全体で行ったことが英国にとっては金融セクターの集積という意味で非常に大きなメリットがあります」

「EU域内でビジネスを展開しているEU域外企業にとっても英国に本社を置いていたところには非常にメリットがあります。そうした企業が出て行くというのは英国にとってデメリットは非常に大きいと思います」

「グローバル経済という側面から見ると、グローバル企業にとっては事業の継続にはEU市場の自由なアクセスは不可欠です。英国の場合、EU域内でも法人税が低く、ビジネス環境が整っています。EU全体から優秀な人材を集めやすかったというメリットが明らかにあります」

――離脱になった場合のショックをどう見ていますか

「為替では、あと15%ぐらい対ドルで英通貨ポンドは下がるでしょう。円の場合はもう少しあるかもわかりません。ポンド安が進みます。世界的にはこれを機に一部株安が進む可能性があると思います。一時的な英国経済へのインパクトというのはGDPの前年対比で1%から2%を切るぐらいのショックがあります。私のところでは1%台半ばぐらいのショックが向こう1年間ぐらいであると見ています」

「しかしそのショックは吸収可能だと思っています。単年度の為替の動きやGDPの減少のほか、もう少し大きな意味で困るのは英国の税収が4兆円ぐらい減ってしまうので、それに対して何らかの手当をしないといけない目先の可能性が高くなり、債券相場に与える影響は無視できないと思います」

「信用市場、為替市場、株式市場というリスクアセットにはリスクオフがかかりやすい可能性が高い。しかし、このぐらいであれば離脱ということになっても吸収可能で、それ以外にメリットもあります。まずEUへの拠出金がなくなる。EUから離脱することで英国議会は自分たちで法律を決められる」

「さらに将来的に金融取引税など多くの規制から英国シティーは守られるかもしれないという別の意味の金融セクターの成長ということが期待できます。英国は入っているわけではありませんが、EU域内を自由に行き来できるシェンゲン協定の規制、少なくとも国境管理というのは非常にガードが下がっているので、それを厳格にできるようになります」

「もっともデメリットはやはりEUで一まとめにしていた貿易協定の交渉が今後、自由貿易協定(FTA)に移らなければならなくなり、ノルウェーやスイスのように2国間でEUと貿易協定を結ぶことになります。2013年の EU による域外国に対する最恵国待遇下の貿易加重平均税率は2.3%でした。これが貿易にコストとして加わるインパクトは無視できないと思います」

――欧州における英国の金融センターとしての地位が下がり、フランクフルトやパリに移る可能性があると指摘する人もいます

「現在は英国の営業免許でEUのどこででも営業できるというメリットはあります。が、英国のもう一つの魅力は低い法人税と安定したビジネス環境です。それが今の段階で毀損するとは思っていません。英国にとっては将来的にEUを離れた時に目先そういう動きがあるかもしれませんが、おそらく抜本的に規制を改革できる国です」

「国際金融街シティーの優位性を失いたくないので、金融取引にまつわる諸々のコストを大きく緩和してくる一方で、EUは締め付けて他国から奪い取らなければならないので規制が多くなってくるでしょう。それが順当なものであれば良いのですが、おそらくEUが出してくるものはかなり厳しい規制になると思います」

「そうなると金融というのは自由度を求めて資金は動いていくので、なかなか欧州の金融機関、第三国の金融機関が英国から離れていくというのは考えにくいと思います」

――離脱の可能性が残っていると考えられる根拠は何でしょうか

「先程言った主権か、経済かと考えた時に本当に国を維持するのは主権ではないかと私は思っています。知識人や高学歴の人たちは残留派と言われていますが、最終的にこういう人たちは離脱派に変わる可能性があると思っています。離脱のメリットは主権にとっては非常に大きいと思います」

「国家の主権が経済を上回る可能性は十分にあるのではないかとみています。決して感情的に決められているわけではありません。労働者層や知識のない人たちが離脱を望んでいるというのは世論調査だけの話で、実際に真摯に主権か経済かと考えた場合、EU残留が絶対に正しい答えだとは思いません。国のあり方だと思います」

――安全保障や外交面で考えると、英国のEU離脱はかなり大きな影響があると思います

「残留派のキャメロン首相は、北大西洋条約機構(NATO)以外でもEUを離脱すればテロ防止のための情報共有がなくなったり、国防費が増加して財政赤字が膨らんだりするような話をしています。米国は貿易上、英国はEUに残留した方が良いと言っていますが、離脱すればNATOを通じて英国をさらに抱き込みやすくなるというメリットがあります。軍事となるとEUよりNATOの方がロシアや過激派組織ISへの影響力が強くなります」

(つづく)

アベノミクス「2026年、日本の財政と経済は危機的状況に」和製ソロスが大胆予言(下)

浅井将雄(あさい・まさお)

旧UFJ銀行出身。2003年、ロンドンに赴任、UFJ銀行現法で戦略トレーディング部長を経て、04年、東京三菱銀行とUFJ銀行が合併した際、同僚の中国系米国人ヤン・フー氏とともに14人を引き連れて独立。05年10月から「キャプラ・インベストメント・マネジメント」の運用を始める。米マサチューセッツ工科大やコロンビア大教授ら多くの博士号取得者が働く。ニューヨーク、東京、香港にも拠点を置く。日本子会社の取締役には「ミスター円」の愛称で知られる元財務官の榊原英資(さかきばら・えいすけ)氏、ノーベル経済学賞受賞者のマイケル・スペンス氏もアドバイザーの1人だ。債券系ヘッジファンドではロンドン最大級、ヘッジファンド預り資産でもロンドントップ5。旗艦ファンドのキャプラグローバルリラティヴバリューファンドでは運用開始以来、リーマンショック期も含め、全年度にてプラスを計上、平均年度収益も10%を超える。