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日経1万6千円割れ 英国のEU離脱に拍車がかかってきた 日本を襲う円高・株安ショック

木村正人在英国際ジャーナリスト
日経平均、大幅続落(写真:ロイター/アフロ)

英中銀は流動性供給の臨時オペ

6月23日に迫る英国の欧州連合(EU)国民投票がいよいよ離脱に傾いてきました。これを受けて英通貨ポンド売りに拍車がかかり、安全資産の円買いが進んで円高・株安になっています。

出所:各種世論調査をもとに筆者作成
出所:各種世論調査をもとに筆者作成

世論調査を折れ線グラフにしてみました。直近6回では、離脱派の5勝1敗です。これを平均すると離脱派が47.5%と残留派(43.2%)を4.3ポイントも引き離しています。大変な状況になってきました。

出所:Yahoo!FINANCE
出所:Yahoo!FINANCE

Yahoo!FINANCEでポンド円相場をみると、昨年6月には1ポンド=195.7円だったのが、中国経済の減速に加えて英国のEU離脱問題で今や150.7円です。23%強もポンドは対円で減価しています。

英財務省は5月にEU離脱のショックシナリオとして12%のポンド下落、最悪シナリオで15%の下落を予想しています。英中央銀行、イングランド銀行は23日のEU離脱ショックに備えて14日から市場に流動性を供給する臨時オペを開始します。

出所:Yahoo!ファイナンス
出所:Yahoo!ファイナンス

ポンドが売られれば円や日本国債が買われます。円高になると日本経済がデフレに逆戻りするリスクがあるため、日経平均株価が下がります。日経平均株価は昨年8月の2万724円から1万5820円にまで急落しています。

先の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)で「英国のEUからの離脱は、より大きな国際貿易及び投資に向けた傾向並びにこれらが生み出す雇用を反転することになり、成長に向けたさらなる深刻なリスクである」と確認したばかり。

議長国を務めた安倍晋三首相も「しっかりしてよ。キャメロン首相」とほぞをかんでいることでしょう。

逆バネ効果に期待

出所:各種世論調査をもとに筆者作成
出所:各種世論調査をもとに筆者作成

カナダからケベック州の独立を問う1995年のケベック独立住民投票でも、投票日直前まで世論調査で独立派が残留派をリードしていましたが、住民投票は独立49.42%、残留50.58%の僅差で残留派が逆転勝ちを収めています。

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記憶に新しい2014年のスコットランド独立住民投票でも一時、独立派が残留派をリードしましたが、最終的に残留派が独立派を引き離します。現状を変更すると不確実性が増すため、住民投票や国民投票の最終局面では現状維持の逆バネ現象が起きます。

二分する英国社会

世論調査の動向を調査するサイト「UK Thinks EU(英国はEUをどう思っているか)」を運営するジョン・カーティス英ストラスクライド大教授によると、世代、学歴、社会階級、また争点によって残留、離脱の意見は完全に二分しています。残留派は65歳以上で40%、18~24歳では73%。大学以上の修了資格を持つグループで残留71%、義務教育修了レベルだと離脱67%といった具合です。

キャメロン首相を先頭に残留派は「恐怖プロジェクト(Project Fear)」と呼ばれる戦術を取り、EU離脱によっていかに英国民が不利益を被るのかを強調してきました。英財務省は「英国の家庭は年4300ポンド(約64万5千円)の減収。15年後の国内総生産(GDP)への影響は-7.5~-3.8%」と警鐘を鳴らしました。

しかし一向に効き目がありません。人、モノ、資本、サービスの自由移動を認めるEUの枠組みの中では、景気が他のEU加盟国に比べて良くなると移民がどんどん流入してくるからです。

最大の争点は移民問題

出所:カーティス教授の調査データをもとに筆者作成
出所:カーティス教授の調査データをもとに筆者作成

カーティス教授の調査では、EUから離脱すれば流入をコントロールできると答えたのは57%、残留したままでも対処できるとの回答(4%)を大幅に上回っています。

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キャメロン首相は毎年の移民増(ネット)を10万人に抑えることを公約に掲げていますが、昨年は3倍以上の33万3千人を数えました。1991年から2015年にかけ、英国にやって来た移民は差し引きして計431万2千人とみられています。

ポーランドやバルト三国など10カ国が一気に加盟した04年のEU拡大によってEUからの移民流入が激増したことが、今回のEU離脱問題の背景にあります。残留派はEU離脱による経済的な悪影響を並べるだけでなく、移民の流入数をどのようにコントロールしていくか、現実的な議論に入る必要に迫られています。

残留派が「恐怖プロジェクト」だけでなく、移民問題と真正面から向き合わない限り、23日の投票結果は「離脱」になる可能性が強いと筆者はみています。

(おわり)

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在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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