日本一小さな酒蔵の「幻の酒」がロンドン上陸 「世界一小さな挑戦者」が語る大きな夢

「杉原酒造」5代目、杉原慶樹さん(筆者撮影)

ロンドンのワインバーで7日、ソムリエや日本酒愛好家向けの試飲会「SAKE@UK」が開かれました。昨年9月のエントリー「『日本一小さな酒蔵』が世界に挑戦」で紹介した「杉原酒造」(岐阜県)5代目、杉原慶樹(よしき)さん(41)が訪英したので、インタビューしてきました。

ロンドンで開かれた日本酒の試飲会(筆者撮影)
ロンドンで開かれた日本酒の試飲会(筆者撮影)

杉原酒造は明治25年の創業。最盛期には年間2千石(1升瓶換算で20万本)を生産しましたが、25石程度にまで縮小。杉原さんは大学卒業後、青年海外協力隊員としてミクロネシアで3年余り過ごし、いったんは鹿児島県の水産会社に就職します。

ミクロネシアは第一次大戦後、日本の委託統治領となり、5万人の地元住民に対し日本の移住者は8万5千人に膨らんで産業がみるみる発達しました。ついには輸出が輸入を上回り、念願の財政独立を果たします。太平洋戦争で米国の信託統治地域になりますが、反日感情は残っていません。(日本・PIF未来創造高校生交流事業「ミクロネシアの歴史」より)

杉原さんは「ミクロネシアの人々には日本人以上に日本人の考え方が浸透していました。日本人は統治時代、ミクロネシアのためにサトウキビ工場などを建てたそうです。実家の酒蔵の話になった時、どうして日本の伝統を守らないんだと諭され、日本酒造りの大切さに気付かされました。酒蔵を残そうと決心しました」と言います。

10年前、実家に戻った杉原さんが目指したのは「地元産米を使った地酒造り」です。品種改良の研究者、栽培農家と協力して、米粒が大きい酒造好適米の代表「山田錦」と、背が低くて倒れにくい大粒品種「若水」を人工交配して、新品種「揖斐の誉」を生み出します。

米栽培も酒造りも、地元を流れる揖斐川の伏流水を使います。「揖斐の誉」の「誉」は、青年海外協力隊で知り合った妻、佳誉さん(47)の名前から取りました。出来上がった特別純米酒「射美」は優しい甘みとやわらかな酸味で人気を集め、なかなか手に入らない「幻の日本酒」になります。

年老いた父親も次第に無理がきかなくなり、杉原さん1人では生産を大きく増やすことができません。今までのところ30石(1升瓶換算で3千本)から60石(6千本)に、今は80石(8千本)に生産を拡大するのが精一杯です。「日本一小さな酒蔵」を自称しています。

昨秋、ロンドンで開催された「スペシャリティー&ファイン・フード・フェア2015」に日本の蔵元や清酒メーカー28社の日本酒が出展されました。杉原酒造の「射美」はソムリエや日本酒愛好家、仲介業者だけでなく、普通の人にも受けました。

これがきっかけとなり、英国やフランスから約30人が岐阜県の酒蔵を訪れました。「射美」はロンドンに出荷されることになり、このほど4合瓶(720ミリリットル)で60ケース計720本が届きました。海外に出荷するのは今回が初めてです。

仕入れた「Japan at UK」の高田晃充さんは「射美はクオリティーが高い上、香りもあり、特徴が出ていました。『日本一小さな酒蔵』『地元産米を使った地酒造り』というストーリー性もあるのでソムリエの関心を集めやすく、海外でも売りやすいと思いました」と話しています。

杉原さんは海外進出に際し、「白麹(こうじ)」を使いました。白麹をかむとレモンのような酸味が口の中に広がります。白麹にはクエン酸(柑橘類・梅などの酸)が含まれているためです。日本酒造りでは米粒の外側60~65%を削って中心部の白色不透明な「心白」を使いますが、削るのを40%程度にとどめ雑味を残しました。

「もともと素人なので、人の意見を聞いて新しい発想を取り入れる柔軟性が私にはあります。日本も食生活がだんだん変わってきています。こちらの料理にも合うように工夫して、海外向けに『ホワイト・イビ』や『グリーン・イビ』を作ってみました。世界一小さな挑戦者のつもりでやっています」と杉原さんは言います。

ウイスキーバーで働くダニエル・パビーさん(29)は「業界の中で日本酒への興味が深まってきています。高級レストランやバーで売れる可能性が出てきています。ホワイト・イビはあっさりしていて口当たりが良く、グリーン・イビは非常に濃厚です」と目を輝かせました。

(おわり)