明らかになった「プーチン・サークル」の錬金術 「パナマ文書」で

錬金術の一端が明るみに出たプーチン大統領(写真:ロイター/アフロ)

1150万文書「パナマ・ペーパーズ」の衝撃

オフショア企業の合併や資産を管理するパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が取り扱うオフショア企業20万社以上の1150万文書が昨年、ドイツの南ドイツ新聞に流出しました。その後、米ワシントンの「国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)」にも文書が送られ、分析した結果が3日、英紙ガーディアンなどで一斉に報じられました。

英国の王室属領や海外領土であるケイマン諸島、バージン諸島などのタックスヘイブン(租税回避地)を舞台に毎年、何十億ドルの資金が動いていることが分かりました。ロンドンやジュネーブの高給弁護士、公認会計士、プライベートバンクが関わっています。漏洩したのは株主名簿、銀行の取引明細書、内部文書、旅券、会社の証明書で、「パナマ文書」と呼ばれています。

こうしたオフショア取引は大金持ちが自分たちの富を守る合法的な手段として使われています。しかし普通の納税者には使えません。このため2008年の世界金融危機を境に、富裕層だけが抜け道を利用できるのは非道徳的だという批判が高まりました。グローバル・フィナンシャル・インテグリティー調査グループは、発展途上国から流出している違法資金は年間1兆ドルに達しており、さらに増えると指摘しています。

今回の調査報道で明らかになったのは、次のような事実です。

・ロシアの大統領プーチンの側近による資金作り

・スペイン税務当局に脱税で摘発されたサッカーのスーパースター、リオネル・メッシもオフショア会社を利用

・国際サッカー連盟(FIFA)倫理委員会の裁定部門の委員を務めるフアン・ペドロ・ダミアニ氏(ウルグアイ)と、米司法当局に起訴されたエウヘニオ・フィゲレドFIFA元副会長の取引が発覚

・アイスランド、パキスタン、ウクライナなど12カ国の政治指導者、140人以上の大物政治家と友人、親類縁者に関係する企業、北朝鮮、シリア、ロシア、ジンバブエの体制を支援して制裁の対象になっている22人がオフショア会社を利用

・1983年に2600万ポンド相当の金塊を強奪した英国の悪名高きブリンクス・マット強盗事件も「モサック・フォンセカ」と関係

プーチン・サークル

今回のパナマ文書にはプーチンの名前は直接、出てきませんが、プーチン側近などのインナーサークルがオフショア会社を使い、20億ドルの取引と融資を行っていた実態が浮き彫りになってきました。プーチンはロシアの国力を削いでいるとしてオフショア取引を批判していますが、その裏では側近に庇護を与え、十分な担保を取らない融資などを通じて資金を循環させている疑いが浮上しています。

最初のキーマンはプーチンに最も近い親友で音楽家のセルゲイ・ロルドゥギンです。ロルドゥギンはプーチンにリュドミラ(その後、結婚して離婚)を紹介し、娘マリアの名付け親にもなっています。ロルドゥギンは少なくとも1億ドルの資産を持っています。

年間収入が8億ドル以上のロシア最大のTV広告代理店「ビデオ・インターナショナル」株の12.5%をロルドゥギンは保有しています。「ビデオ・インターナショナル」の株は誰が保有しているのか秘密に覆われていました。このほか軍用トラックメーカーの株や、キプロスで登記された会社の15%、プーチンの「とりまき銀行」と呼ばれるサンクトペテルブルクのロシア銀行株の3.2%を保有しています。米国のオバマ政権は2014年のウクライナ・クリミア併合を受け、ロシア銀行を制裁対象に加えています。

第二のキーマンは銀行家ユーリ・コバルチュークです。彼はプーチンを含む多くのロシア政府高官の資産管理を行っているとみられています。コバルチュークと彼が代表取締役議長を務めるロシア銀行は少なくとも10億ドルを海外送金しています。プーチンをめぐるサークルはこんな感じです。

出典:ガーディアン紙を元に筆者作成
出典:ガーディアン紙を元に筆者作成

プーチン

ロルドゥギンとコバルチュークら側近

ロシア銀行

スイスの弁護士

パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」

キプロスのロシア商業銀行

バージン諸島のオフショア会社「サンダルウッド・コンチネンタル」

オフショア会社オゾン

レニングラードのスキーリゾート・イゴラ

このサークルの中で、キプロスのロシア商業銀行が通常では考えられない、担保なし、金利1%で融資を行っています。こうした資金はロシア国内に還流して高金利で貸し出され、利益はスイスの秘密口座に送られています。融資の返済が実行されたか否かははっきりしません。10~11年にバージン諸島のオフショア会社「サンダルウッド・コンチネンタル」は3回にわたって計1130万ドルを、コバルチュークとキプロスの会社が保有するオフショア会社オゾンに融資しています。

オゾン社はロシア・レニングラードのプライベート・スキー・リゾート「イゴラ」を保有していますが、融資1年半後の13年、娘のカテリーナがここでサンクトペテルブルク時代のプーチンの旧友の息子と結婚式を挙げています。

11年にロルドゥギンの会社が2億ドルの融資の権利をたった1ドルで買うなど、明らかに不正が疑われる取引も含まれています。07年の報道ではプーチンの資産は少なくとも400億ドルと見積もられています。プーチンの側近たちが天然ガスや石油の利権を支配し、ロシアの富を独占しています。

サンダルウッド・コンチネンタル社の活動が移された会社はプーチンの側近だった元情報通信相ミハイル・レーシンに関係していました。レーシンはロシアのプロパガンダTV、RT(旧ロシア・トゥデイ)に出資していますが、昨年11月、ワシントンのホテルで遺体となって発見されました。鈍器で頭を殴られたのが死因でした。

このほかプーチンと30年来の友人の石油商もオフショア会社を使っていました。

アイスランドの首相も

アイスランドの首相グンロイグソン(41)は07年にバージン諸島トルトラ島にある会社の持ち分を50%保有していました。超リッチなパートナーで後の妻アンナが残り50%を保有していましたが、09年末にグンロイグソンは自分の持ち分をたった1ドルでアンナに譲渡しました。

グンロイグソンは09年1月に進歩党党首に選ばれました。13年5月には首相に就任しましたが、これまで会社の持ち分について議会に報告したことはありません。野党は解散・総選挙を求める動議について今週、協議する方針で、前首相シグルザルドッティル(73)はガーディアン紙の取材に対して首相の辞任を要求しています。

グンロイグソンの妻のオフショア会社はアイスランドの銀行3行の債券(5億クローナ以上)を保有していましたが、世界金融危機で資金をほとんど回収できませんでした。グンロイグソンは海外の債権者に厳しい姿勢を示しており、妻のオフショア会社も例外扱いせず、厳しく対応したと弁明しています。

アイスランド税務当局は内部告発者に情報提供料を渡して「モサック・フォンセカ」ルクセンブルク事務所の内部資料を入手し、アイスランドの富裕層約400人について調査を進めています。

進歩党と連立を組む独立党の財務相ベネディクトソンの名前も「パナマ文書」の中に含まれています。ベネディクトソンは会社の持ち分の3分の1を保有、ドバイで不動産を購入しようとしましたが、上手く行きませんでした。

オフショアの伏魔殿

13年6月、北アイルランドで開かれたG8ロックアーン・サミットで英首相キャメロンは脱税や度の過ぎた租税回避と闘うことを表明、誰がどの会社を所有しているかを明らかにすると宣言しました。今年5月には反腐敗サミットを開催することを計画、タックスヘイブン対策についても協議する見通しです。

米大統領オバマも会社は誰が大株主なのかを把握し、税務当局や議員が容易にこうした情報を入手できるようにすべきだと主張しています。

(おわり)