現金が消滅する 日本もマイナス金利とキャッシュレス化に挟み撃ちされる?

マイナス金利を拡大した欧州中央銀行(ECB)(写真:ロイター/アフロ)

欧州中銀がマイナス金利を拡大

単一通貨ユーロ圏の中央銀行である欧州中央銀行(ECB)が16日から、民間銀行が余剰資金をECBに預ける際の金利をマイナス0.3%からマイナス0.4%に引き下げるとともに、政策金利も過去最低の0.05%からゼロ%に引き下げることを決めました。

量的緩和については月600億ユーロ(約7兆5千億円)の国債購入枠を4月から800億ユーロに増やし、ユーロ圏に拠点を置く金融機関以外の企業が発行する投資適格級のユーロ建て債券も買い入れるそうです。

ECBのスタッフによる3月の経済見通しは、今年のユーロ圏成長率が1.4%、来年1.7%、2018年1.8%。消費者物価指数(HICP)が今年0.1%、来年1.3%、18年1.6%でECBのインフレ目安(2%を若干下回る程度)に近づく見通しだそうです。

しかし足元では、原油安や新興国経済の減速で2月のユーロ圏のHICP(速報値)は前年同期に比べマイナス0.2%と5カ月ぶりにマイナスに転落し、デフレ懸念が再び出てきたことや、おそらく日銀の「マイナス金利付き量的・質的緩和」も意識してマイナス金利を拡大しました。

ユーロ圏は借金を罪悪視するドイツの主導で各国はデフレ政策である財政再建と経済改革を進め、ECBは逆にデフレ回避のため金融緩和策をどんどん広げてきました。

経済の「体温」である物価が下がり続けてデフレになると、消費や投資を控えて貯金する人が増えます。そうなると日本の「失われた20年」のように長期停滞に陥ってしまうので、ECBのドラギ総裁は14年6月、中銀に預けられた民間銀行の資金が貸し出しに回るよう中銀預金金利をマイナスにする奇襲作戦に打って出ました。

ユーロ相場は対ドルで下落し、一時、国内貸出や対外資産が増えましたが、その後、落ち込むなどマイナス金利の緩和効果は思ったほど浸透しませんでした。成長率やインフレ率が下振れしたため、マイナス金利をさらに引き下げざるを得なくなったと言った方が的確です。

「タンス預金」

ユーロ圏では家計や企業向けの預金金利や貸出金利は緩やかに低下しているものの、まだマイナスには転じていません。家計や企業向けの預金金利がマイナスになると、民間銀行に資金を預けるより、預金を引き出して「タンス預金」にするケースが増える恐れがあります。

金融緩和効果を狙ってマイナス金利を導入したのに、逆に金回りが悪くなって消費や投資がさらに冷え込んでしまうかもしれません。マイナス金利の副作用について、英国中銀・イングランド銀行の首席エコノミスト、アンディ・ホールデイン氏は昨年9月にこんな見解を示しています。

「マイナス金利が導入されたあと、銀行預金の利子をとられるのを回避するため現金で保有する(タンス預金)問題に対する興味深い解決策は、紙幣の現金を廃止して電子通貨にすることです。そうすれば問題が緩和され、マイナス金利の効果は容易に速く出るようになるでしょう」

マイナス金利と電子通貨の導入で預金者を挟み撃ちして、タンス預金をできなくして、消費するか、投資するしか選択肢がないようにすれば、マイナス金利を引き下げると確実に景気浮揚効果があるという急進的な考え方です。

安倍政権は仮想通貨取引の透明性を向上させる法規制案を閣議決定し、仮想通貨は「貨幣の機能」を持つ公的な決済手段と位置づけたばかりです。金融とIT(情報技術)を融合させるフィンテックに向けた環境整備だと思いますが、将来のマイナス金利拡大に備え、「タンス預金」の出口を塞ぐ布石と見るのは勘ぐり過ぎでしょうか。

現金が消滅するスウェーデン

英国でもほとんどクレジットカードやデビットカードで支払えるので、現金を使う機会がめっきり減りました。英国よりもっとキャッシュレス化が進むスウェーデンでもマイナス金利が導入されています。

スウェーデンの民間銀行は地方の現金自動預払機(ATM)から現金を取り除き始めたため、お年寄りや農業従事者は困っているそうです。「現金で支払わなければならないのは何かが間違っている」という空気が広がっています。

スウェーデンの預金者は銀行から預金を引き出して、お金を隠そうにも隠す場所が次第になくなっています。現金が完全に消滅する前に現金を手元に残しておこうと、国民は残り少ない現金を電子レンジの中に隠し始めたという漫画のような話がまことしやかに語られています。「タンス預金」ならぬ「電子レンジ預金」ですね。

(おわり)