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北朝鮮「ナゾの銀色球体」ただの模型、それとも水爆トリガー

木村正人在英国際ジャーナリスト
「小型化した核弾頭」を公開した金正恩第1書記(写真:ロイター/アフロ)

北朝鮮の朝鮮労働党機関紙「労働新聞」9日付が写真を掲載した「核弾頭」とみられる「銀色球体」がさまざまな憶測を呼んでいます。北朝鮮は弾道ミサイルに搭載できる核弾頭の小型化を実現したという主張を改めて繰り返し、移動式の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「KN-08」とみられる写真も掲載しました。

「小型化した核弾頭」の写真を掲載した労働新聞
「小型化した核弾頭」の写真を掲載した労働新聞

北朝鮮の「小型化した核弾頭」が公開されるのは初めてのことです。金正恩第1書記の主な目的は7日から始まった米韓軍事演習をけん制し、国内に自らの威厳を示すためでしょう。しかし、不気味な輝きを発する「銀色球体」の正体はいったい何なのでしょう。写真の中で顧問団と核研究者に囲まれた金正恩は神妙な顔つきを見せています。

国際軍事情報会社IHSジェーンズで北朝鮮の核問題をウォッチしている上級アナリスト、カール・デューイ氏は次のように分析しています。

「核弾頭の小型化を実現したという北朝鮮の主張はおそらく小型化と小型化された水素爆弾という2つの部分に分けられます。『小型化』という言葉はミサイルに搭載できるほど十分小さくしたということを意味します。写真は確かにKN-08に搭載できる何かを作ったことを示唆しています。北朝鮮はあからさまなニセ情報とともに実物大の模型を公開してきた歴史がありますが、銀色球体はシンプルなインプロージョン(爆縮)型核兵器か『ブースト型核分裂兵器』である可能性もあります」

「ブースト型核分裂兵器はシンプルな核兵器と同じ第一段階だけの構造ですが、水素の同位体を付け加えています。装置が爆発したとき、こうした水素の同位体は融合するように設計され、爆発をブーストさせて兵器としてより効果のあるものにするため中性子を発生させるように設計されています。銀色球体がブースト型核分裂兵器である可能性はありますが、それを水素爆弾と呼んでいるのかは確認されていません」

「写真に写っている銀色球体が水素爆弾のようには見えません。水素爆弾は多段階の装置で、第1段階と第2段階を組み合わせることが必要で、結果的により楕円形のような構造になります。テーブルの上に置かれた装置は核融合反応装置ではなさそうです」

韓国統一省報道官は9日の記者会見で、「最初の核実験から10年が経過しており、一定の小型化の技術は確保しているのではないか」との見方を示しました。北朝鮮は長距離弾道ミサイルに搭載可能な技術レベルにはまだ達していないとの見方が一般的ですが、ビル・ゴートニー米北方軍司令官は昨年4月、北朝鮮はKN-08に核弾頭を搭載して米国に到達させる能力を獲得したとの見方を示しています。

オンラインマガジン「ザ・ディプロマット」のアンキット・パンダ氏は「北朝鮮はついに核装置を小型化したのか」という記事の中で、写真だけでははっきりしたことは言えないと断りつつ、IHSジェーンズのデューイ氏と同じく典型的なインプロージョン型核兵器、すなわち最も共通した核兵器のデザインに似ていると分析しています。

インプロージョン型核兵器の設計図(ウィスコンシン・プロジェクトHP)
インプロージョン型核兵器の設計図(ウィスコンシン・プロジェクトHP)

公開された写真の中に写っているぼんやりした図面は、テラー・ウラム型(水素爆弾)の設計図であることを示唆していると指摘しています。核不拡散研究ジェームズ・マーチン・センターの北朝鮮ウォッチャー、メリッサ・ハンハム氏はディプロマット誌にこう述べています。

テラー・ウラム型の構造(Wikipedia)
テラー・ウラム型の構造(Wikipedia)

「労働新聞の銀色球体がインプロージョン型装置なのか、実際に核融合装置の第一段階(Primaryの球体、トリガー)なのかはっきりしません」「事態は非常に深刻に見えます。我々にとって断定するのは非常に難しく、彼らにとってはミサイルに乗せて発射するテストを実施していないことから能力を示すのが非常に難しいからです」

北朝鮮と日米韓の駆け引きは、肝心の北朝鮮の核・ミサイル能力がグレーなままエスカレートし、双方の計算違いを引き起こす恐れがあります。IHSカントリーリスクのアジア分析部長、オマール・ハミド氏は次のように朝鮮半島情勢を分析しています。

「北朝鮮は自らの主張する核抑止力が軍事衝突で韓国と米国への政治圧力をかけるために通常兵器を使う自由度を広げていると計算している可能性が強いとみられます。朝鮮半島の非武装地帯(DMZ)や事実上の領海の北方限界線 (NLL)で通常兵器を使った軍事衝突が怒るリスクは今や高くなっています」

「中国が今回は北朝鮮への制裁実施を前向きに強化する兆候がいくつかあります。ここ2~3週間、北朝鮮の行動に対する中国の非難がより厳しくなっています。中国が新しい制裁を完全に実行する可能性は少ないものの、おそらく国連決議を順守していることを示すため、過去の制裁を実施に移すでしょう」

北朝鮮の核・ミサイルは米国にとってはともかく、同盟国の日本や韓国にとっては現実の脅威になっています。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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