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激しさを増す世界ビール戦争 アサヒやキリンはどこまで食い込めるか

木村正人在英国際ジャーナリスト
激化する世界ビール戦争(写真:ロイター/アフロ)

アサヒグループホールディングスが英ビール大手SABミラーの欧州ビール事業のうち、イタリアの「ペローニ」とオランダの「グロルシュ」の買収を提案すると日経新聞などのメディアが一斉に報じています。買収額は4千億円規模になる可能性もあるそうです。

筆者作成
筆者作成

世界最大手のアンハイザー・ブッシュ・インベブ(ABインベブ、ベルギー)は世界2位のSABミラーを買収しました。上の円グラフを見ると分かるように2社の世界シェアは3割を超えています。米国や欧州連合(EU)の独占禁止法に引っ掛かるのを避けるため、前々から伊ペローニと蘭グロルシュを売却する方針を示していました。

世界のビール業界はベルギーのABインベブ、英国のSABミラー、オランダのハイネケン、デンマークのカールスバーグと欧州のビッグ4が市場の5割近くを支配してきました。利益に注目すると業界全体の74%を占めています。

世界最大手のABインベブによる業界2位SABミラーの買収で世界ビール戦争が一段と激しさを増すのは避けられません。ビールののど越し、味で競うというより、スケール(規模)の取り合いになっています。

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日本のアサヒが買収提案する「ペローニ」と「グロルシュ」2社の生産量は2014年で600万ヘクトリットル(1ヘクトリットル=100リットル)。SABミラーの生産量の2.5%、ABインベブとSABミラーを合わせた生産量のわずか1%に過ぎません。

データサイト「The Statistics Portal」によると、2014年の世界のビール生産量は19億6千ヘクトリットル。「ペローニ」と「グロルシュ」2社の生産量で見たシェアは世界全体のわずか0.3%です。来週からSABミラーが実施する入札には欧米のメーカーやファンドも触手を動かしており、買収額が膨らむ恐れもあるそうです。

出典:酒のしおり
出典:酒のしおり

昨年3月に国税庁から発表された「酒のしおり」によると、少子高齢化が進む日本では酒類の消費量が減っています。1人当たりの消費量も減り、しかもリキュールなどに押されて、ビールの消費量は大きく落ちています。

日本のビールメーカは海外に活路を見出さなければならない状況に追い込まれています。がしかし、世界シェアでは華潤創業や青島ビール、燕京ビールといった中国勢にも先を越されています。「ペローニ」と「グロルシュ」も世界的にも名の通ったブランドです。世界シェアは0.3%とはいえ、アサヒが買収に成功すれば海外の販路を広げることができます。

日本企業による海外でのM&A(企業の買収・合併)が加速しています。入札で高値つかみしたり、後で隠れていた債務や法的な問題が発覚したりすることも多く、成功率は半々とも言われています。日本の国内市場の成長が見込めない現状では、企業は外に出て行かざるを得ません。グローバル市場のスケールを先に奪われると、後から挽回するのは至難の業だからです。

金融バブル崩壊後の「失われた20年」、日本は首や手足を引っ込めたカメのようになってグローバル化に完全に出遅れてしまいました。世界はまだまだ人口も増え、成長していきます。グローバルスタンダードに日本企業が対応していく難しさはありますが、世界でもサッパリした日本のビールが売れるといいなと思います。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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