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「波乱の欧州」は混迷のスペイン総選挙で締めくくり 新年はさらに厳しく

木村正人在英国際ジャーナリスト
スペイン総選挙で国政に進出した急進左派ポデモス(写真:ロイター/アフロ)

スペインで上下両院の総選挙が20日に行われた。

開票99.74%で下院の議席数は、与党の中道右派・国民党が123議席(得票率28.7%)、最大野党の穏健左派・社会労働党が90議席(同22%)にとどまり、反緊縮の急進左派新党「ポデモス(私たちには可能だ)」が69議席(同20.7%)、中道右派の新党「シウダダノス(市民)」が40議席(同13.9%)と国政進出を果たした。

スペイン総選挙、下院の議席数(筆者作成)
スペイン総選挙、下院の議席数(筆者作成)

63も議席を減らした国民党の首相ラホイは支持者に「政府を、安定した政府をつくる。わが党は依然としてナンバーワンだ」と強がったが、上の半円グラフを見ても分かるように過半数の176議席を形成する連立の組み合わせは難しい。

ラホイ政権が財政再建と構造改革を進め、名目国内総生産(GDP)の対前年同期比の成長率を今年第3四半期で3.4%まで回復させたのに議席を大幅に減らしたのは、失業率が高止まりしたままなのと、与党の腐敗が原因だ。

ラホイ自身にも不正献金疑惑が取り沙汰され、昨年5月にはスペイン北部レオン県の国民党の大物女性知事(59)が射殺される事件が起きている。容疑者は女性知事の縁故ネットワークから排除され、県の仕事を失った女性だった。若者の失業率は50%近いことから縁故政治に有権者の怒りはピークに達している。

既成政党への不信がポデモスやシウダダノスといった新党ブームを生んでいることから、既成政党と新党の連立は政治的に難しい。清新さが売り物の新党が腐敗した既成政党と手を組めば、人気は急落してしまうからだ。こうしたことから早ければ来年3月までに再選挙が行われる可能性もある。

欧州はこの1年、波乱続きだった。ギリシャ債務危機がくすぶり、過激派組織ISのテロに加え、シリアやアフガニスタンからの難民が大量に欧州に押し寄せた。

1月の仏風刺週刊紙シャルリエブド襲撃、11月のパリ同時多発テロに見舞われたフランスの地域圏議会選第2回投票では、反移民・反イスラム主義を唱える極右政党・国民戦線が27%(第1回投票28%)を獲得した。仏大統領オランドの社会党など左派連合は29%(同23%)と低迷している。

欧州債務危機の震源地ギリシャでは、反緊縮を唱えていた急進左派連合(SYRIZA)のチプラス政権が誕生。欧州連合(EU)との交渉が迷走し、一時、ギリシャは単一通貨ユーロ圏から離脱寸前にまで追い込まれた。10月のポルトガル総選挙では連立与党が政権を維持したものの、政府プログラムが野党の反対多数で否決され、緊縮策の一部撤廃を唱える社会党の少数政権が誕生した。

10月のポーランド総選挙では保守政党で最大野党の「法と正義」が上下両院で単独過半数を獲得した。レフ(10年4月の政府専用機墜落事故で死去)、ヤロスワフ・カチンスキの双子が大統領と首相に就任した2005~07年、「法と正義」はEU基本法(リスボン条約)への最終署名を遅らせるなどEUとの関係はギクシャクした。

EU加盟国による難民の割当制に対して「法と正義」は難色を示し始めている。難民の流入を防ぐために、国境に有刺鉄線による壁を築いたハンガリーの首相オルバンは「非自由主義国家」宣言を行い、ロシアの大統領プーチンへの共感をあからさまに見せている。

5月の総選挙で保守党の単独政権に移行した英国の首相キャメロンは2016年にもEU離脱・残留を問う国民投票を実施する構えを見せる。キャメロン自身はEU残留派だが、パリ同時多発テロを機に保守党内のEU離脱派が勢いづいている。

EUの要であるドイツでも今年だけで100万人に達した難民をどう処遇していくのか、首相メルケルには難問が突きつけられている。EU域内の国内総生産(GDP)成長率は年率で1.9%と回復の兆しを見せているが、成長の南北格差が顕著になっており、2016年は15年以上に厳しい年になりそうだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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