【パリ無差別テロ】浮かび上がるベルギーとフランスの「イスラム国」コネクション

テロの首謀者アブデルハミド・アバウド容疑者(DABIQより)

「ジハーディストの温床」で育った首謀者

[パリ発]死者132人、負傷者349人を出したパリ同時多発テロを受け、フランスのオランド大統領は16日、ベルサイユ宮殿に上下両院の議員を招集して、「これは戦争行為だ。過激派組織『イスラム国(IS)』を破壊する」と宣言した。

非常事態宣言の3カ月延長と憲法改正も要請する。テロ対策を強化するため警官5千人を増員。テロ関連で有罪になれば二重国籍の剥奪や、国家の安全保障に重大な脅威となる者は迅速に出身国に強制送還できるようにする。

仏大統領が上下両院合同会議で演説を行うのは過去170年で2度目という。

オランド大統領は演説の中で、今回のテロは「シリアで計画され、ベルギーで準備され、フランスで実行された」との見方を示した。首謀者として浮かんでいるのは、シリアに滞在するIS戦士で、モロッコ系ベルギー人のアブデルハミド・アバウド容疑者(27)だ。

アブデルハミド・アバウド容疑者(DABIQより)
アブデルハミド・アバウド容疑者(DABIQより)

アバウドは「ジハーディスト(聖戦士)の温床」と言われるベルギー・ブリュッセル首都圏のモレンベーク地区出身とされ、昨年1月、13歳の弟を連れてシリアに出国した。13歳の弟は「世界最年少のジハーディスト」と騒がれた。

その後、ISの動画やオンライン機関誌「ダビック(DABIQ)」7号(今年2月発行)にも登場。ダビック誌では、同年1月、ベルギー東部ベルビエで起きた警官隊との銃撃戦で2人が死亡した事件についても証言している。

「我々は欧州に入るのに数カ月を要した。アラー(イスラム教における全知全能の唯一神)のお力で、最終的にベルギーにたどり着くことに成功した。十字軍(シリアやイラクでIS空爆を実行する欧米諸国のこと)に対する作戦を計画している間、武器を調達し、安全な隠れ家を設けることができた」

欧州テロ細胞を遠隔操作

銃撃戦から逃走したアバウドはシリアに戻り、ISの欧州テロ細胞を遠隔操作しているようだ。

パリ郊外でキリスト教教会へのテロ攻撃を計画、車を調達するため女性を射殺したアルジェリア系フランス人男子学生が4月に逮捕された事件や、ベルギーを走行中のパリ行き高速列車内でモロッコ国籍の男が銃を発射し、複数の乗客が負傷した8月の事件でも首謀者として名前が上がっている。

90人近くが死亡したパリのバタクラン劇場(筆者撮影)
90人近くが死亡したパリのバタクラン劇場(筆者撮影)

これまでに浮上したテロの実行犯は次の通りだ。

◇アブデスラム3兄弟

【行方不明】サラ・アブデスラム(26)フランス国籍。ベルギーで犯行車VW Poloを借りる。車はバタクラン劇場近くで発見。

【自爆】ブラヒム・アブデスラム(31)ベルギー在住フランス人。首謀者アバウドやベルビエ銃撃戦に接点。別の犯行車を借りる。バタクラン劇場近くのカフェで自爆。モレンベークに居住歴あり。

【逮捕】モハンマド・アブデスラム。モレンベークでベルギー警察に逮捕されたが、釈放。

【自爆】オマール・イスマイル・モスタフェ(29)フランス国籍。 バタクラン劇場で自爆。2013年にトルコに渡航歴。

【死亡】ビラル・ハドフィ(20)ベルギー在住フランス人。国立競技場周辺で死亡。シリアのISに参加したことがある。

【自爆】アフマド・アル・モハンマド(25)シリア・イドリブ出身。シリア旅券で10月初めにギリシャ・レロス島経由で欧州入り。国立競技場周辺で自爆。

【自爆】サミ・アミムール(28)パリ郊外で生まれる。バタクラン劇場で自爆。イエメンに渡航歴。

統計から浮かび上がるベルギー・フランスの環

英キングス・カレッジ・ロンドン大学過激化・政治暴力研究国際センター(ICSR)が今年1月、欧州からシリアやイラクのISに参加した外国人戦士の数をまとめている。

出典:ICSRデータをもとに筆者作成
出典:ICSRデータをもとに筆者作成

それをグラフにすると、外国人戦士の数(推定)ではフランスが1200人で断トツに多い。人口100万人に対する割合ではベルギーが40人と突出している。統計から見ても、「過激化の温床」と化したベルギーと、過激分子が多すぎて監視の目が届きにくいフランスの環の中でテロが起きたことが分かる。

英国では2005年のロンドン同時多発テロをきっかけにICSRなどで過激化の研究が多角的に行われてきた。ソーシャルメディアを通じてISに参加した外国人戦士にインタビューしたり、ISからの脱走者やテロ関連で有罪になった関係者の証言を分析したりした結果、過激化の理由は多岐にわたることが分かった。

一概にイスラム社会の失業や貧困、社会的な剥奪が理由と決めつけるわけにはいかない。首謀者アバウドもベルギーのトップクラスの進学校に進んでいる。両親の離婚や失恋、思春期の挫折などが重なり、イスラムと西洋の狭間に落ち込んでしまうこともある。

こうしてアイデンティティークライシス(自己喪失)に陥った際、インターネットで過激思想に触れ、過激モスク(イスラム教の礼拝所)や過激イマーム(指導者)の影響を受けて、イスラム過激派に近づいてしまう。しかし実際にテロを起こすとなると、相当な飛躍がいる。

タコ壺化を防げ

確実に言えることはいったん過激化し始めたイスラム教徒の若者は、ベルギーの中でもイスラム過激派の人口密度が異様に高いモレンベークのような地域に出入りするようになると、過激化は一気に加速して、最終段階に到達する。モレンベークは、191人の死者を出した2004年のマドリード列車爆破テロやこのほか、昨年にブリュッセルで起きたユダヤ博物館襲撃との関わりも取り沙汰されてきた。

ベルギーのジハーディズムを研究しているPieter Van Ostaeyen氏はブログの中で「ベルギーのムスリム人口は(モロッコ系やトルコ系が中心で)約64万人。シリアやイラクの過激派組織にベルギーから参加した人数は516人に達している。実に1260人に1人のムスリムが外国人戦士になっている計算だ」と指摘している。

首謀者アバウドと、行方が分からなくなっているサラ・アブデスラムは2010年の強盗事件でともにベルギーの刑務所に服役している。刑務所も過激化の温床となっている。

バタクラン劇場前で祈りを捧げるイスラム教徒の女性(筆者撮影)
バタクラン劇場前で祈りを捧げるイスラム教徒の女性(筆者撮影)

過激化の環境を改善していく必要がある。教育や就業の機会を均等にするのはもちろんだが、イスラム系移民の人口密度が突出して高くなる地域を作らないことや、モスクやイマームと連絡を取り、密室化を防ぐことが重要だ。イスラム系移民の過激化プロセスについても、もっとオープンな議論が求められる。

(おわり)