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【大阪都構想】カギ握る若者票 大阪の若者は「保守的」?

木村正人在英国際ジャーナリスト

英国の総選挙では、スコットランドの選挙区でグラスゴー大学で政治学を学ぶスコットランド民族党(SNP)の女子大生マイリ・ブラックさん(20)が労働党の大物アレクサンダー「影の外相」を破って初当選した。

1667年の記録(当時の最年少議員は13歳)に次ぐ若さだ。SNPのニコラ・スタージョン党首は16歳のときSNPに入党した。英国の、政治への芽生えは日本に比べ、随分と早い。

投票権年齢を現在の18歳から16歳に引き下げることに賛成しているのは労働党、自由民主党、SNP、ウェールズ民族党、緑の党。反対は保守党だけ。

今回、その保守党が単独政権を発足させたため、次の議会期の5年間、投票権年齢は18歳のまま据え置かれる。が、16歳に引き下げられる日はそう遠くない。

昨年9月に行われたスコットランド独立を問う住民投票では16歳以上の投票が認められた。スコットランド選挙管理委員会の調査に対し、16~17歳の75%が投票したと回答。うち97%が選挙や住民投票があれば次も投票に行くと答えた。

これとは別に保守党のアシュクロフト上院議員の資金で実施された調査では16~17歳の71%がスコットランド独立に賛成と答え、反対は29%にとどまった。スコットランドの若者は「現状維持」より「変化」を求めている。

日本でも早ければ来年夏の参院選から選挙権年齢が現行の20歳以上から18歳以上に引き下げられ、高校3年生の一部が投票権を得ることになる。大阪都構想の住民投票は日本国籍を持つ20歳以上の大阪市民約215万人。

さて大阪市の若者はどう動くのか。筆者が主宰するつぶやいたろうラボ(旧つぶやいたろうジャーナリズム塾)4期生の笹山大志くんの大阪都構想リポート第2弾をお届けしよう。

[笹山大志=大阪発]「特別区制度は東京の特別区をモデルにしてるらしいってことが分かって、これは大変だと思った」

10日、大阪市天王寺区の大阪国際交流センターで開かれた「住民投票緊急セミナー『特別区制度を考える』」で東京都の特別区・世田谷区の保坂展人区長が1千人の聴衆を前に講演した。

「特別区は長い間、区民とともに自治権を拡充してきた歴史があり、区長だって選挙で選出されるようになるまで、粘り強い闘いがあった」

保坂区長は東京都の特別区が自治権を拡充していった変遷を紹介した上で、財源を握っている「都」の立場は強くなるため、配分を受ける「特別区」は財政上、大きな制約を受けると主張した。

「大阪都構想」の反対派は、大阪市が5つの特別区になれば財源や権限が「大阪都」に吸収され、住民サービスが低下することを強調している。

賛成派と反対派で食い違う論点

先日、大手紙が一斉に発表した世論調査の結果をみると、賛成派と反対派の論点が食い違っていることが分かる。

賛成派が賛成の理由としてあげるのは「思い切った改革が必要だから」(41%)に次いで、「二重行政が解消されるから」(27.7%)が多い。

これに対し、反対派では「メリットが分からないから」(32.1%)に次いで、「住民サービスが良くならないから」の14.6%が続く。(産経)

大阪維新の会は「二重行政のムダ解消」を都構想最大の目的に掲げてきた。ムダの解消で浮いたオカネを大都市戦略や住民サービスに回すという考えだ。

しかし、反対派は「特別区の権限と財源が都に吸い上げられ、住民に良質なサービスを提供できなくなる」と「住民サービスの低下」に焦点を絞ってキャンペーンをはってきた。

これを受け、橋下徹・大阪市長は先週末から、タウンミーティングで「二重行政のムダ解消」を説明する前に、「住民サービスの低下」という批判をかわす戦術に切り替えている。

「われわれ推進側は、みなさんの生活が直ちに良くなるという印象を与えているのであれば反省しなければならない。2年後、みんなの生活はほとんど変わりません」

「ものすごく良くなることもなければ、ものすごく悪くなることもない。(都構想の賛否は)そこを踏まえて判断して欲しい」

若者にとって身近な問題

大都市地域特別区設置法に基づいて行われる今回の住民投票に投票率の下限規定は設けられていない。投票率が低くても1票でも賛成が反対を上回れば大阪市の解体、5つの特別区設置が決まる。

それだけに、大阪市民の民意が十分に反映されるかは重要な問題だ。

今のところ、住民投票に「必ず行く」(67.9%)と「たぶん行く」(18.4%)(産経)を合わせると8割を超える有権者が投票意思を示しており、投票率に関してはかなり高くなりそうだ。

一方で、いつも「低い」とやり玉にあげられる若者の投票率はどうか? 過去の市議会選や市長選をみると年齢が下がるほど投票率は下がっている。

大阪市選挙管理委員会データより大志くん作成
大阪市選挙管理委員会データより大志くん作成

しかし、今回の住民投票に対する若者の関心は低くないようだ。

20代の投票率向上に取り組んでいる学生団体「ivote関西」に所属する同志社大学の有田彩子さん(20)によると、街で若い世代に投票を呼びかけると、「投票に行く」と答える人やビラを2枚、3枚持っていく人が少なくない。

今まで投票に行った経験がないという大学生、去来川大空さん(21)は「都構想について詳しくは分からないけど、今回は住民投票に行こうと思う。人を選ぶ選挙ではなく、今回は大阪市の制度に関することで、僕たちの生活に直接、結びついてくる問題だからだ」と話す。

「二重行政だ」と橋下市長ににらまれ、大阪都構想が実現すれば大阪府立大学(堺市中区)と統合される大阪市立大学(住吉区)に通う女子大生(22)もこう話す。

「(統合問題は)大学のネームバリューに関わる問題で、その意味で都構想に関心を持っている」

それでも新聞の世論調査によると、都構想への賛否をまだ決めていない20代、30代の割合は他の年代に比べて高い。男性は20代の20.3%、30代の11.4%が「分からない・無回答」だ。(産経)

産経新聞より大志くん作成
産経新聞より大志くん作成

女性は20代の22.9%、30代の24.7%が「分からない・無回答」。20代は都構想に反対が男性46.4%、女性60%と賛成のそれぞれ33.3%、17.1%を大きく上回っている。

同

賛成、反対はさておき、同世代として筆者も大阪の未来を決める投票に若い世代の民意が反映されることを望んでいる。平松邦夫・前大阪市長も立場を越えて若者に投票を呼びかけるメッセージを寄せてくれた。

大阪市の皆さん、17日は必ず投票に行こう。

笹山大志(ささやま・たいし)1994年生まれ。立命館大学政策科学部所属。北朝鮮問題や日韓ナショナリズムに関心がある。韓国延世大学語学堂に語学留学。日韓学生フォーラムに参加、日韓市民へのインタビューを学生ウェブメディア「Digital Free Press」で連載し、若者の視点で日韓関係を探っている。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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