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中川政務官の路チュ―問題 政界は「性界」―は万国共通というけれど

木村正人在英国際ジャーナリスト

路チューは「軽率な行動」

妻子持ちの自民党・門(かど)博文衆院議員(49)と路上でキスをしている写真が「週刊新潮」に掲載された同党の中川郁子(ゆうこ)農林水産政務官(56)が5日から都内の病院に緊急入院した。

安倍政権は交代させる方向で後任の調整を急いでいると報じられている。

各紙の報道から関係者のコメントを拾ってみる。

中川政務官「報道で取り上げられた写真については、酒席の後であったとはいえ軽率な行動」「(門議員とは)同一政策集団に属し、2期生として活動をともにさせていただいているだけ」

門議員「お酒で気が緩み、軽率で誤解を招く行動だったと深く反省している」

菅義偉官房長官「公人として誤解を受けることのないように、自らを律して政務官の職責に全力で取り組んでほしい」

安倍晋三首相「自らを律し、政務官の職務に全力で取り組んでほしい」

たかが不倫・路チュー(路上駐車ではなく、路上でキスすること)で政権は大騒ぎだ。

中川政務官は、農水相、経産相、財務相を歴任し酩酊会見で落選した後、悲劇的な死を遂げた中川昭一氏の未亡人だけに週刊紙には格好のネタになった。

政治家に愛人は付き物だった

色と権力、欲とカネにまみれた政界で、「自分を律する」(安倍首相)のは言葉で言うほど簡単ではない。政治家が愛人を囲うのは決して珍しいことではなかった。

戦後、選挙演説会で対立候補から「男女同権となったものの、ある有力候補のごときは妾を4人も持っている」と批判された三木武吉は「妾が4人あると申されたが、事実は5人。5を4と数えるごとき、小学校一年生といえども恥とすべき。これ(年老いた女性)を捨て去るごとき不人情はできぬから、みな今日も養っておる」とあっさりと認め、聴衆の喝采を浴びた。

三木には、72歳で亡くなるまで愛人が5人いたという。

英雄は色を好むと言われるが、米国や英国の大物政治家も昔は愛人を囲っていた。米国のフランクリン・ルーズベルト大統領、ケネディ大統領、英国のロイド・ジョージ首相に愛人がいたのは有名な話だ。

フランスでは現在のオランド大統領が愛人騒動を起こし、国際通貨基金(IMF)専務理事だったドミニク・ストロスカーン氏は性的暴行事件、買春事件が次々と浮上している。

妻子より不倫相手を選ぶ英国の政治家

新聞報道を読む限り、英国の政治家は道徳観というより下半身に正直なような印象を受ける。

ブレア首相(当時)に外相に任命されたロビン・クック氏は1997年8月2日、妻のマーガレットさんと休暇に出かけようとヒースロー空港にいた。そのときブレア首相のスピンドクター(広報担当者)から電話が鳴った。

「タブロイド(大衆紙)が、君が秘書のゲイナーさんと関係を持っていることを嗅ぎつけた。ゲイナーさんとの関係を清算した方が良い」

ブレア首相とスピンドクターはクック外相に迫った。しかし、クック外相と秘書のゲイナーさんは愛し合っていた。とにかく関係をすぐに、はっきりさせなければならない。

クック外相は空港で「今の妻マーガレットとは別れて、別の女性と結婚するつもりだ」と声明を読み上げた。

あっさり捨てられたマーガレットさんはその後、暴露本を出版し、「クックには6人の愛人がいた」「大酒飲みだった」と不満をぶちまけた。

クック外相は秘書のゲイナーさんと結婚、下院院内総務だった2003年3月、ブレア首相のイラク戦争に反対して辞任する。05年8月、ゲイナーさんとスコットランド地方で山歩きをしている最中に倒れ、急死する。59歳の若さだった。

大衆はセックス・スキャンダルに寛容だ

ブレア首相は自伝『ブレア回顧録』で「ただの単純なセックス・スキャンダルなら大衆は許容するのである」と記している。その一方で、「金はセックスよりもずっと影響力が大きく危険である」と指摘している。

スキャンダルの中に、機密保持の手落ちや政府の情報が漏洩する恐れがある場合や、ウソをついたりすると問題が複雑になり、非常に厄介な事態を引き起こすという。

英国ではこんなセックス・スキャンダルもあった。

自由民主党の欧州議会議員だったクリス・ヒューン氏は03年3月、スタンステッド空港から愛車のBMWで家路を急いでいた。しばらくしてスピード違反の切符が自宅に届いた。

ヒューン氏の減点は既に計9点に達しており、スピード違反の減点3を加えると6カ月の免許停止となる。ヒューン氏は妻の著名エコノミスト、ヴィッキー・プライスさんに違反切符を渡し、減点を肩代わりしてもらった。

愛憎劇の末、2人で塀の中に落ちたエリート

間違いは07年12月の自民党党首選から始まった。

本命だったヒューン氏はクレッグ副首相と接戦を繰り広げたが、郵便投票の遅配が原因で敗れ去った。ヒューン氏はその後、党首選でメディア・アドバイザーを務めた女性と不倫関係を持つ。

10年の総選挙で自民党は保守党と連立を組み、ヒューン氏は閣僚に抜擢された。クレッグ副首相の不人気もあって、ヒューン氏は次期自民党党首の最右翼に挙げられるなど、飛ぶ鳥を落とす勢いだった。

そんなヒューン氏の不倫をタブロイド紙が見逃すわけがない。不倫は大々的に報じられたが、結局、ヒューン氏は26年間、連れ添ったプライスさんと3人の子供と袂を分かち、愛人のもとに走った。

ヒューン氏はタブロイド紙の暴露後、わずか20分でプライスさんとの別居を発表する声明を書き上げたという。

プライスさんは11年5月、スピード違反の替え玉問題をメディアに暴露する。翌12年2月、2人とも司法妨害罪で起訴され、ヒューン氏は閣僚を辞任。

2人は仲良く刑務所に入った。プライスさんの兄弟は「怒りに狂って冷静な判断力を失った。恥辱が復讐の炎を燃え上がらせた」と悔やんだ。プライスさんは刑務所の中で『刑務所の経済学』という本を書き上げる。

筆者は取材で顔見知りになったプライスさんとよく出くわすが、とてもチャーミングな女性である。プライスさんにはギリシャ危機の著書もあり、その分析はとても優れている。

英政治家の不倫劇は、どこかユーモラスで人間の悲喜劇をあぶり出す。

中川政務官と門議員の不倫・路チューを問題にするのはおかしい。元有力大臣(安倍首相の盟友)の未亡人というだけで代議士のバッジがつけられる日本の政治文化がそもそも間違っているからだ。

(おわり)

参考:英国ニュースダイジェスト「英国ニュースの行間を読め!第12回超エリート夫婦の愛憎劇」

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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