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「消費税の再増税先送りは正しい判断」世銀エコノミスト 原油安の敗者はロシア、勝者はインド

木村正人在英国際ジャーナリスト

世界銀行は13日、世界経済見通しを発表した。力強く成長する米国と英国、停滞する欧州単一通貨ユーロ圏(19カ国)と日本、経済モデルを転換するため注意深く減速する中国の3つに分かれている。

世銀資料より筆者作成
世銀資料より筆者作成

世界経済が2014年の推定2.6%成長(昨年6月の見通しは2.8%)から15年は3%(同3.4%)に回復する見通しだが、回復の足取りは弱い。「ユーロ圏と日本が足を引っ張っている」と世銀は分析する。

政策金利の見通しは、日本は18年になってもゼロ近辺に張り付いたまま。ユーロ圏は昨年5月、18年には1%前後を見込んでいたが、今回、日本と同じようなレベルまで引き下げられた。

日本は昨年4月の消費税率5%から8%への引き上げで消費が落ち込み、14年は0.2%(同1.3%)止まり、15年は1.2%、16年は1.6%の成長を取り戻すという。

ロンドンで記者会見した世銀のリードエコノミスト、Franziska Lieselotte Ohnsorge女史に、筆者は「安倍三首相は消費税の再増税を先送りした。財政の持続性についてどう考えるか」と尋ねてみた。

世銀のリードエコノミスト、Ohnsorge女史(筆者撮影)
世銀のリードエコノミスト、Ohnsorge女史(筆者撮影)

Ohnsorge女史は「財政規律を守るというコミットメントがある限りは再増税を先送りしたのは正しい判断だ。14年に消費税率を5%から8%に引き上げると成長の妨げになると世銀は指摘してきた。財政健全化を実行するというよりも財政規律を取り戻す計画を示し、信頼を構築することが大切だ」と答えた。

中国の習近平国家主席は「シャドーバンキング(影の銀行)」規制に乗り出すなど、投資偏重の経済成長を慎重に減速させる一方で、個人消費に軸足を移し、サービス産業を成長させて雇用を拡大するべく、経済のリバランスを進めている。

中国経済は14年7.4%、15年7.1%、16年7%と少しずつ減速、17年に6%台に落ちるという。昨年6月に「仮に(経済のリバランスが)ハードランディングとなった場合、その影響はアジア全域に広く波及する」と世銀が指摘した中国リスクについても質問した。

――発表資料から中国のハードランディング・シナリオが消えているが、中国リスクはなくなったということか

Ohnsorge女史「実際に起きる確率は低いが、中国リスクがなくなったわけではない」

――欧州中央銀行(ECB)は景気刺激策としての量的緩和に踏み切るべきか

「ユーロ圏には量的緩和が必要だ。時期は次の定例理事会かどうかはわからない。量的緩和に期待する効果は通貨の切り下げだ」

――英国経済は回復したものの、労働生産性の低迷や実質賃金の低下が指摘されている

「不動産価格の上昇が消費を支えている面はある。不動産価格は過大に評価されている」

途上国経済は原油安、力強い米国経済、低金利の継続のおかげで元気を取り戻す可能性がある。インドは14年5.6%、15年6.4%、16~17年には中国と肩を並べる7%成長を達成するという。原油安がブラジル、インドネシア、南アフリカ、トルコの追い風になりそうだ。

しかし、世界経済を下押しするリスクは主に4つある。

(1)世界貿易は世界金融危機以前は平均7%の割合で増えたが、13年、14年も4%未満にとどまるなど需要が弱く、さらに弱まる。

(2)米連邦準備理事会(FRB)や英イングランド銀行の出口戦略で金融市場がぐらつく。

(3)原油安による産油国への影響。

(4)ユーロ圏の停滞と日本のデフレが長引く。

原油安に直撃されたロシアは15年マイナス2.9%、16年も0.1%成長にとどまる見通しだ。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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