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世界大学ランキング(1)東大23位死守も、日本は大幅後退

木村正人在英国際ジャーナリスト

猛追するシンガポール国立大学25位

タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(TIMES HIGHER EDUCATION、略称THE)世界大学ランキング2014-15年が1日午後9時(日本時間2日午前5時)に発表された。

東京大学は前年と同じ23位で、アジア首位の座を何とか保ったが、26位から25位に順位を上げてきたシンガポール国立大学に手の届くところまで追い上げられている。

このほかトップ200大学に4校が入ったが、京都大学が52位から59位に後退するなど、軒並み順位を下げた。

14-15年(13-14年)大学名

23(23)東京大学

59(52)京都大学

141(125)東京工業大学

157(144)大阪大学

165(150)東北大学

226-250(201-225)名古屋大学

226-250(201-225)首都大学東京

276-300(276-300)東京医科歯科大学

301-350(301-350)筑波大学

351-400(301-350)北海道大学

351-400(301-350)九州大学

351-400(ランクなし)早稲田大学

韓国のソウル大学校(前年44位)はトップ50にぎりぎり留まり、KAISTは56位から52位 に躍進。成均館大学校はトップ200に初めてランクインし148位。

中国の北京大学は48位、ライバルの清華大学は49位。復旦大学も193位とトップ200に入ってきた。

香港大学は43位 をキープ。香港科技大学は57位から51位に上昇した。192位の香港城市大学もトップ200にランクインした。

シンガポールの南洋理工大学は76位 から61位に順位を大きく上げた。シンガポールの2校はいずれも順位を上げている。

トップ200に入ったアジアの国・地域別の大学数

日本5校

韓国4校

香港4校(前年より1増)

中国3校(同)

シンガポール2校

台湾1校

となっており、日本の優位は大きく揺らいでいる。

スタートした日本のスーパーグローバル大学構想

安倍晋三首相は今後10年間で世界大学ランキング100位以内に10校以上をランクインさせる目標を掲げる。

文部科学省は9月26日、大学の国際化を重点支援する「スーパーグローバル大学」37校を選定した。タイムズ・ハイヤー・エデュケーションなどの世界大学ランキングで100位以内を目指す「トップ型」には13校が選ばれた。

【トップ型13校】

北海道大学(THE351-400位)、東北大学(165位)、筑波大学(301-350位)、東京大学(23位)、東京医科歯科大学(276-300位)、東京工業大学(141位)、名古屋大学(226-250位)、京都大学(59位)、大阪大学(157位)、広島大学、九州大学(351-400位)、慶応義塾大学、早稲田大学(351-400位)

不思議なのはTHEで226-250位にランクインしている首都大学東京がトップ型にも、大学教育の国際化モデルとなる「グローバル化牽引型」にも選ばれなかったことだ。

下村博文・文部科学相は記者会見で「10年後には採択大学全体で、例えば、外国人教員等の比率を約半数に、外国語における授業科目比率は5分の1とする目標を掲げており、年俸制を適用する教員比率や、学部一般入試へのTOEFLなど外部試験の活用は大幅に増加する予定だ」と語った。

スーパーグローバル大学は切り札になるのだろうか。

外国人教員を採用しさえすればランクが上がる!?

トップ型に選ばれた大学2校の文系関係者と最近、お話する機会があった。いずれも文部科学省が主導する大学の国際化には極めて懐疑的だった。

外国人教員比率は英国のオックスフォード大学は41%。東京大学は6%、京都大学は5%。オックスフォード大学並みにするには新たに1千人以上の外国人教員が必要だという。

「団塊の世代」教員約1千人がこれから次々と退職していくため、その穴を外国人教員の採用で埋めるという。「要するに外国人教員を採用すれば、世界の大学ランキングは上がるのです。良い外国人教員がいないか、ツテを頼って海外の名門大学に当たりをかけています」(国立大学関係者)

日本の大学は外国人教員や留学生を増やして、国際共著論文比率を上げれば、世界大学ランキングは上昇するというのが文部科学省の戦略だ。しかし、優秀な外国人教員は世界中から引っ張りダコで、年俸はかなり高い。

しかも、日本国内では首を長くして教授の退職を待っていた若手の准教授が教授ポストにつけない確率が高まるため、大学の現場では教員の不満が高まっているという。

「日本の先端研究を英語で発表していくというのならわかりますが、とにかく英語で授業をすればすべて解決という考え方は本末転倒です。東京大学の浜田純一総長は、将来は学部生の半数を留学させると話していますが、官僚育成が目的の東京大学が遅れていただけで、何を今さらという感じです」(私立大学関係者)

大学の国際化は不可避

米国の大学はトップ10のうち7校、トップ20では15校を占める。英国の大学はトップ10に3校ランクインしている。

世界大学ランキングはアングロサクソン系の米英の大学にほぼ独占されている。自然科学の先端研究だけでなく、国際社会で議論を戦わし、リードしていくには英語は必須言語である。

韓国、香港、中国、シンガポールも一斉に走りだしている。アジアの盟主だった日本は瀬戸際に追い込まれている。動かなければ遅れをとるだけだ。

フィル・バティTHEランキング編集者に電話インタビューした。

――大学の国際化に日本の現場では不満の声が上がっていますが

バティ氏「日本の大学が抱える問題点は内向きになりすぎていることです。日本の大学はアジアでは最高でしたが、他のアジアの大学に追い上げられています」

「もし、日本の大学が国際化しなければ、東京大学はシンガポール国立大学に追い抜かれるでしょう。大学の国際化で学生は多文化に接することができます。国際的な教育環境、研究の国際協力、国際的なネットワークがアドバンテージになります」

――中国の大学はどうですか

「中国は世界レベルの大学をつくろうと、莫大な投資を行っています。今年3月、北京大学を訪れましたが、米国の科学者など欧米の教員を採用しています。国際協力を進めることで相互利益が期待できます」

「中国は政治的には孤立していますが、大学の国際競争力をつけるためには国際化が不可欠で、それが引いては中国の地位を高めることを理解しています」

「また、欧米の大学で勤務していた中国人研究者に十分な報酬を約束して中国の大学に呼び戻しています。学問の自由や表現の自由の問題で中国の大学には大きなバリアが残っています。それらを解消できるかが次の大きなステップになります」

――日本の理系の競争力はまだありますか

「日本の大学はまだ優位性を保っています。が、シンガポールや中国、韓国は潤沢に大学に投資しているのに対し、日本の大学の報酬は低すぎます。長期化した経済問題のため十分な投資ができず、優秀な研究者を集めるのが難しくなっています」

「政府のスーパーグローバル大学構想は良い考えだと思います。日本の大学には大胆でビジョンを持った未来志向のリーダーが必要です。政府はリーダーに改革に必要な強い権限を与えるべきです。大学内で民主的に選ばれたリーダーは保守的で安全策しか取らないでしょう」

元三重大学学長で、鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長はブログで世界大学ランキング100以内に10校という数値目標を掲げる「選択と集中」戦略に警鐘を鳴らしている。

「日本のお家芸と言われた『物理・化学・物質科学』分野の論文数が、2004年の国立大学法人化を契機に、明確に減少しているカーブは、何度見ても衝撃的です」

「日本の『強み』は一つもなく、すべてが弱い分野ということになる。その中でも、極端に弱い分野としては例えば『情報』や『社会科学』がある」(いずれもブログより)

何が問題なのか。世界大学ランキング(2)では、豊田学長に電話インタビューしている。

14-15年(13-14年)大学名、国・地域

1(1)カリフォルニア工科大学、米国

2(2)ハーバード大学、米国

3(2)オックスフォード大学、英国

4(4)スタンフォード大学、米国

5(7)ケンブリッジ大学、英国

6(5)マサチューセッツ工科大学、米国

7(6)プリンストン大学、米国

8(8)カリフォルニア大学バークレー校、米国

9(10)インペリアル・カレッジ・ロンドン、英国

9(11)イェール大学、米国

11(9)シカゴ大学、米国

12(12)カリフォルニア大学ロサンゼルス校、米国

13(14)チューリッヒ工科大学、スイス

14(13)コロンビア大学、米国

15(15)ジョン・ホプキンス大学、米国

16(16)ペンシルバニア大学、米国

17(18)ミシガン大学、米国

18(17)デューク大学、米国

19(19)コーネル大学、米国

20(20)トロント大学、カナダ

21(22)ノースウェスタン大学、米国

22(21)ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン、英国

23(23)東京大学、日本

24(24)カーネギーメロン大学、米国

25(26)シンガポール国立大学、シンガポール

26(25)ワシントン大学、米国

27(28)ジョージア工科大学、米国

28(27)テキサス大学オースティン校、米国

29(29)イリノイ大学アーバナ、米国

29(55)ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン、ドイツ

29(30)ウィスコンシン大学マディソン校、米国

32(31)ブリティッシュコロンビア大学、カナダ

33(34)メルボルン大学、オーストラリア

34(37)スイス連邦工科大学ローザンヌ校、スイス

34(32)ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス、英国

36(39)エディンバラ大学、英国

37(33)カリフォルニア大学サンタバーバラ校、米国

38(40)ニューヨーク大学、米国

39(35)マギル大学、カナダ

40(38)キングス・カレッジ・ロンドン、英国

41(40)カリフォルニア大学サンディエゴ校、米国

42(42)ワシントン大学(セントルイス)、米国

43(43)香港大学、香港

44(36)カロリンスカ研究所、スウェーデン

45(48)オーストラリア国立大学、オーストラリア

46(46)ミネソタ大学、米国

46(47)ノースカロライナ大学、米国

48(45)北京大学、中国

49(50)清華大学、中国

50(44)ソウル大学校、韓国

51(57)香港科技大学、香港

52(56)KAIST、韓国

52(58)マンチェスター大学、英国

54(52)ブラウン大学、米国

55(52)カリフォルニア大学デービス校、米国

55(61)ルーヴェン・カトリック大学、ベルギー

57(50)ボストン大学、米国

58(49)ペンシルバニア州立大学、米国

59(52)京都大学、日本

60(72)シドニー大学、オーストラリア

61(70)エコール・ポリテクニーク、フランス

61(76)南洋理工大学、シンガポール

63(ランクなし)ピサ高等規範学校、イタリア

64(67)ライデン大学、オランダ

65(63)クイーンズランド大学、オーストラリア

66(60)浦項工科大学校、韓国

67(63)ゲッチンゲン大学、ドイツ

68(59)オハイオ州立大学、米国

69(65)ライス大学、米国

70(68)ルプレヒト・カール大学ハイデルベルク、ドイツ

71(69)デルフト工科大学、オランダ

72(73)エラスムス・ロッテルダム大学、オランダ

73(77)ワーヘニンゲン大学リサーチセンター、オランダ

74(79)ブリストル大学、英国

75(74)バーゼル大学、スイス

75(70)南カリフォルニア大学、米国

77(83)アムステルダム大学、オランダ

78(65)パリ高等師範学校、フランス

79(74)ユトレフト大学、オランダ

80(94)フンボルト大学ベルリン、ドイツ

81(86)ベルリン自由大学、ドイツ

82(83)ミシガン州立大学、米国

83(80)ダラム大学、英国

83(91)モナシュ大学、オーストラリア

85(201-225)中東工科大学、トルコ

86(103)アリゾナ大学、米国

86(90)ノートルダム大学、米国

88(93)カリフォルニア大学アーバイン校、米国

88(80)タフツ大学、米国

90(85)ゲント大学、ベルギー

91(132)マサチューセッツ大学、米国

91(78)ピッツバーグ大学、米国

93(80)エモリー大学、米国

94(117)グラスゴー大学、英国

94(92)マックマスター大学、カナダ

96(88)ヴァンダービルト大学、米国

97(97)コロラド大学、米国

98(103)ストックホルム大学、スウェーデン

98(87)ミュンヘン工科大学、ドイツ

98(111)ウプサラ大学、スウェーデン

以下はアジアの大学

129(109)香港中文大学、香港

141(125)東京工業大学、日本

148(201-225)成均館大学校、韓国

155(142)国立台湾大学、台湾

157(144)大阪大学、日本

165(150)東北大学、日本

192(201-225)香港城市大学、香港

193(201-225)復旦大学、中国

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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