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山本一郎氏とは別の意味で、「日本人であること」に甘えないほうがいい

木村正人在英国際ジャーナリスト

ロンドンにある国際シンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)の御友重希・客員研究員が尽力された日本復活のカギをさぐる研究討論会シリーズの議論が1冊の本に結実した。

本のタイトルは『日本復活を本物に チャタムハウスから世界へ』(金融財政事情研究会)。シリーズは、行動力の塊である御友さんが「チャタムハウスのように自由闊達で、国際的な視野を持った議論を日本でもできないか」と思ったことが始まりだ。

第1回「日本は世界やアジアの金融センターでいられるか」(今年1月)

第2回「日本は高齢化のチャレンジをチャンスにできるか」(2月)

第3回「日本は世界に開かれた会社・家庭・社会をもてるか」(3月)

第4回「日本は世界に投資・貢献し世界の投資を呼び込めるか」(4月)

総括発表会「アベノミクス、構造改革と国際競争力」(5月)

総括発表会では、甘利明・経済財政相が基調講演した様子は、5月8日のエントリー「『アンポの安倍』『経済の甘利』で中国に反転攻勢だ【安倍首相訪欧】」で紹介した。

筆者も5回シリーズのうち2回に参加、御友さんの本を読んだ印象は、日本に対する海外の目はやはり厳しいというものだ。

「日本株への投資でも、東京に拠点を置く必要がなくなっている。今後半世紀、アジア太平洋では香港が、そのオープンさ、税金の安さから、一番の金融センターになるとみている」(ブラックロック、マネジングディレクター、ディビッド・グラハム氏)

東京がアジアの金融センターとしての地位を確保できるのかという問いかけに、グラハム氏は日本が抱える問題点を列挙した。

(1)外国人労働者の受け入れが進んでいない。

(2)文化的にもグローバル化が進んでいない。

(3)英語が十分に使えない。

(4)外国人にとってのアクセスも悪く、家族が住みたいと言い出さない。

(5)ビジネスをする際のプロフェッショナル・サービスへのアクセスが悪い。

(6)外国人弁護士、外国人会計士の数も十分ではない。

(7)規制と官僚制が国際化の障害になっている。

フィリピン人の母と日本人の父を持つ日本国籍の男性(20)が旅券不携帯容疑の罪で誤認逮捕される事件があった。「おい、コラッ」警官の典型だ。また、同質性が極めて高く、モノカルチャーな日本の問題点を象徴しているのが次のコメントだ。

『日本人であること』に甘えないほうがいい」(山本一郎さん)。

日本が、安倍政権のいうように対内投資残高を2012年の17.8兆円から20年までに35兆円に倍増したいのなら、「日本人のあなたが外国人として逮捕される日」を書いたにしゃんたさんのアドバイスを大切にした方が良い。

筆者はロンドンで暮らすようになって7年余。置き引きに1度あっただけで、警官に職務質問されたことはない。人種差別もほとんど感じない。国際都市ロンドンで、警官が外見や言葉だけで誤認逮捕していたら、暴動の原因になりかねない。

ロンドンでは移民背景を持つ人口は全体の半分を超える。米国の一都市であるニューヨークと違って、ロンドンは本当の意味での国際都市だ。世界中とつながっているし、金銭的には恵まれない移民の家族も笑顔で暮らしている。

日本も、日本人も、「日本はすごい」「日本はキレイだ」「日本人は素晴らしい」「日本食は美味しい」という自画自賛から卒業した方が良い。「日本人であること」に甘えないほうがいい、というのが「在外日本人」ジャーナリストの意見だ。

同じ日本人について「在外」と「在内」と区別して論じる人が出てくるほど、日本と日本人のマインドは内向きになっている

研究討論会シリーズでは、他にも厳しい意見が続いた。

「東京が世界第5位の国際金融センターとはいっても、香港やシンガポールの水準からは大きく引き離されている」(大和キャピタル・マーケッツ、マネジングディレクター、グラント・ルイス氏)

「日本が本当に海外からの投資を歓迎するのであれば、必要とする投資は資金ではなく、考え方です。日本は非常に内向きな社会です。(略)日本のメディアは自ら検閲を行い、大きな権力を批判することを恐れています」(元オリンパス社長、マイケル・ウッドフォード氏)

ベルリンの壁崩壊後、世界ではグローバル化が急速に進んだが、ムラ社会の日本では国内の既得権を守るために、一段と内向きになってしまった。

安倍晋三首相の経済政策アベノミクスには批判も多いが、この20年でこびりついてしまった内向き思考を転換させる大きなチャンスをもたらしたことは間違いない。

日本貿易振興機構(JETRO)ロンドン事務所の有馬純所長が日本の強みとして挙げるのは――。

(1)国際競争力 世界第9位

(2)ビジネス洗練度 世界第1位

(3)イノベーション度 世界第5位

(4)研究・開発投資は米国に次いで世界第2の規模、国内総生産(GDP)比では主要8カ国(G8)中、第1位

(5)アジア太平洋16カ国中3番目に低い政治経済リスク

(6)世界第2の知的財産保護度

こうした強みを生かす障害になっている「高いビジネスコスト」「言葉のバリア」「規制の障害」「雇用の柔軟性不足」を取り除くため、安倍政権は今年3月末に、東京圏、関西圏、新潟市、福岡市、兵庫県養父市、沖縄県の6カ所を国家戦略特区に指定した。

日本でもさまざまなアイデアが形になり始めている。しかし、最も大切なのは「日本」と「外国」の間にある垣根、「日本人」と「外国人」の間にある心のバリアを取っ払うことだ。

「知のガラパゴス化を防ぐため、日英の知の国際交流を」という御友さんの熱意と、ロンドン最大級の債券系ヘッジファンド「キャプラ・インベストメント・マネジメント」共同創業者、浅井将雄さんの「知の衰退は国家の存亡にかかわる」という危機意識が共鳴し、この5月に「アジア太平洋 日英 知の国際交流センター」(CIIE.asia)が発足した。

チャタムハウスが主催、CIIE.asiaが共働する形で、日本でイベントを実施する。

8月31日午後1時から、名古屋大学豊田講堂で。麻生太郎副首相兼財務相、内山田竹志・トヨタ自動車会長が基調講演。

問い合わせは、東海東京フィナンシャル・ホールディングス総合企画部。

時間が許せば、あなたも「日英 知の国際交流」に参加してみませんか。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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