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英国が内閣改造で女性を大量抜擢

木村正人在英国際ジャーナリスト

来年の総選挙にらむ

英国のキャメロン首相は15日、内閣改造を行った。目玉は何と言っても女性の大量登用だ。閣僚22人中、5人が女性、このうち2人が新しく入閣。このほか閣議に参加できるメンバー11人中、3人が女性、うち2人が新加入だ。

政務次官も見渡すと、いかにキャメロン首相が「年老いた男性優位の政党」というイメージを一掃しようとしているかが一目瞭然だ。

新しく登用された女性陣は次の通りだ。

英政府HPの写真から筆者が作成
英政府HPの写真から筆者が作成

(1)最大の目玉人事は、キャメロン首相の側近中の側近、ゴーブ教育相を切り、ニッキ―・モーガン女性担当相(41)を抜擢したことだ。

モーガンさんは既婚で子供1人。教育相と女性・機会均等担当相を兼務するが、同性婚には反対している。

ゴーブ氏は教育改革を担当したが、一般中等教育修了証試験の改革をめぐる混乱や一部の学校でイスラム色の強い教育が行われていることが発覚、行政手腕に疑問符がついていた。

世論調査でもゴーブ氏は最も人気がなく、信頼のおけない政治家にランクされていた。このため、キャメロン首相は内閣というショーウィンドーから外し、院内幹事長という裏方の重職につけた。

(2)新しく環境・食料・農村相に就任するリズ・トラスさんは38歳。既婚で娘2人。2010年の総選挙で初当選。

(3)エスター・マクベイ雇用担当閣外相(46)は閣議に参加できるように。保守党下院議員と同居中。ジャーナリスト出身。

(4)ティナ・ストウェル上院院内総務(47)。

(5)クレア・ペリー運輸政務次官(50)。子供3人、別居中。

(6)アナ・ソウブリー国防政務次官(57)。シングルマザー、子供2人。

(7)アムバー・ラッド・エネルギー・気候変動政務次官(50)。離婚、子供2人。オズボーン財務相の側近。

(8)プリティ・パーテル財務政務次官(42)。既婚、子供1人。オズボーン財務相の側近。

(9)ペニー・モーダウント地域・地方政府政務次官(41)。パートナーあり。

労働党の女性議員にはパンツスーツの似合うボーイッシュなタイプが多いが、保守党は「大人の女性」の雰囲気を漂わせている。しかも、既婚、別居、離婚、シングルマザー、同居、パートナーとさまざまな家族の形を取り込んでいる。

女性議員の割合、日本はボツワナと同じ

世界経済フォーラムの「グローバル・ジェンダー・ギャップ・インデックス2013」によると、議会の女性議員の割合は英国23%、54位(日本は8%、120位で、アフリカ・ボツワナと同じ)。

これまでも指摘してきたが、日本の女性議員の割合はサウジアラビア20%、ヨルダン12%より低い。

女性閣僚の割合は英国17%、59位(日本は12%、82位)。今回の内閣改造で英国は22%超となる。

やはり、政治が率先して女性登用を進めていかないと、男女の機会均等は進まない。それを決めるのは男性と同じ1票を持っている女性なのだが、安倍晋三首相は英国の内閣改造をどう受け止めるのだろう。

都議会や国会での性差別ヤジをみると、自民党には男尊女卑の封建主義が残っているように有権者は感じている。安倍政権になって保守色がさらに強まったようにも見える。

安倍首相が「女性の輝く社会」を本当に構築したいのなら、英国の内閣改造から参考にできるところは参考にしてほしい。働く「量」や「時間」ではなく「質」に注目した場合、男性と女性の能力差はない。

寂しいヘイグ外相の退場

個人的に非常に寂しいのはヘイグ外相が内閣改造前日の14日、外相辞任と来年の総選挙にも出馬しないことを表明したことだ。内閣改造でキャメロン首相から外される前に自ら辞任した格好だ。

16歳のとき保守党大会で名演説を行い、当時のサッチャー党首から絶賛され、メージャー政権ではウェールズ相を務めた。36歳で党首に就任。キャメロン政権では外相。

男性スタッフとの同性愛疑惑騒動やリビア内戦でカダフィ大佐の動向をめぐる失言があったが、誠実な人柄と堅実な外交手腕で有権者の信頼は厚かった。

米女優アンジェリーナ・ジョリーさんと主催してロンドンで行われた「紛争下の性的暴力を終わらせるグローバルサミット」は大成功を収め、新しい外交の方向性を切り開いた。

後任のハモンド国防相は、ヘイグ外相より欧州懐疑派で、「欧州連合(EU)から英国の権限を取り戻すことができない限り、EU離脱に投票する」との立場を明らかにしている。

ヘイグ外相は親日派としても有名だ。

アジア安全保障会議(シャングリアダイアローグ)で安倍首相が表明したドクトリンについて、「日本が広範な意思を示したことを歓迎する。安倍首相が集団安全保障のため大きな役割を果たすと表明したことは重要なことだ。緊張を悪化させないよう話し合いと同時に実行することが大切になる」と歓迎の意を表明した。

ヘイグ外相とゴーブ教育相が内閣の要職から離れたことで、経済優先のため中国にのめり込むオズボーン財務相の発言力がさらに増すのは必至だ。

労働党のブラウン前政権は日本にまったく関心を示さず、同党の重鎮、マンデルソン元ビジネス・イノベーション・技能相にいたっては「対中武器禁輸はEUと中国の関係を強化する上での障害」という考えの持ち主だ。

労働党出身のEUのアシュトン外交安全保障上級代表も対中武器禁輸解禁の議論を呼びかけたことがある。来年の総選挙で保守党が勝っても労働党が勝っても、日本にとっては厳しい風向きになる可能性がある。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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