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「棄権票」が反EU極右政党を抑える オランダ欧州議会選【デモクラシーのゆくえ:欧州編】

木村正人在英国際ジャーナリスト

22日、欧州議会選の投票が行われたオランダでは、「モーツァルト」のニックネームを持つ金髪のウィルダース党首率いる極右政党・自由党(PVV)が出口調査で予想外の4位に沈んだ。

ウィルダース党首は反イスラム・反移民・反欧州連合(EU)を唱え、フランスの極右政党、国民戦線(FN)のマリーヌ・ルペン党首と「反EU」共闘を宣言している。2人の見事な金髪は排外主義を象徴しているかのようだ。

目指すは7カ国以上から合計25人の議員を当選させ、欧州議会で影響力を増すため政治会派を結成することだ。自由党(PVV)は事前の世論調査で最高18.1%を記録し、オランダで第1党になる可能性があると報じられていた。

しかし、22日の出口調査では前回2009年欧州議会選の得票率17%を大幅に下回る12.2%。議席も1減の3議席にとどまるとみられている。投票率は前回36.9%並みの35~37%(推定)という低調さだ。

欧州全体の反EUの動きに弾みをつけたかったウィルダース党首だが、「我が党の支持者は投票所に行かなかった」とほぞを噛んだ。オランダの有権者は反EUというより、もはや欧州に関心を失っているのかもしれない。

オランダの親EU政治勢力は反EUの台頭を何とかしのいだものの、第二の敵である「無関心」に敗北した。世論調査会社Ipsosによる出口調査の結果をみると――。

(1)民主66(D66)       15.6%(前回11.3%)

(2)キリスト教民主勢力(CDA) 15.2%(同20.1%)

(3)自由民主党(VVD)     12.3%(同11.4%)

ルッテ首相率いる自由民主党(VVD)は3位にとどまり、野党の民主党66(D66)が第1党に踊り出た。

昨年11月、オランダ・ハーグでマリーヌ党首と共同記者会見したウィルダース党首は「ブリュッセル(EU本部の所在地)の怪物から欧州を解放する」と息巻いた。

オランダとフランスは05年の国民投票で、リスボン条約の前身である欧州憲法草案の批准を否決した。両国に共通するのは、急増する移民への警戒心である。

オランダでは02年3月のロッテルダム市議会議員選で、移民排斥を唱えるフォルトゥイン氏(故人)率いる地域政党「住みよいロッテルダム」が第一党に躍進。

背景には、モロッコ系移民の第2世代が街中で頻繁にトラブルを起こしていたことがあった。

フォルトゥイン氏は国政でも右派政党フォルトゥイン党を結成したが、同年5月、動物愛護活動家に射殺された。04年11月には、そのフォルトゥイン氏を描く映画を製作中のテオ・バン・ゴッホ監督がモロッコ系青年に殺害される事件が起きる。

ウィルダース党首はそうした流れの中で登場した。06年に自由党(PVV)を結成し、「イスラムは民主主義と相容れない」とイスラム系移民排斥の政策を次々と掲げた。

イスラム系移民の受け入れ停止、モスク(イスラム教の礼拝所)の建設禁止、イスラム教の聖典コーランの発禁、イスラム女性へのスカーフ課税などだ。

ウィルダース党首の悪名が世界中に知れ渡ったのは08年、反イスラム映画「フィトナ」をネット上で公開したときだ。

10年には米中枢同時テロ9周年に現場のグラウンド・ゼロを訪れ、周辺で持ち上がっていたモスク建設計画に関し「ノー・モスク・ヒア(モスクを建てさせてはならない)」と演説した。

イスラム過激派のテロを警戒して、ウィルダース党首には厳重な身辺警護がつく。「非寛容に非寛容なだけだ」と説くウィルダース党首はEU拡大に伴って党勢を伸ばしてきた。

Netherland(オランダの)の「N」と出口(Exit)を合わせた造語「Nexit」でオランダのEU離脱を呼びかける。

「EU離脱はわれわれの主権を回復させるだけでなく、オランダ経済を浮揚させる。オランダは危機から脱出できる。Nexitは雇用を創出させ、市民と企業の収入は拡大するのだ」

「EUから離脱さえすれば、ブリュッセルやひ弱な南欧諸国のために何十億ユーロも支払う必要がなくなる」

「EUの規制から逃れることで、何十億ユーロも節約できる。大量の移民に終止符を打ち、たとえばルーマニアやブルガリアからの移民の社会保障費を肩代わりしなくて済む」

ウィルダース党首は巧みに反イスラム、反移民と反EUをリンクさせ、党勢を伸ばそうとしたが、欧州議会選で反EU票を集めることはできなかった。反EU層は自由党(PVV)への投票ではなく、棄権することで抗議の意思を表示したのかもしれない。

02年のフランス大統領選では、国民戦線(NF)のジャンマリ・ルペン党首が第1回投票を2位で通過し、決選投票でシラク大統領に敗れた。

現在のマリーヌ党首はジャンマリ・ルペン氏の三女である。マリーヌ党首は12年のフランス大統領選で17.9%を得票。今年3月末の統一地方選でも国民戦線(NF)は12の都市で第1党になった。

事前の世論調査で国民戦線(NF)の支持率は23.5%で、フランスの第1党になる可能性が強い。マリーヌ党首の躍進を止めることができるのはオランダ同様、フランスの無関心だけだ。

25日には、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、スペインなど21カ国で欧州議会選の投票が行われる。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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