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日米中の微妙な三角関係 「さまよえる靖国」(14)

木村正人在英国際ジャーナリスト

日経新聞の吉野直也ワシントン特派員によると、オバマ米大統領は3月下旬にオランダ・ハーグで開く核安全保障サミットの機会を利用して中国の習近平国家主席と会談する方向で調整に入ったそうだ。

一方、日本政府は4月に予定されるオバマ米大統領の訪日や、秋のアジア太平洋経済協力会議(APEC)などの場で日米首脳会談を開催する方向で調整しているといわれている。

三角関係で一番、気をつけなければならないのは2対1の局面に追い込まれることである。

日本はかつて「日米英」の三角関係からはじき出され、第二次大戦に追い込まれた。1922年のワシントン軍縮会議で日米英仏の4カ国条約が締結され、日英同盟が破棄されたのが大きな転機になった。

日英が団結して向かってくることを恐れた米国は日英同盟の分断を図った。アジアの権益を守りたい英国にとって日英同盟を破棄するのは得策ではなかったが、それ以上に米国との対立を避けたかった。

現在、アジア・太平洋の安全保障は「日米中」の大きな三角形に加え、韓国、北朝鮮、オーストラリアなどにかかっている。中国は日米同盟に相互不信を植え付け、できれば亀裂を入れたいと考えている。

安倍晋三首相の靖国神社参拝で日中対話に期待できなくなったオバマ政権は、日中の偶発的な衝突が米中戦争に発展するリスクを抑えるため、米中のチャンネル強化に動かざるを得なくなった。

先の大戦で日本は国際情勢を読み切れずに孤立、その挙句、悪魔のヒトラーと手を結ぶ愚を犯してしまった。安倍首相の靖国参拝を強硬に求めてきた自称「保守勢力」にもそろそろ目を覚ましてほしい。

世界はインターネットで結ばれ、靖国は日本の国内問題では済まなくなっている。籾井(もみい)勝人NHK会長の従軍慰安婦発言も瞬く間に全世界を駆け巡った。日本の過去を正当化するために国際社会を侮辱することに一体どんな国益があるのか説明してほしい。

「日本のことだから放っておいてくれ」と言ったって、否応なしに日本は世界に組み込まれている。北朝鮮の核・ミサイル、尖閣問題を抱える東アジアは今や「世界の火薬庫」とみなされている。

籾井会長に代表される自称「保守勢力」の「居直り史観」は米国を日本から遠ざけ、中国に近づけるだけだ。

ロンドンのシンクタンク、英王立国際問題研究所(チャタムハウス)で1月13日に講演したダニエル・ラッセル国務次官補(東アジア・太平洋担当)は南シナ海や東シナ海の領土問題をトップリストにあげたものの、「領土問題は中国を非常に多くの近隣諸国と対立させている」と述べた。

米国は他国の領土問題に立ち入らないという大原則を確認しただけかもしれないが、中国への配慮がにじみ出る。

フィリピンが領有権を主張する南シナ海のスカボロー礁に中国がコンクリートブロックを設置するなど実効支配に着手したことには一切触れず、観測史上最大規模の超大型台風30号「ハイエン」の救援活動に言及しただけだった。

その一方で、ラッセル氏は安倍首相の靖国参拝や、従軍慰安婦問題を念頭に「日本が近隣諸国との間で緊張、時には敵意さえ生み出す歴史問題に対処できるよう米国は支援していく」と述べ、歴史問題でアジアの緊張が無用に高まることへの警戒感を強く示した。

質疑応答に入って、日米同盟に触れ、「沖縄の米軍普天間基地の名護市辺野古への移設は21世紀に向け、新しいカギとなる」と評価した。

米軍は実務面で中国人民解放軍とのコミュニケーションを促進しているという。オバマ政権は中国との「対立」ではなく、「協調」を求めていることがありありとうかがえる講演内容だった。

まず、米国は中国との冷戦を望んでいない。だから封じ込め政策はとらない。これは米国の民主党にも共和党にも共通した方針だ。

「日米同盟を保険にして、(発動することなく)中国との関係を強化したい」(オバマ政権にアジア政策を提言する民主党系知日派の重鎮、ハーバード大学ケネディスクールのジョセフ・ナイ教授)というのがオバマ大統領の対中戦略である。

「日米中」の三角関係の中で、日本の立場は非常に難しい。ロンドンでの国際議論に耳を傾けていると、筆者には「米国は日本をダシにして中国とうまくやりたいのだ」というように聞こえてくる。

これを見越して、中国は韓国と連帯、日本にターゲットを絞って「尖閣」と「歴史問題」で揺さぶりをかけてくる。日本の自称「保守勢力」はすぐにカーッとくるので扱いやすい。日韓をけしかけて「アジアの問題児は日本」という論理のすり替えが行われる。

しかし、フィリピンのラモス元大統領は同国の有力紙「マニラ・ブレティン」への寄稿で、安倍首相の靖国参拝について、「旧日本軍の占領に(中国と同様に)悪感情を抱いている。しかし、憎しみを抱き続けることでフィリピンの未来が危険にさらされたり、損なわれたりするのを望んでいない」と、中国や韓国のようには騒ぎ立てる考えがないことを示した。

籾井会長がエリート集団・三井物産の副社長だったことに唖然とするが、ラモス元大統領の真意は何か。朝鮮戦争、フィリピン国内の非常事態宣言、クーデター未遂事件をくぐりぬけてきた軍人出身のラモス元大統領は籾井会長ほど単純ではない。

(つづく)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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